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BREVIEW5月選評
BREVIEW5月選評 ★大賞作品 鈴木海飛 次の日と次の人のために ★優良作品 survof E♯minor R Elegy こうだたけみ 名づく ★推薦作品 藤一紀 道化唄 北村灰色 吹き矢とジョークと皆殺しの仮面 enokiz 始発に乗って 二条千河 天守閣 鈴木海飛 「次の日と次の人のために」http://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1747 次の日と次の人のために、道が増える、地図が拡がる、そう始まる作品の時制は、現在から未来へ向かっている。それは夜に灯りを携えながら行われるのだ、と、暗闇に灯る灯の動きを暗示して始まり、翌日には橋の礎となって、人を向こう岸に渡す橋になりたいと願う。山道を切り拓いて進み、壊れた道を作り直しながら歩き続けることを願い(それは他者の切り拓いた道を作り直したり、放棄して別ルートを開拓したりすることでもある)、自らの見知ったこと、気づいたことを看板や標識として(後続の人のために)建てていくことを願いつつ、その標識が目立つことなく朽ちて、あるいは、燃やされて跡形もなくなってしまう事すら願う。「葉脈のようにひろがった私の旅路」という最終行の時制は、未来ではなく現在である。鳥と共に道を追い越す、それは過去の誰かが切り拓いた道を追い越していくことでもある。先に進むだけではなく、行き止まりを戻ることも、迷ってUターンすることもあるだろう、それゆえに網目状を成す旅路。詩作の森を切り拓いていくメタファーにもなり得るが、より広い意味での挑戦、チャレンジに対する意識へとつながる普遍性を持っている。はるか遠くの未来、ではなく、あとひといきで手が届く、そんなニュアンスの“次”が持つリアリティー。自分がいかに道を拓いていくか、ということが重要なのであって、後続の者がそれを参照しようと、否定しようと、あるいは、困難を予測する手がかりとしようと、今の自分には関係ない、ただ、そうありたいと願うだけさ・・・ すっきりとまとめられた、憧れの(ひとつの)生き方。向日性に強く惹かれた。 survof E♯minorhttp://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1703 E♯minorという、どこか艶やかな短調の醸し出す雰囲気、フィーリングを文体や情景で描き出しながら、肉欲的な貪欲さが自身に迫って来る不快感と、本能的な交感が馴染んでいる(他者の)姿を見る快感の交錯。触感的、具体的な描写で観念的、抽象的な感覚を捉えようとする意識を評価したい。 R Elegyhttp://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1754 豊かな自然を背景に、神々の“ゐた”時代を思い描きながら、現代まで続く時代をひとつの生命として捉える感覚が素晴らしい(細胞というイメージを呼び込み、その生命の中での生死、輪廻転生の反復による永続を暗示する)。二連目の途切れ途切れに吹く風の息遣いのようなフレーズ、歌うような終連による全体の抑揚もバランスが取れていると思う。 こうだたけみ 名づくhttp://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1782 ペンギンのぬいぐるみ(命のない、物体)に名前を付ける、というユーモラスな行為に、私と彼は、同等の意味を見いだしているのだろうか。「一方通行でかまわない」という、ぬいぐるみの「都合の良さ」を受け入れる自嘲的な諦念と、自身の思いの一方通行的な吐露への批評性が軽やかに描かれる。 藤一紀 道化唄http://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1726 春の叙景が地面への視点から始まり、空へと移動していく中で、空の晴れ間を傷と受け止める感性に魅力を感じた。夏の伸びあがるような生命力を予想しながら、そこに宿命を負った者の重さを見る重層性、そのアンビバレントを道化唄として諧謔の方向で捉えようとする姿勢に惹かれる。 北村灰色 吹き矢とジョークと皆殺しの仮面http://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1783 ゲームの中のような荒んだ現実と、実際に異国で起きている凄惨な事象とが、前のめりに言いつのっていくような文体、インパクトのあるイメージの連打、切り上げるような体言止めといった語り口の効果を活かして綴られていく。モチーフが盛り込み過ぎの感もあるが、その過剰性を含め、ひとつのスタイルを作っていると思う。 enokiz 始発に乗ってhttp://breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1788 一日の始まりを暗示する始発に乗りながら、行きつく先にはペラペラの即応の真理しかない現代。あらゆるものがエンターテインメントに換算され、すべてに広告がついて金銭的に消費されていくような虚しさに、探求すら放棄したくなる時代への批評性と、勢いのある文体に惹かれた。 二条千河 天守閣 breview.main.jp/keijiban/index.php?id=1804 自らの夢に向かって進んで行くことは、攻めの姿勢なのか、守りの姿勢なのか。自らを否定しながら先へ進むことの困難は、今現在の言動が、未来の自分に復讐されるという含みを持つ。個人的な見解だが、十年後の自分が、今の自分を見る視点を持ち得るかどうか。詩を読み書きする時にも、生活上の様々な困難に際しても、その視点を持ちたいと願っている。
BREVIEW5月選評 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1113.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
作成日時 2018-06-15
コメント日時 2018-06-16
取り上げてくださり、ありがとうございます!実はタイトルの「E#」って、つまりは「F」なんですが、誰も触れてくださらなかったのがちょっと残念でした。「どこか艶やかな短調の醸し出す雰囲気」というご指摘はとても嬉しいのですが、「E#minor」という調は「ない」です。
0ご講評ありがとうございます! 3月の「服喪」とは別角度ですが、過去の屍の上に成立している現在の生、そして現在の死を越えていく(しかない)未来の生、への個人的な関心が10年前から変わっていない(成長していない?)ことを示す作品でした。 その葛藤を読み取っていただけて嬉しく思います。
0こんにちは。選評お疲れさまでした。鈴木海飛さんの作品、よいですよね。最後まで残った作品のひとつで、さんざん悩まされました。 二条さん、Rさん、survofさんの作品を私もとりあげましたが、毎度ながらまりもさんのアプローチには目をみはります。 ユング派の分析的観点から作品を捉えるコメントをしばしばお見受けしますが、読みを深めるにあたっていまなお参考になると思っています。個人的にはA・ヤッフェによる「美術における象徴」やフランツ女史による物語分析等。 ところで、拙作「道化唄」にコメントを下さってありがとうございました。問題の最終連なのですが、《気だるさ》は書く必要はなかったですね。書くのであれば、そう感じるように書くべきだった。《鶯》の諳んじる《クーキョ、ココカシコ》を作中風景に響かせようとして、結果説明的にもなり、萎めてしまったようです。自分のものとなるとなかなか見えないから感謝です。遅くなり失礼ですが、いただいたコメントへの返信とさせていただきます。 選評、ありがとうございました。
0まりもさん、取り上げていただきありがとうございます。 本作は三年ほど前に、「名づく」というお題に対して書きました。まりもさんの評を読んでいて、〈彼〉と〈私〉は名付けの意味だけでなく、そもそもペンギンのぬいぐるみの捉え方からして違っていたんだなと思い至りました。そりゃ関係も破綻するよねって納得すると同時に、三年前の私もわかってたんじゃんって思いました。 気づきを得たならサクッと切り替え。 さーて、次いこ次〜。 ありがとうございました。
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