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菅田将暉くんへのファンレター
最近まったく泣けない。それはたぶん泣いている時間がもったいないからで、それほどまでに生活は忙しく、仕事はもちろんのことプライベートでさえもやるべきことで溢れかえっていた。そうしてすぐに月曜日はやってくる。月曜は菅田将暉くんのオールナイトニッポンの日だ。あっという間に一週間はやって来るのだから、おとといぐらいに放送されたんじゃないかと思うぐらいだけど、ちゃんと月曜と月曜の間わたしは存在していて、菅田くんだってどこかで『菅田将暉』として生きているはずだった。そんなのは誰だってそうで、全く連絡を取らなくなってしまったあなただって、あなたという看板を背負ってどこかで生活をしなきゃいけないのだった。たぶん、あなたは泣いてなんかいない。だってわたしでさえ泣いていないのだから。 あなたとお別れしてから眠れない夜が増えた。そんな夜は菅田くんのラジオを聴いてやり過ごしている。すると不思議といつの間にか寝ていて、朝にはぐしゃぐしゃになったヘッドホンが枕の横で添い寝しているのだった。菅田くんは映画やドラマでは標準語を話すけれど、ラジオでは大阪弁をしゃべっていた。調べると菅田くんは大阪出身で、その独特なイントネーションはとても心地の良いものだった。そうして東京弁で育ったわたしを安心させ、ついに夢の世界まで連れていってくれるのだった。それはたぶん、あなたが大阪出身だということとは全く関係ないと思うし、デートの待ち合わせで緊張していたわたしに「こんにちはー!15分遅れそうやわ、ごめんやでー。」って電話してきて、肩の力が一気に抜けたことは、もっともっと関係がない。そもそも菅田くんはきっと彼女を待たせたりなんかしない。だから今は菅田くんのファンだ。 きのう、菅田くんが主演している映画『サレ半島の夢』を観た。菅田くんはADHDと診断された男の子の役で、仕事でたくさんミスしてしまうのだけれど何とか周りの助けを借りて、無事に出世し彼女と結婚するハッピーエンドの映画だった。その役の子は、時間が守れなかったり、すぐに忘れ物してしまったり、段取りが下手で仕事もうまくこなせない。ラジオで菅田くんが「でもねー、僕思うんですけど、その主人公の子、めっちゃええやつなんですよ。めっちゃおもろいし、楽しいやつやねん。だから、僕もADHDのこととかようわからんけど、頭ごなしに怒るとかじゃなくてね、お互いのことを理解してね、一緒に楽しく生活していけたらなって思うんですよ。」それを聞いて全くその通りだと思ったし、菅田くんは本当に心が広くて大人だなと思って、ますます好感が持てた。人はひとりひとり違うし、目の前の相手を一生懸命理解して、共に歩みあっていくべきなんだと思う。それは全然間違ってないし、誰がなんと言おうと、覆されることのない人類のスローガンなんだと思う。 あなたはたぶん、ADHDだったんだと思う。医者じゃないから診断はできないけど、付き合う前の時期に「俺、たぶんそれやねん」って言ってて、わたしの反応をうかがっていたのを覚えている。ふたりでご飯食べようって言ってるのにその前に友達とお酒飲みすぎてベロンベロンになっちゃったことも、優先順位がつけられなくてスケジュールを片端から入れちゃって全然デートできなかったことも、スマホを紛失してしばらく連絡が取れなかったことも、なんだかわたしには何ひとつ理解することができなかった。分かり合おうなんて余裕はなかったし、逆にわたしのことなんか好きじゃないんだろうなと捉えてしまって、あなたのことが嫌いというよりも、あなたと付き合っている自分が嫌いになり始めていた。わたしには何の病名もついていないから、他人より自己肯定感が低いことも、神経症的で不安感が強いことも、あなたは知る由がなかった。 わたしもADHDになりたかった。そうしたら、あなたのアレコレもすぐわかって、上手くコミュニケーションを取れたのかもしれない。色々大変なこともあるのかもしれないけれど、あなたのことが分かるのであれば、きっとそっちの方が全然良かったのだ。だけどそんなことを言ったってもう仕方がなくて、わたしはわたしという看板を背負ってまた明日から生きていかなくちゃいけない。わたしは映画の中の女優みたいに、あなたと結婚するような器の広い女にはなれなかったし、人類が掲げるスローガンさえ守れなかった。結局、理想は理想としてしか思っていなくて、自分の人生はまた別物なのだった。この間、お付き合いしてくださいって言ってくれる人が現れたけど、今は菅田将暉くんが好きだからって言って断ってしまった。そうしてまたすぐ月曜日はやってくる。泣いている暇がないくらい忙しいけど、たまには明日、二度寝でもして寝坊しようかな。そうしたら、ちょっとはあなたのことが分かるのかもしれない。 ※この作品はフィクションです。実在の人物(俳優の菅田将暉さんなど)や団体とは一切関係がありません。
菅田将暉くんへのファンレター ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2643.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 88
作成日時 2018-06-03
コメント日時 2018-07-17
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 23 | 8 |
前衛性 | 8 | 8 |
可読性 | 21 | 11 |
エンタメ | 4 | 4 |
技巧 | 25 | 25 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 6 | 1 |
総合ポイント | 88 | 58 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 7.7 | 5 |
前衛性 | 2.7 | 0 |
可読性 | 7 | 10 |
エンタメ | 1.3 | 0 |
技巧 | 8.3 | 0 |
音韻 | 0.3 | 0 |
構成 | 2 | 1 |
総合 | 29.3 | 30 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
花緒さん、こんばんは。 コメントどうもありがとうございます。 ※以下がオチと感じられたとのことですね。 確かに菅田くんをモデルにはしているのですが、菅田くんが出演していると書いた映画(実際、サレ半島の夢という映画は存在しません)やラジオでのセリフなどは全くのフィクションですので、このような脚注を書かせていただきました。 ちょこちょこ嘘が混じっているにも関わらず、リアリティを感じていただいたことは喜ばしいことかもしれませんが、 結局脚注に全て奪われてしまったとなると、筆力不足を感じますね。 それか脚注を別の書き方で書けば良かったのか…。 うーん…。 お読みいただきまして、どうもありがとうございました。 しばらくの間、修行させてください。 よろしくお願いします。
0こんにちは。こんなふうに「わたし」は何かにつけて架空の「菅田将暉くん」を登場させて、思いを馳せながら、それをダシにしつつ、「あなた」や「あなた」と「わたし」の関係のありかたを思い返して、前にすすんでいくのだろう、と考えてみました。そういうことってあります。
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