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生垣
浴衣に草履ばきの幼い影が 砂利を蹴って駆けていく小径に 夕闇の匂いが降る 道端に続く 蔓草に覆われた垣根の向こう ほろ甘い気配が満ちて こぼれ落ちてくる ーーあの生垣は もともと 何十年も前に組まれたただの鉄柵だった 小学校があってね 校庭の周りにめぐらせていたんだ 放課後になると どの子も 鞄を放り出してやってきたものさ かぼそくなまじろい腕や脚を柵にからめては 冷やかな感触にはしゃいで はしゃぎ疲れて もたれかかったまま瞼を閉ざすうち とうとうからめとられてしまって 子どもたちは 戻ってこなかった ごらん 笑っている―― 指差す先にほの浮かぶ 青白いカズラの花 いくつも それは怪談のつもりだったのかもしれないが うまく怖がることができなくて 錆びた鉄柵にまつわる蔓のうねりを 黙って眺めていた 中には 時折 支柱を離れて宙に伸ばされた 小さな手のひらも交じっている かすかに揺れる指先は しかし 垣根の向こう側へ誘いこむふうでもなくて きっと 戯れに 通りかかった誰かの袖をつかんでみたいだけ 遠くで打ち上げ花火が空を破った 極彩色の光が白い花びらに映る もう帰ろうと促されて歩きだす砂利道 でも なんだか 鼻緒に足を痛めたふりをして 立ち止まる と どこからか子どもたちのささめきが 耳に忍び入ってきた 振り返る代わりに 生垣の方へ 心もち袖を寄せてみる 絡めとられてみたいわけでは ない けれど 初出:「さっぽろ市民文芸」第27号
生垣 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1407.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-08-13
コメント日時 2018-09-07
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
怪談調の語りが好きです。ぼくだと四連で止めてしまいそうですが、その後の流れが切ない心象を描いていて、しっくりと来ました。
0なつかしい、感じだなぁ、と思っていて・・・こどもがからめとられる、あたりでゾワゾワと来ました。うまい❗
0コメントありがとうございます! >帆場蔵人さん 怪談っぽく終わらせるなら、四連より後は蛇足かもしれませんね。でもしっくり来たと言っていただけて、うれしいです! >まりもさん 「うまい」と言われることは滅多にないので、ちょっとテンションが上がりました。ありがとうございます❗
0すみません、「なまじろい」がひらがなで「青白い」が漢字なのはわざとですが、 「からめとられる」が1ヶ所だけ漢字なのはうっかりミスです。。。 (初出時は漢字でしたが、今回の投稿でひらがなに改めた、つもりでした) 深読みしたくなるタイプの皆さん、どうぞお目こぼしください。
0こんばんは。すでにコメントされていますが、懐かしい印象をうけました。実際には体験していないのに懐かしく感じるのは、語り口がそういう部分、内部にある類型的な部分にリンクするものをもっているからなのでしょう。 ふと「逢魔時」という言葉を思い出しました。昼夜の境目には不思議とそんな気持ちになることが、かつてあったように思います。
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