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選評【人間の存在モードに合わせて存在に対する無自覚さが自覚される】
評者:シアター伊藤 今月は数多くの作品が投稿されたが、その中でとりわけ優れていると思ったのが㌧㌧さんの『帰られないときに旅に出たということ』である。 引用符は。 斜線を引かれ。 腐敗した。 イフに固着する。 最終連のこのイフが表すのが、英語のifであると同時に畏怖であることを想像するのに、読者は少しも抵抗を抱かないだろう。その意味では極めて重要な思想的事実として、この詩は文脈依存的であり、送られるべきはその文脈を浮き彫りにしたことに対する、最高級の賛辞なのである。 次に私が推したのは、サイバーパンク松永による『即興交響曲 第三番』である。この詩の主旋律の解釈は、かのシベリウスのアンダンテ・フェスティーボと、まごう事なき一致をみる。それは次のような文章である。 夜明けを前に人々は立ち竦んだまま話を始めた。打ち合わせもなしにする会話のように、なんの緊張感もない、しかし倦怠もない逸脱まみれの会話だった。私が立ち上がってそれを遮ろうとすると、人々はこれも演奏の一部なのだと私を不安がらせた。……(中略)……そんな印象が、作品内部には読み取れる。 ひとえに、これは作品の中における多重構造なのである。それも、ただ端的な多重構造ではなく、時間的な多重構造である。これは、一つの時間の内部で別の時間が流れているという、時間の入れ子構造なのである。このような多重構造を明瞭にするには、『黒ノート』の次のような記述を参考にするのがいいだろう。 現存在の根源性に遡及する力があるとするならば、それは時間的な了解なくして非時間たる、無時間的な時間を見出すことであろう。 ここで著者であるハイデガーが言おうとしていることには諸説あるが、内的な時間のずれこそが作品の強度となる、ということを意味しているのだ。 最後に、翠みづ鬼さんの『テリーヌって蒲鉾の坂にありますか』を私は推す。読み始めればわかることだが、これは輪廻転生した相手を追いかけて冥界を彷徨い、ついには蒲鉾の魚に転生した相手を切るための包丁になり、実際に一般家庭に買われてその蒲鉾を切ってしまうという話なのだが、蒲鉾に魂があるかどうか不明ということを差し置いても、これは死者の飽くなき復讐の物語なのである。 自分という包丁を使ってくれたことに気づいたとき、涙が怒涛のように溢れ出た。だがすべてを悟ったとき、蒲鉾は女将の唇の中に吸い込まれ、女将の微笑む顔とは裏腹に、私はなすべきことをなした、という実感、満足感を得たのだった。 ここまで読んでも伝わってくる気迫迫る筆力をもって、私はこの三作品を優良に推すことにする。 参考文献: 『シベリウスの解釈』宇多田開 『黒ノート』マルティン・ハイデガー 『微笑みの国タイ 輪廻転生を求めて』三公聞見
選評【人間の存在モードに合わせて存在に対する無自覚さが自覚される】 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 886.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-04-01
コメント日時 2018-04-26
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
※これは選評ではなく、作品です。
0安寧宛の怪文書の反省をBreviewでも見せたいと思っていました。 そしたら、選評をして良いなんて話になっているので これはもう、選評みたいな詩をやるしかないなと思ったのですが… KaZ様に先を越されてしまいました。 でも良かったと思いました。 私だと不完全だったと思うのです。 改めて反省をして 見せたいなと思います。 ありがとうございます。
0カオティクルConverge!!貴音さん♪、ありがとうございます。私は確か一度もBREVIEWの最優秀作品になったことがないので、今度はそういうのを目指してみようと思っているのですが、なかなか難しいようです。まあ、往々にして他人からの評価というものは自分の思っていることの埒外に行きがちですから、そんなものなのかもしれません。
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