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さよならの角度
虹の飛沫(しぶき)をあげながらゴンドラは進む たった一人の少女を乗せて 少女は死への旅を希望した 「もう二度とあんな風に感じることはできないだろう」と確信したから 決意は石のように固かった 少女は美しかったが剥製になることを拒んだ 見せ物になるのは御免だった 「視線を束ねてリボンで結び、誰かにプレゼントできるのなら良かったのだけれど」 少女はため息をついた ゴンドラは機械の国に至った 少女はそこで時計仕掛けのウサギを買った 不思議の国には行けなかったから 少女が生きていたのは大人の国、彼らの国であった 時計仕掛けのウサギを抱きしめると、お腹から神話の記憶が孵化するように思えた 「なんてやわらかくやさしい気分なのだろう」 少女の吐いたあたたかい息はほうき星になった ゴンドラは鏡の国に至った 少女はそこで座っている猫をかたどった鏡を買った 猫は好きだったけれど飼ったことはなかったから 鏡をのぞくと複雑な形をしたパズルのピースのような少女の顔が映った 「世界のどこかには私と同じ碧眼の、一人が好きだけどずっと一人でいたいわけじゃない屈折した猫がいるのだろう」 そんなことを考えて少女は薄く笑った ゴンドラは夜の国に至った 少女はそこで刹那と永遠を二重結合させ青白い星を作り、夜空に打ち上げた 嫌いになったわけじゃないことを伝えたい人がいたから 「遠い未来、この星が北極星(ポラリス)になって旅人たちの道しるべになりますように」 少女は祈るように手をあわせた ゴンドラは雨の国に至った 少女はそこで雨に打たれ続け肺炎になった 息も絶え絶えになり、涙でサヨナラと書いたけれど、何度書いても涙でできたサヨナラは雨に溶けて流れてしまった 「いいわ、この雨はいつか私の街にも降ってみんなにサヨナラを告げるから」 少女は目覚めない夢に墜ちていった ゴンドラは進む 始まりと終わりの国を目指し 時計仕掛けのウサギ、猫の形をした鏡、そして生命のバラ一輪を乗せて 虹の飛沫をあげながら
さよならの角度 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1392.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-09-25
コメント日時 2018-10-27
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
いにしえの児童文学っぽい。
0拝読しました。めちゃくちゃ綺麗で儚い詩ですね。「少女」は、神なのかもしれませんし、無垢なる者にしか備わっていない感覚を描いているのかもしれないと思うと、星の波に漂っているような、そんな気分になれます。面白かったです。
0渡辺八畳さま 読んでくださりありがとうございます。 そうですね。詩というよりも児童文学や絵本で表現するのにふさわしい題材かもしれません。小川未明っぽいような気もしますし、ご指摘非常にごもっともだと思います。「さよならの角度」というタイトルだけは現代詩風かもです。 コメントくださり本当に感謝です。
0じゅうさま 読んでくださりありがとうございます。 面白かったという感想をいただき非常に嬉しいです。 主人公の少女は人間や人間の世界すべてが嫌になって死に向かったわけではなく、失われた感性がもう戻らないことに対する失望が死へ向かう動機になっているので、純粋すぎる存在ではあると思います。そこに、神性や聖性が宿り不思議なことが可能になるという解釈はできますね。星の波に漂っているような気分、というのはじゅうさまの鋭い感受性の賜物でしょう。 コメントくださり本当に感謝です。
0仲程さま 読んでくださりありがとうございます。 物語を進めるために説明的な文を多くすると、詩としての強度が下がるのを経験しました。なので、本作も説明は最小限にしています。結果として読み手の感受性、想像力に依存している部分は大きいです。 タイトルは少し変化球かな、と思っていたので、本文すべてにかかってくる、と批評いただきホッとしました。 コメントくださり本当に感謝です。
0メルヘンチックでありながら、少女の芯の強さがこの詩に強度を与えている。少女は目覚めない夢に墜ちていった、とあるがこれは少女の死を暗示しているのだろうと解釈しました。ゴンドラに残ったのは、今は亡き少女の鉄の意思だけ。そう読み取ると、最後の一節「虹の飛沫をあげながら」もどこか不穏で不気味な印象すら漂わせると思いました。よかったです。
0stereotype 2085さま 読んでくださりありがとうございます。 そうですね。少女の芯の強さ、意志の固さがないと誕生しなかった作品だと思います。 「少女は目覚めない夢に墜ちていった」という一文は、少女の死(肉体的な死)を暗示するものとして書いたので、きちんと読み取っていただけて嬉しいです。 コメントくださり本当に感謝です。
0メルヘンな読み物に接することがほとんどないので新鮮に読めた。ただ、各節の末尾がすべて「た」で終わっているので、読んでいるととても単調になってしまい、良い内容であっても醒めてしまう。メルヘンな内容なだけに醒めてしまうのはとても惜しいと思う。「さよならの角度」というタイトルはとてもセンスがあると思う。それに惹かれて読む気になったし、描こうとされている世界はまだ、未完成さがあるとは思うけど、箱庭のようで、その箱庭を俯瞰する視点として、タイトルが関連付けされている。だからセンスがいいと思う。この世界を書き切るには難易度高いと思いますが、完成された箱庭を読んでみたい。
0三浦天才詩人果実さま 読んでくださりありがとうございます。 私の好きな詩には文末がすべてa音のものがたくさんあり、そこにリズムや切実感を感じるのですが、「単調で醒めてしまう」というマイナスの効果があると教えていただき非常に勉強になりました。 まだまだ未熟なのは自覚しているので精進したいと思います。 タイトルのセンスがいい、との言葉をいただき、自分でもこのタイトルがより好きになりました。 コメント、鋭いご指摘本当にありがとうございます。
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