まどろんで苺をかじると
果肉のすきまから水が滴る
指から腕へzigzagに流れる
震えが今をしめつける
漏れた血液の澄んだ意味合い
少なくとも生きていて
もう少しで日付が変わる
がらんとした洞窟の暗がりの
さらさら粉を吹いた壁の手触り
骨まで痩せたいつかのよろこび
皮をつなぐ糸のほころび
わたしは繕うことをやめてしまって
わたしは
たしは
しは
は
話すことが
できない
きない
ない
い
から
明日が始まらないように
ノートに書いた昔の出来事を
くりかえす くりかえすうち
ネジがゆっくりとゆるむ
〈コッ〉
眼鏡の
レンズが
片方だけ
木の床に
落ちる
見上げたライトに
ぼやける時計の針と針
銀皿にひらいた苺のへた
ポットにふれない炎の指先
カレンダーに重なるまっさらな正方形が
心の凹凸を静かに見つめる
やはり今すぐ動かなければならない
あいつが気付いてしまう前に
扉は凍って開けられないから
選択肢はひとつしかない
ティッシュのように薄いからだで
今からつづく今とのあいだを
こどものように腕を伸ばして
祈りながら飛ぶしかない
軋む窓を開けて
吹き込む氷点下の空気
アルミの窓枠に足をかける
両手でサッシをつかむ
頭を低くして前にかがむ
下は絶対見てはいけない
両手が同時に離れ
右脚で強くサッシを蹴る
左脚を大きく振り上げる
水平方向に
外へ
「おい、おまえ
とべるのか
そんなことばで」
後ろの方で扉をこする乾いた音
置き配の荷物でわずかに傾いた地軸
伸びたシャーペンの芯が折れる
「おい、おまえ
とべるのか
そんなこころで」
………ミンタカ
アルニラム
アルニタク
(冬の帰り道
足元を忘れて
オリオン座を見上げて歩いていた
リゲル ベテルギウス
後ずさりする世界の
黒い余白に目を凝らすと
一等星の影に浮かび上がる微かな光
その星を後ろから追いかける星
夜空を埋め尽くすおびただしい塊
高い空に割れた卵のような月が浮かぶ
あそこなら歩いて行けそうな気がすると
家を通り過ぎていつまでも歩いた
いつかわたしが死ななければ
生きて淡い気体に尽きなければ)
「おい、おまえ
とべるのか
そんなきもちで
かけるのか
そんないのちで」
わたしは擦り減った鉛筆を握りしめて低く唸る
(わたしは、とべるのか)
あたまに鳴り響くインターホン
(うたえるか、うったえるか)
かつての夜空に大輪の花火が爆ぜて
(おわるまで、おどれるか)
まっしろな灰が視界を覆いつくす
(わたしのかわは、ながれるか)
おい、おまえ
いきれるか
いき、きれるか
めをあけろ
みずをのめ
ほら ほら
ちら ほら
とおくが
ひかる
わたしはゆっくりと後ずさり
おまえとともに朝を迎える
おまえとともに同じところで踊りつづける
椅子に座って雲が落ちた街を見つめる
インターホンから聞こえる声
天気予報は、雪
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 153.3
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 8 時間前
コメント日時 6 時間前
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2025/01/18現在) |
叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:153.3
2025/01/18 19時44分01秒現在
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惺/悟る静か、座/目的と集まってすわる場所 セイザ 冬の星座オリオン座。そして雪。えらばれた言葉に対して確実な位置と意味を持つことはわかります。でも読解とかいう小手先がでてこない、まず一読して圧倒されるっ。パねえ(拍手)一票 (後でちゃんとコメント書くかもしれないが、どうことばにしたらいいのか切り口に迷います) フォルムつくるの大変だったでしょ、空白をポチポチする作業wお疲れ様です<(`・ω・´)
0いいですね。隙がない。各所に読み飽きさせないための工夫も凝らされていて、その工夫も情感と詩情を表す機微としてしっかり働いている。いいと思います。弱点があるとするならばやや長い、という点で、可読性というところですが、これも大した問題ではなさそうです。もう一度読み返してみよう、そんな気分にはなります。実際読み返しましたし笑 なにか綺麗なもの、綺麗な状態の心に触れたようで、この詩を読んで、うわあ嫌なもの見ちゃったなあ、とか嫌な感じだな、とか感じる人は数少ないと思います。僕自身も含めて。ちょっと新たなアプローチで詩を書いてみようか、そんな気持ちにもなりました。生きている、そのこと自体を確認するために書く詩。そういう詩もあってよいですね。ラストの天気予報は、雪。も外部の変化に気づかないほど夢中になっていたという印象です。自語りになりますが、僕の「ホワイトローズ、咲く」も雪は気づかなかった外部の変化の象徴として使われています。ちょっとした共感も覚えました。
0>冬の帰り道~淡い気体に尽きなければ この部分が綺麗な近代詩的描写で、かなり参考にしたいくらいだった。 あと全体的には改行を使いこなすことで、とても整然とした詩になっているように思える。結構バラバラだというのに、それが不思議。 ……ただ気になったのが、zigzagの部分。 これ良いとか悪いとかじゃなくて、ただ「どうしてこの作者はあえてアルファベットを混ぜたんだろうか」という疑問が芽生えたというか。「曲がりくねって流れていく、ではいけなかったのか? zigzagはあえて違和感を最初にぶつけるためにやったのか?」って細かいところが気になってね。
0なんかその佐々木春さんの生身の一部分を垣間見たよーな気になりましたよー(今までのやつとは少し温度が違うよーな)気のせいであるかもしれんけどねーなんかね異性の日記を盗み見ているような罪悪感にも似たものが湧いてきましたよーありがとうございました。
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