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もうなにもかも知らないし何も知らなかった
今年のサイコーキオンを弾き出したことを、ニュースサイトから告げられた日、あまりにも金が無さすぎて点けられなかったクーラーのスイッチをついに押してしまった。ついに。言っても昨日と1℃しか変わらない。だけど僕はニュースサイトのたった一言に押されてしまった。きっと来月の電気代は彼女に借りるはめになるだろう。ワリーな未来の僕。ワリーな目下バリバリ仕事中の彼女。こうやって、冷風にあてられていろいろ空っぽで横たわってると、空いた隙間を自分以外のなんかに埋められて、ゆっくりと膨張していく気がして。あのなんだっけ昔よく見かけた、水を吸って何十倍にも膨らむ恐竜のオモチャ、名前も知らないけど。あれって最後どうなんだろ。そのまま、曖昧になった境界線が、欠けゆく夕陽のように小さく震えはじめ、僕は少しづつフローリングの下へ沈んでいった。って、なんだそら、ちょーくだんにい。自分を保とうぜ。おっぱいのどでかい店員さんの事とかを考えて、 そうさ、近所のコンビニに新しく入った女の子が、お釣りを渡すときにけっこー強めに手をにぎってくれるんだけど、その子と僕がエッチするまでの妄想をさ。とりあえず笑顔がかわいくて、そしてなによりおっぱいがアットー的にどでかい。なので当然そこに掛かっている名札も確認しているはずなんだけど、まあさっぱり頭に入ってなくて。つまりおっぱいを除いてほとんどなんにも知らない子だ。僕はそんなほとんどなんにも知らない子を、なんにも知らないまま好きになって、なんにも知らない夜に、誰からも知られずに二人きりになる。そうして見つめ合ったその子のことを、一体なんて呼べばいい? けっきょく最初に思い浮かんだ名前がナナコで、それでなんかもうどうしようもなくなって、とにかくどうしようもなくて、つーかおっぱいだってけっきょくはブラ越し、制服越しの単なる想像で、ジッサイのところ恥じらうナナコが僕の前で制服をはだけて、これねサイズがあれだからあんま可愛いのがないんだとかどうでもいいことを言いながら、僕もそんなことないよすげー可愛いと思うとかどうでもいいこと言いながら、ホックを、そう、だって外すんだし、そしたら、それまでしっかりと膨らんでいた境界線も、どこか曖昧になっちゃって、僕たちは欠けゆく夕陽のようにベッドの下へ沈んでいく。 いや。いいよいいじゃん。張りがどうとかそんなん、ぜんぜんいいでしょ。よくないよ。ガッシャーン。ナナコは唐突にそうはならないもの全部を机から払い落とし、その手をそのまま受け皿みたいに大きくひろげ「この世界にパスタの具にできないものはないよね」ってバカみたいなふりして笑う。で、なんかいろいろあってけっきょくまたエッチする。そんな関係。それがいいんだ。だって暑いから。サイコーキオンだから。この部屋、クーラー、めっちゃ効いてるけど。 こんなことを繰り返しているうちに夏やらなにやらが過ぎ去って、今はコンビニに見つけられる女の子も、気付かないうちにどっか行っちゃって、退屈な日にきみのことを思い出したりするならそれはそれでよくって。んそうか? そんなよくはないな。いまのはナシだ。僕はえっと、きっとただ、こんな自分なんかを受け入れてほしくなかっただけで、ん、いや、違う。僕には11人くらい彼女がいて、違う。僕はたしかきみの、規則的に強弱をつけてチップスを噛む音が、いつだって気に入らなかった。そう、かな。僕はきみの、喧嘩するとすぐに黙りこくって待ちに入るスタイルが気に入らなかった。僕は、きみのページを捲ってはすぐに戻る読み方が、僕は、カーペットの起毛なんかと簡単に一緒になってしまうきみの、細い髪の毛をよく気にしていた、僕はミキの、違う。誰だ。でもきっとポニーテールだ。じゃなくて僕は、きみとエッチがしたい、違う。違う? じゃあ、きみじゃなくてもいい、違う。いや、違わない。じゃあ、僕は、僕はきみの、 細い髪の毛を、「愛してるよ」とひと撫でし、コンビニへ向かう、きみはきっと、僕に向かって何か言っている。でももう知ったことじゃないんだ。僕は聞こえているふりをして手を振る。きみも応えて手を振っている、と思う。それはとても優しい拍数だ。その手を大切な人とも繋いだし、声だって何度も殺した。だけどね、僕はこのまま僕のこの手で、ぜんぜん知らないコンビニ店員の女の子の、僕よりなんだかずっと小さかったような気のする手を引いて、なんだかとてつもなく大きかった気がしてるおっぱいを揺らしながら、二人で息を切らし、どこだか遠くの夕陽が見えるところへ行きたかった。そうして残されたきみは、この部屋からまたべつのどこかへ行くまでのわずかな時間を、どうして過ごすんだろうか、とか、そんなことを思いはせるより先に、 コンビニの自動ドアをくぐると、レジにはぜんぜん知らない若い兄ちゃんが立っていた。だって僕は、誰のシフトも知らないわけで。仕方なく、気晴らしの炭酸飲料だけ買って帰ろうとしたら、なんか、店員の兄ちゃんのお釣りを渡す手が震えてて、それに気が付いた瞬間、受け取るためだけに差し出した僕の手も、小さく震えはじめた。
もうなにもかも知らないし何も知らなかった ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1237.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 20
作成日時 2018-08-13
コメント日時 2018-09-05
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 5 | 5 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 20 | 20 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 5 | 5 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 20 | 20 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ゼンメツさんが隠している中身を誰も言わないし、本作にコメントが付かなかったらビーレビってやっぱリア充のハイソ(死語←いやこの死語自体が死語)やろう等の集まりかよってなっちゃう。なので、ゼンメツさんの愛に言及したいと思う。 ウンザリする観点かもしれないけれど、やっぱ肉体の恋愛なんていらなくて精神で繋がっていたいんだよね、なかなかそういう人に出会えないし、いるかもしれないけど面倒だし結局はお金とかになっちゃうよね、死ねばいいのかな、死ぬって持ち出さないと君は現れてくれないのかな、べつに女の子じゃなくてもいいわけよ、男だっていいしぽんこつだっていいから震えたいよね、精神とか詩(笑)が繋がって震えたいんだよね、ということをゼンメツさーん、僕はあなたに自己投影しているんだ。こじらせっちゃってるおっさんな僕は。
0気を使いながらこじらせちゃってるおっさんと気を使わせながらこじらせてるおっさんが震え……なにこれ、なんかごめんなさい。お互いにいつまでもキモエモいおっさんでいたいですよね。でも今批評書き終えましたので、大丈夫です。でもでもせっかくなんでありがたく書いておきます。コピペでごめんなさい。 今作は、うざったい今年の夏の熱波のように、 過ぎ去ったあとにはもう忘れていいような感じのものを書きたくて、 つまり、むだーに長くて、ただただ鬱陶しくて、 読んだらそのまま思い返しもせず、 「ばーーか!」とか「きもい!」とかってだけ言ってもらって もうそれで終わりにしちゃえそうな、そんな詩を書いてみたかったです。 ふふふ、これだけ言えたらもう満足です。
0女の子は胸じゃないんですよ、おっきくなくたっていいじゃないですかー、走る時重いらしいですよ、邪魔みたいですよ、私は分かりませんけど、ぷりぷり。とここまでは冗談で、ゼンメツ様の3作目、楽しみにしておりました!無題もきみのしおりも良かったですが、これも面白い。ナナコでセブンイレブン思い出して、いや、なんかもう笑笑センスいいなって思うのです。しかも、妄想のクオリティが、高い。私も背が高くて、肩幅広くて、強面で堅物な理想の男性と畑仕事する妄想を楽しみたいと思いました。だって、サイコーキオンですしね、私の部屋もクーラーきいてるけど。
0ナナコも「いろいろなものが軽くなればいい。お財布みたいに」って、そう言ってました。しかし、むっちゃいい理想の男性像です。なんだかそれだけでもう書けそうです。僕も理想の女の子を話者にした詩を書きまくってました。創造できるってしあわせですよね。たまには手が震えますけど。
0サイコーキオン、ニュースサイトサイコーなどと、自作「サンプリング(REFRAIN)」にお借りして、タイトルまで詩の一節として拝借したのに、気に入ってるフレーズはあるのに、この詩をどう読んでいいか分からない自分がいました。こう言うと笑ってしまいますが「すみません」。この詩はコンビニの女の子と行為に及びたくて、及びたくて仕方ない男性の、真夏における妄想ということでいいでしょうか。それならば夏のエロ妄想は、こんな感じだよな、と一面思いました。この垂れ流し感、支離滅裂になる感覚。これは十代、二十代の男性のエロ妄想にいかにもありそうだな、と。しかし最後は現実に戻り、まるでプラトニックラブのように、男性に対して自分の手も震える。面白い、と思いました。
0ありがとうございます! なんかすみません! 僕が割とスーパー行間バカなので、どうしても「何にもない」ところをあまり作らないように書きこんじゃうんです。なのでいつもわりと読解して読むひとだけが楽しい詩ばかり書いてしまいがちなので、ここで僕にとってほぼ命題になってくるのが、「深読みしたくない人にも素直に楽しんで貰える作品」なんです。つまりぱっと見どうでもいい感じの作品をぱっと読んでもらって「ひゃーーどうでもいーー」って思ってもらうのも本当にひとつの理想なのですが、まだなかなか上手くいかないみたいです。 ちなみに含み部分がなに言ってるのかわかんなくてとにかくモヤモヤしちゃう人のためにスーパーざっくり裏側を説明すると、ラストフレーズの含みからタイトルの含み、そしてまた「僕は何に気付いて震えたのかという疑問」を抱いて第一連からと再度読み進めていくことで「自分」「もう知らない自分以外とのなんか」「自分以外との具体的な何かに気付かされる瞬間」の流れを知る。みたいな。そんな感じで描きました。「なにか」や「何か」は個人個人様々な解釈ができると思います。 けっきょくコメし辛い感じのを書いちゃってなんだかほんともうしわけないです! 読んでいただき本当にありがとうございました!
0〈曖昧になった境界線が、欠けゆく夕陽のように小さく震えはじめ、僕は少しづつフローリングの下へ沈んでいった。〉 〈それまでしっかりと膨らんでいた境界線も、どこか曖昧になっちゃって、僕たちは欠けゆく夕陽のようにベッドの下へ沈んでいく。〉 〈僕はたしかきみの、規則的に強弱をつけてチップスを噛む音が、いつだって気に入らなかった。そう、かな。僕はきみの、喧嘩するとすぐに黙りこくって待ちに入るスタイルが気に入らなかった。僕は、きみのページを捲ってはすぐに戻る読み方が、僕は、カーペットの起毛なんかと簡単に一緒になってしまうきみの、細い髪の毛をよく気にしていた、僕はミキの、違う。誰だ。でもきっとポニーテールだ。じゃなくて僕は、きみとエッチがしたい、違う。違う? じゃあ、きみじゃなくてもいい、違う。いや、違わない。じゃあ、僕は、僕はきみの、〉 〈細い髪の毛を、「愛してるよ」とひと撫でし、コンビニへ向かう、きみはきっと、僕に向かって何か言っている。でももう知ったことじゃないんだ。僕は聞こえているふりをして手を振る。きみも応えて手を振っている、と思う。それはとても優しい拍数だ。〉 〈二人で息を切らし、どこだか遠くの夕陽が見えるところへ行きたかった。そうして残されたきみは、この部屋からまたべつのどこかへ行くまでのわずかな時間を、どうして過ごすんだろうか、とか、そんなことを思いはせるより先に、〉 妄想全開、疾風怒濤の饒舌体、というムードですが・・・今、抜き出した、いわゆる「詩的」な部分を、あえて生活感のある地の文の中に埋め込む、埋没させる感じが、そもそも、境界線を曖昧にする、行為である、ような気がしました。日常の(それも脳内、体内の)妄想の中にある詩、その境界線を限りなく曖昧にしていく、行為。 最後の一連、急に「リアル」に戻って来たような感覚がありますが・・・〈近所のコンビニに新しく入った女の子〉を、〈ぜんぜん知らない若い兄ちゃん〉が実は、店の裏で殺してしまっていた、的な展開にも接続しそうだな、とも思いました。
0あああ、ありがとうございます! 本当にいつか批評をしてもらえることをずっと楽しみにしてました! そうなんですそうなんです。日常と妄想、他者と自分、自分からみた他者と他者、その言葉にするにはあまりにも複雑でもやもやした境界線、みたいなものを書きたかったんです。ラストは色々な解釈をもらえて本当に楽しく嬉しい詩となりました! 本当に本当にありがとうございます!
0何度か読んだのですが、最終的に自分を「部屋に残ったほうの彼女」に重ねてしまい、私も手が震えました。 以下は私の妄想です。 部屋に残ったほうの彼女とはもう長く、安定というより惰性で付き合っている彼女。ドキドキとかトキメキとかとっくに無いのをお互い分かっていて。そこで主人公はコンビニの女の子に冒険したくなる。普通より大きなおっぱいにワクワクして。 最終連の背後で、部屋に残ったほうの彼女がほくそ笑んでいるのを感じました。 コンビニの女の子はおっぱいが大きくて、そして純情な子でしょう。若くて可愛くて守ってあげたい、フェアリーです。 一方、部屋に残ったほうの彼女は、理解ある母性に溢れた彼女のフリをした悪女です。男性店員になっていてガッカリした主人公を待っているのは、何も知らない(フリをした)いつものわたし、あなたを受け入れることが出来るのはわたしだけでしょう?って言わないけど笑って「おかえり」って言うことに優越感を感じて、たいして大きくもないおっぱいで主人公を抱きしめたりする。 つまり、何だろう。主人公のうねる感情の裏では、この部屋に残ったほうの彼女の感情もうねっているのを感じたんです。 > で、なんかいろいろあってけっきょくまたエッチする これまで詳細に言っておいて「いろいろあってけっきょく」で纏めるこの一行とか、 > 僕はミキの、違う。誰だ。 この呂律が回らないどころか思考が崩壊している感じとか 文章の緩急が心地よくて、つまりはとても面白かったです!主人公にはグダグダ感を感じるのに、文章は一気に読ませるリズムと程よく息をつく場所もあって凄い。流石です。
0ありがとうございます! 「受け取るためだけに」を彼女との関係に掛けて考えると……結局作中の「僕」はアホなので、自分の世界の何かを破ろうとしても、方法がやっぱりアホなんですよね。最終連でアホが成功していたとしても本質的に「彼女から与えられるだけの僕」から抜け出せたわけじゃないだろうし、彼女もこいつがアホだとわかったうえで本当のところは同じくらい頭をぐちゃぐちゃさせながらも、このアホに与える側として毅然と居続けるんだと思います。そしてその事実がチクリと刺さるたびにまた「僕」の頭もぐちゃぐちゃになっていく。 こうやって彼女側に立った感想を頂けると、「どうしようもなさ」がまた露わになって、とってもとっても嬉しいです! ありがとうございました!
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