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「 」が言えない
305号室 今日からここが僕の部屋だ 白い壁をひとり見つめる すると、壁に細い亀裂が入っている 亀裂はドアのような長方形に 壁を区切っている 僕は区切られた壁に手を押し当て 引き戸のように横にスライドさせてみた すると開いた、未知の部屋への入り口が 壁の向うにこんな部屋があるなんて 不動産屋さんは言ってなかったけど 秘密の部屋のなかは真っ暗 でも不思議と落ち着く場所 僕はその日からこの「304号室」に 入り浸るようになった ある夜、僕は闇に眼が慣れてきて この部屋はとても広いことに気づいた 部屋のずっと向うの隅っこで 若い女の子がうずくまっている 後ろ姿に見覚えがある。303号室の子だ 女の子は膝を抱えてしくしく泣いていた 訳を聞いたら 「わたしは を知っています」 「 を何と呼べばいいですか」と言う 空欄には何が入るのだろう 「 が言えないのです」 どうやら言葉が一部話せないらしい 彼女は震える指で僕を差した 「僕?僕のこと?」 よくよく話を聞くと彼女はある日突然 「あなた」と言えなくなり、恋人も友だちも 失って一人になってしまったのだと言う だからこの「304号室」に閉じこもって 一人泣いていたのだと言う 僕らは翌朝から一緒に出かけるようになった 「あなた」が言えなくても構わない だって二人のうちで「わたし」以外には あなたしかいないのだから
「 」が言えない ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 856.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-11-01
コメント日時 2018-11-19
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
物語風の展開に引き込まれました。 〈よくよく話を聞くと彼女はある日突然 「あなた」と言えなくなり、恋人も友だちも 失って一人になってしまったのだと言う〉 この部分が、説明的な要素が強い一方で、あなた、を言えない人が、それを説明する、という部分もなんだか、理屈からいうと、変だな、という感覚が残り・・・ 指さした、というところで、「 」を言えない、でも指させる、ということは伝わる、ので・・・ その指さした手を、取ってあげたらどんな感触だったのだろう(すり抜けてしまい、悲しそうなまなざしだけが残る、のか、それとも、水のように冷たい指が、僕、の手の中に滑り込んできたのか、あるいは、懐かしい温度を感じさせる指、であった、のか・・・)そこを知りたくなったのですが、どうでしょう。
0発想があると思った。一つの短いミステリアスな作品としてまとまりのある作品だと思う。ただ作者には傑作を生み出す余力があると私には思っていて、過去の投稿作品も含めて、そのような観点からの魅力を感じている。余力が感じられるとは抽象的な評になってしまっているけれども、本作に沿って語れば、秘めた情景描写の核にあるレトリックがわかりやすいということ、つまり「 」という空白。レトリックがわかりやすいとは、読み手が既に知見としてあるレトリックとレイヤーとして重ねやすいということ。作者がまだ持っているであろう未遂に終わっているレトリックが誰もが想起し得ないものとして私の前に登場することを期待している。
0すみませんコメントを頂いていたことに気づかず返信が遅くなってしまいました。 まりもさん ご指摘の通り僕はこの詩を物語として書いてしまい、そのため説明的箇所があちこちに見られます。情景描写に力を入れたため…というのは言い訳に過ぎず、単なる作者の力量不足です。 「指さした手を取る」というアイデアは正直思いつきませんでしてコメントを拝読してハッとさせられました。まだまだ修行が足りませんね。もっと頑張って「おお!」と言われるような作品をそのうち書きますので期待していてください。 みうらさん 仰る通り、読み手に伝わりやすいことを優先して既知のレトリックを多用しております。一つの作品としてまとまりを持たせようとした挙げ句、過度に守りの姿勢に入っている可能性もあると認めざるを得ませんね…。 「発想」の壁に今僕は突き当たっていて、そこを打ち破る力が今後の課題と認識しておりますので、そのうち「誰も読んだことのない」斬新な詩を書きますので期待して見守っていてください。
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