花に成った貴女。 - B-REVIEW
新規登録
ログイン
PICK UP - REVIEW

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。

硬派な作品

萩原朔太郎や中原中也のエッセンスを感じます。

千治

体験記『呆気ない宣告』

それはあなたの現実かもしれない。

大概のことは呆気なくドラマティックではない。そうした現実の丁寧な模写が作品に厚みを増している。

ほば

世界は自由だ━不死━

わかるということ

あなたにとっては何が、その理解が起きるピースになるだろうか?

ほば

ふたつの鐘がなるころは

鐘は明くる日に鳴る! いつでもそうだ!

運営在任中に出会った多くの作品の中のベスト。決して忘れない。

yasu.na

良い

シンプルに好き

あっす

パパの日曜日

パパの日曜日

いい

明林

終着点

生きる、その先に死地はない!

美しくさわやか、そして深い意味が込められたシーン、均衡の取れた心情と思想、強い意志で最終連へと迫る引き締まった展開、我が胸にこの詩文を抱いて!

yasu.na

九月の終わりを生きる

呼び覚ます声

夏の名残の暑さが去ろうとする頃、九月の終わりになると必ずこの作品のことを思い出す。

afterglow

こっちにおいで

たれかある

たそがれに たれかある さくらのかおりがする

るる

詩人の生きざま

言葉と詩に、導かれ救われ、時に誤りながらも、糧にしていく。 赤裸々に描写した生きざまは、素晴らしいとしか言いようがない。

羽田恭

喘息の少年の世界

酔おう。この言葉に。

正直意味は判然としない。 だが、じんわりあぶり出される情景は、良い! 言葉に酔おう!

羽田恭

誰かがドアをノックしたから

久しぶりにビーレビ来たんだけどさ

この作品、私はとても良いと思うんだけど、まさかの無反応で勿体ない。文にスピードとパワーがある。押してくる感じが良いね。そしてコミカル。面白いってそうそう出来ないじゃん。この画面見てるおまえとか、そこんとこ足りないから読んどけ。

カオティクルConverge!!貴音さん

あなたへ

最高です^ ^ありがとうございます!

この詩は心に響きました。とても美しく清らかな作品ですね。素晴らしいと思いました。心から感謝申し上げます。これからも良い詩を書いて下さい。私も良い詩が書ける様に頑張りたいと思います。ありがとうございました。

きょこち(久遠恭子)

これ大好き♡

読み込むと味が出ます。素晴らしいと思います。

きょこち(久遠恭子)

輝き

海の中を照らしているのですね。素晴らしいと思います☆

きょこち(久遠恭子)

アオゾラの約束

憧れ

こんなに良い詩を書いているのに、気付かなくてごめんね。北斗七星は君だよ。いつも見守ってくれてありがとう。

きょこち(久遠恭子)

紫の香り

少し歩くと川の音が大きくなる、からがこの作品の醍醐味かと思います。むせかえる藤の花の匂い。落ちた花や枝が足に絡みつく。素敵ですね。

きょこち(久遠恭子)

冬の手紙

居場所をありがとう。

暖かくて、心から感謝申し上げます。 この詩は誰にでも開かれています。読んでいるあなたにも、ほら、あなたにも、 そうして、私自身にも。 素晴らしいと思います。 ありがとうございます。みんなに読んでもらいたいです。

きょこち(久遠恭子)

カッパは黄色いのだから

良く目立ちます。 尻尾だけ見えているという事ですが、カッパには手足を出す穴がありますよね。 フードは、普通は顔が見えなくなるのであまり被せません。 それを見て、僕はきっと嬉しかったのでしょう。健気な可愛い姿に。ありがとうございました。

きょこち(久遠恭子)

永訣の詩

あなたが出発していく 光あれ

羽田恭

あなたには「十月」が足りていますか?

もし、あなたが「今年は、十月が足りてない」と お感じでしたら、それは『十月の質』が原因です。 詩の中に身を置くことで『短時間で十分な十月』を得ることができます。この十月の主成分は、百パーセント自然由

るる

だれのせいですか

どんな身体でも

どんな自分であっても愛してくれるか、抱きしめてくれるか、生きてくれるか SNSできらきらした自分だけを見せてそんな見た目や上辺で物事を判断しやすいこんな世の中だからこそ響くものがありました。例えばの例も斬新でとても魅力的です。

sorano

衝撃を受けました

ベテルギウス。まずそれに注目する感性もですが、詩の内容が衝撃。 猫。木。家族。犬(のようなもの)。女の子……。など、身近にあふれている極めて馴染み深いものベテルギウスというスケールの大きいものと対比されているように感じられました。

二酸化窒素

ずっと待っていた

渇いた心を満たす雨に満たされていく

afterglow



作品を
別枠表示

花に成った貴女。    

ある日君は突然花に成った。 誰もが振り返る絶世の美女。 触れられない、貴女、それでも好きだった。 「花に成った貴女。」 
 「綺麗だ。」 目の前の絶世の美女を見て俺は震えた。だってこんなにも美しく聡明な、まるでため息が出るかのような美しさ、知らない。俺は一気に惹き込まれた。その淡い色彩。触れたくて。だけど届かなくて、悶えたの。俺は薄めた視界で貴女を見つめた。名前を呼んでも、呼んでも振り向かない、それが哀しくて、痛くて苦しい。でもね、幸せだった。 「私は花、名前なんてないわ。あなたは誰?」 可憐な高い声、惑わせていく。堕ちていく。唯、それだけの世界。美しい、残酷な程。俺は再度貴女に見惚れる。 「知ってるネモフィラの花でしょう?知ってるよ。俺はいつも君を愛でて、取り憑かれたように水を与えた。美しい花。淡い色、焼き付けられて離れない。知ってる。君の目は淡い水色。髪色だって、透き通っていて綺麗だ。太陽みたい。美しくて、だから知ってる。俺が育てた淡いネモフィラ。」 花の少女は儚く消え入りそうだった。 「もうすぐね、ネモフィラは散る時期よ。枯れるの、汚くね。だからそれまで実体化できる。でもみんな一斉に枯れていくから、その時は察して。」 淡い微笑を滲ませた絶世の美女。この世のものとは思えない程、綺麗で蠱惑。君が綺麗な花なら、俺は貴女にたかる蟲だ。だってそうにしか成れない。違うかな、だって事実、こんなにも哀しいことなんて、無い。絶対。それでも好きだった、見惚れた。 「あなただって綺麗よ。艶のある黒髪、真っ直ぐな目、綺麗。惹き込まれそう。見たことない。」 貴女がそう言うから、俺は哀しくわらうことし か出来なくて、出来なくて。目じりを下げたの。自身の頬に影を創って。 「まつ毛長いね。」 貴女が触れるから、熱くなる。心音が鳴る。痛い、痛い、痛い、痛い。痛い。酷い。微笑して蠱惑にわらって、導いて、俺を地獄に堕として。ネモフィラ、花の貴女。まるで地獄、快楽を上回った、艶やかな、それ。 「来て。」 導かれて拒めるわけない。 「あなたの家、ここ?」 俺の家、寝室の扉を開いて、導いて。ただ高らかにわらう貴女はまるで悪魔。拒めない美 しさ。逃げられない、拒めないの。 「座って。」 ベッドの淵、腰かけて。唸る木製のベッド。きしんだ俺の胸、熱くなった頬。 「わかるよね。もう。」 高い声、透き通った、悪魔のささやき。俺は 「わかるけど、俺は君に触れられないよ。わかるよね言ってる意味。察して、花だからわかんないかな。」 「わかるよ、性行為のこと知ってる。セックスって言うんでしょう?知ってるよ。甘く見ないで。」 濡れ行く熱い瞳に抗えない。男の欲、支配されていく、醜い欲望に。貴女はそんな俺を見てまた微笑した。 「可愛いね。男の子って可愛い。分かりやすいね、人間って簡単。花は難しい。待ってるだけだから。人間は簡単、そうやっていとも簡単に奪うもの。だから好きだし、嫌い。皆怒ってる、あなたたちの欲で勝手に生き永らえて勝手に枯れるの、だから嫌い。でもね、あなたは好き。真っすぐだから。私知ってる。あなたが毎日優しい瞳で私に水を与えてるの。知ってるよ。この人間は酷い程優しいってことくらい知ってるよ。甘く見ないで。下等生物が。」 甘い讒言。その高らかな声から発せられた。俺は身震いした。だけど本当のことだった。否定出来なかった。 「ごめん、そうだよね。でも俺は大事に育てて、花を咲かせる貴女を待ちわびた。俺は花が好きで、それしか、無くて。君を花屋で見つ けた。何かを変えたくて、種を買った。それが貴女だった。俺は、俺は馬鹿なのかな、厭らしいかな、駄目かな。こんな欲深い人間、君は。」 そこで制止を食らった。だって貴女が美しくわらうから。拒めなくて。嗚呼、綺麗な色、綺麗で艶やかで、儚い水色を思わせた。だから拒めなくて、あなたの白い肌、火照っていく色彩に、見惚れてやまないから。抑えられない、馬鹿だ。「抱きたい。」なんて馬鹿だ。 「あなたも欲には抗えないのね。馬鹿って言って欲しい?こうして誘ってるの、したいでしょう。侵したいでしょう。自分の者にしたいでしょう。馬鹿。」 貴女は自身の真っ白なワンピースのフロントファスナーを開いて、自身の肌を見せていた。怖いくらい白くて、消えそうなくらい儚かった。俺は喉を鳴らした。 「抱きたい?」 艶やかな声で誘った。そして柔肌見せつけてわらうの、蠱惑だ。嗚呼、蠱惑だ。 「抱きたい。」 俺の低い声が舞った、貴女の体温、感じ取って、空間支配した貴女の存在。綺麗で、艶や かだから。 「良いよ。」 そう言って肯定しないで、今すぐ俺の行いを否定して。でも貴女、止めないから。そのまま抱いた。貴女の嬌声、舞った。空間が数度、温度を持 った。あなたの乱れる水温と共に、上がった。 「あ・・・っ。」 細く苦しそうなそんな声がして、俺は脳内が麻痺した。そのくらい、淫らで艶やかで、綺麗で、酷い。貴女の秘部、濡れて。感じていた。貴女を支配したい、そんなものしか今、考えられなかった。 「もっと、してよ。」 強くして、激しくして、そう言われる度、俺は貴女に憑りつかれた。まるで貴女に群がる蜂。貴女は絶世の美女。俺は奴隷。貴女の餌。それでも良い、良いから。この時だけ消えないで。 「良い、気持ちいい。もっと、奥。」 蜜が漏れていくから、止まらないから。飲み干したい、枯れていくまで、養分を与えて。死んでも、良いから。今だけ、与えて。狂ったように与えて、そして殺して、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼。嗚呼。 「良いよ、堕ちても。」 俺は地獄に堕ちた。 行為が終わったら貴女は濡れた瞳で小さく言 う。 「気持ちよかった。人間ってすごいね。花だったら味わえない程の快楽、知らなかった。こんなに気持ちいいなら、もっと早く実体化 すれば良かった。」 「そんなに良かった?俺、気持ちよくできていたかな?痛くなかった?激しかったよね。ごめんね。」 貴女は微笑した。淡い香りを漂わせ、また俺を魅了していく。行為が終わっても、俺は心臓が痛く鳴り続けていた。これは罰だろうか、貴女を強く抱いた後遺症だろうか、痛く、苦しかった。でも、熱くて気持ちよかった。貴女は目を細めた、高い声、響いた。 「すごい良かったと思う。初めての行為だったけど、気持ちよかったよ。なんか奥深くから感じる、そんな重くて深い、行為だった。」 貴女の感想を聞いて、俺は考えてしまった。重く深い、そんな行為、俺はただ、思うがままに貴女を求めただけ。それだけの不純な行為だから、申し訳ないのだ。 「俺でよかったの?貴女ならもっといい男と 行為ができたはず。俺はただの大学生だよ。 俺なんかより。」 「あなたしか知らないもの。男。」 意味ありげだったから、貴女を一点に見つめた。ただ、それだけ。 「私は綺麗な人、あなたしか知らない。その真っすぐな目でいつも微笑んでくれていた。冷たい水を与えてくれた。他の人間は私をもぎ取ろうとした。まだ若い花、蕾、もぎ取って部屋に飾ろうとするでしょう?すぐ捨てるくせに。自分勝手。」 吐き捨てた、貴女。それでも造形的な美しさを滲ませた。完璧な存在だった。 「それにあなただって選べる立場なんじゃない?花の中では、薔薇、胡蝶蘭あたりが一番美しいと人間は言う。胡蝶蘭が実体化したらどうする?あなた抱くでしょう。」 「胡蝶蘭が僕を選ぶなら、抱くかもしれない。だけど何で俺は君を拒めるんだい?どうしてそんなこと言うの?」 貴女は黙った。しばらく静かな時間が続いた。沈黙を破ったのは、貴女。 「拒めるなら、拒んで欲しかった、人間の快楽知りたくなかった。」 そう言って貴女哀しい目をするから、俺はなんて言ったら良いか分からなくて。ただ哀しそうな貴女を見た。美しい、造形物、自然の摂理、抗えない気持ちの高まり、貴女の瞳。美しく聡明な、青。淡い、貴女。 「じゃあどうして貴女は人間に成ったの?」 貴女は俺を捉えた。揺らいだ瞳、哀しい青。 「聞きたいの?」 そう言っては俺の反応を見る。俺は頷いた。 「私は知りたかった。人間の欲、愛、憎しみ、植物には分からない、決して。あなたのような綺麗な人間も居るってこと、今まで知らなくて、だから知りたいって思った。あなたたちのこと。」 そう言ったら貴女また蠱惑にわらって。 「馬鹿みたい?あんなに人間のことを馬鹿にして、見下して、卑下していたのにね。馬鹿でしょう。」 俺は沈黙した。だって貴女可哀そうなほど、その瞳が美しかったから。 「なんで私はネモフィラなんだろう。どうして私は植物なんだろうって、思った。」 貴女は可憐な香りを漂わせた。 「可哀そう?私。厭らしい?私、憎む?私のこと。」 俺の反応で、試さないでよ、酷いよ。 「分かんないよ、聞かれても、だって難しい、たかが下等生物だ。俺なんか人間の中でも下の下だ。そんな俺にわかるわけない。綺麗ってことしか、貴女が美しいってことしか、わからねぇよ。」 そう言って溜息をこぼした。貴女は微笑した。白い肌、まだ火照っていた。 「ありがとう。あなたにそう言ってもらえたら私また来年咲けるね。」 俺は目を見開いた。 「だってもうすぐ枯れる時期じゃない。あなた良く知ってるでしょう?」 俺は微かに震えた。だって貴女怖いくらい、綺麗だから、長い髪を揺らすから。「散っても、私のこと愛でてくれる?」 細く消え入りそうな声、俺は貴女を見つめて、そっとキスをしたかった。隣に座る貴女、二人で並んでベッドの淵に腰掛けて。貴女、距離が近いから。香りだって分かるよ。 「愛でる、いつも愛でているでしょう?貴女を愛でて、健気に育っていく姿、綺麗で、逞しくて、俺は救われたんだ。貴女の成長する姿、毎年楽しみにしてて。」 貴女、再度微笑して。蠱惑な香り放った。 「死んでも、愛して。」 そのまま再度、快楽に溺れた。貴女の柔肌、傷つけないように、優しく触って、労わって、口づけをしたの。嗚呼、そんなに俺の名前呼ばないで。壊れるから、やめて。 「気持ちいい。」 そう言われる度、俺の理性は崩壊した。いとも簡単に貴女に支配されていく。だってそれ程までに甘美だったから。蜂のように、群がった。甘い蜜飲んで。 「イっちゃう。」 花の貴女は感度が良くて、その嬌声は淫らだった。長い髪は乱れ、赤い唇は濡れていた。白い肌は汗が滲んで、細い曲線は滑らかだった。長く器用な指は、俺の肌を撫でた。甘かった。甘美な熱い、地獄。天国と錯覚しそうなくらい、艶やかだった。 「あなた。」 もっと、呼んで。貴女。 ネモフィラの開花時期は過ぎていき、花がしおれ、枯れていった。貴女は突然姿を消した。まるで夢かのように突然だった。あまりにも生々しい夢に俺は驚愕していたから。泣くことだって出来なかった。貴女はもう居ない。俺はベランダに置いてある鉢植えを見た。見事に枯れていた、土も乾いていた。来年も、咲くよね。種、落としていたから。また貴女に逢えるよね。俺はその時初めて哀しいと思った。 「可憐」貴女にぴったりな花言葉だ。貴女は天使のように優美で鮮やかで、儚かった。夢に貴女が出てきた。まるであの時抱いたみたいに、鮮烈な思い出、また貴女に逢いたい。だけど貴女は来年が来ても、再来年が来ても、実体化はしていなくて、ただ淡い色を咲かせるだけだった。あの時見た花の貴女。あれは幻だったのかな。俺は水色のネモフィラを見つめ、呟く。 「二年が経ったね。」 二年前、貴女は急に現れた。その長い髪を揺らして、微笑んで、淡い香り放った。一瞬で理解した。 「ネモフィラの花、満開の、鮮やかで儚い色。」 そう思ったから。貴女は真っ白のワンピースを着て、立ち尽くしていたから。俺から、声を掛けたんだった。美しく聡明な色だった。はっきり覚えているよ。貴女、実は幻だった?俺の都合のいい夢だったの?教えてよ、ねぇ。貴女。 「教えてよ。」 そう言っても花の貴女は黙って咲くだけ。 数年が経った。俺は都内でサラリーマンをしていた。過ぎていくだけの日々、毎日残業をして自宅に着くのは毎回23時ごろ、くたくたになりベッドで寝落ちをする日々。まぎれもない現実を生きていた。俺はベランダに置いた鉢植えを眺めた。 「もうすぐ咲くな。」 そう思って、視界を閉ざした。 「あなた。綺麗ね。」 鮮烈な夢、貴女、見えない、見えない。靄がかかっていて、その顔、表情が見えない、貴女はだれ?聞き覚えのある、声、誰、誰。 「貴女、私が枯れても愛でてくれる?」 可憐な高い声、貴女は一体、誰なの。嗚呼、教えて、教えて、貴女は。一体、なに。鮮やかな色彩、水色、満開の花、ネモフィラ。嗚呼、そうだ俺は貴女が消えた時、絶望した。また会いたくて、貴女を愛でた。まだ咲かないなと、待ちわびた。咲いても、貴女居なかった。独りで泣いた。深夜泣いた。鳴き声、響いた。闇夜に溶けた、同化して消えた。貴女、嗚呼、貴女。会いたいって何度でも思った。だけど貴女、現れなかった。 「逢いたい。」 何度願っても、呼んでも、叫んでも、貴女は現れなかった。だけどね俺は、それでも貴女を想った。 「好きだ。」 そう言っても花の貴女には届かない。 「ネモフィラを見に行こう。」 会社で出会った彼女はそう言った。都内にネモフィラの庭園が出来たらしく、彼女は週末にそこに行きたいらしい。 「良いね。土曜日で良い?」 彼女は笑顔を見せて頷いた。土曜日、庭園へ向かった。綺麗な花を咲かせた鮮やかな色彩、淡い色。 「綺麗だね。」 彼女は太陽のような笑顔を見せた。 「そう言えばネモフィラ育てているよね。好きなの?」 彼女は言った。 「うん、大学の時からずっと育ててる。好きなんだ。」 彼女は笑った。 「私も好き、だって綺麗だから。淡くて消えそう、だけど今を生きてる。私はそんな花が好き。」 彼女は告げた。俺はそんな彼女を横目で見た。美しく、綺麗だった。 「綺麗なものは、怖い。完璧過ぎるほど、近づき難いよね。でも、それが良いのかな、自然ってそうだよね。人間にはわからない、美しさ、次元。そんな世界を生きているんだね。」 彼女はそう言うから俺は続けて言った。 「そうだね、俺らが想像できない程、深くて、高等な世界に居るよ、きっと。」 彼女は微笑した。 「綺麗、見られて良かった。また来年も来ようね。」 そう言って唯、キスをした。ネモフィラはそんな私たちを見て、きっと微笑していた。 「あなた。綺麗。私嬉しいの、あなたに出逢えて、嬉しいの、だからもう、枯らして欲しいの。」 鮮やかな色彩。貴女だ。顔まではっきり見えた。やっぱり絶世の光を放った美女だった。美しく聡明だった。 「もう捨てて、欲しいの。もう忘れて、欲しいの。」 儚く言わないで、消えないで。行かないで。 「好きだった?」 そう言われても、わかんねぇよ。俺はだって人間だから。 「そう。」 一言だけ言って消えた。 「もうすぐ咲くね。」 愛おしそうに彼女は鉢植えを眺めた。目を細め、我が子を愛でるように優しく葉を撫でた。 「綺麗に咲くかな。」 微笑して、俺も同じように葉を撫でた。生き生きとした緑色の葉、蕾を付けていたから。 「もう会えないね。」 心の奥底でそう思った。俺には今彼女がいたから、そっちの方が都合がいいのか、悪いのか、じゃあ何故貴女は俺の夢の中に、出てきて俺の思考をかき乱すのか、分からなかった。俺の勝手な幻想なのか、理想なのか、欲望なのか、それとも、泡のような、思い出なのか、俺はただ、一目で良い。貴女に逢いたい。彼女は「どうしたの。ぼーっとして。」そう言った。俺は目を細めて「なんでもない。」そう一言だけ言った。彼女は続けた。 「最近ぼーっとすること多いね。何かあった ?」 俺は沈黙した。彼女は高い声で 「いつもそう、この鉢植えを見るとき、あなたは切ない顔をする。」 俺は泣きそうになった。話してもいいのか。こんな馬鹿みたいな、話。 「どうして?」 彼女の黒髪のショートヘア、揺らいだ視界。 「俺は。」 彼女は黙って俺を見据えた。そして「良いよ。」って言った。 「馬鹿みたいだけどね、俺数年前、この人に会ったんだ。今思えば夢だったかもしれない、でもこの子に会った。この子は儚くて、鮮やかだった。とても綺麗だった。そういった行為もした。でもこの子は俺に、忘れて、枯らしてって言った。俺は哀しかった。」 彼女は黙って話を聞いた。 「俺はこの子に見惚れた。この子の言う人間の汚さ、理解した。俺はこの子のことが多分好きだった。」 震えていた。彼女は俺を見据えた。 「でも突然消えた。彼女は枯れたんだ。」 震える手、彼女は握った。泣きそうな俺、惨めだった。 「もう一度逢いたいと願った。でもこの子、現れなくて。ずっと待った。俺が頑張って愛でた。だけど彼女、現れなかった。」 泣いた、涙、頬を伝って、冷たくて。彼女はそれでも俺の手、握った。 「逢いたい。」 そう言っても貴女、きっと来ない。 「彼女は多分、来るよ。」 あなたは言った。俺は「どうして。」そう言った。 「だってもうすぐ咲くじゃない、この子、嬉しそうだよ。私分かるの。この子、今笑った。」 俺は目を見開いた。そして彼女は蠱惑にわらう。 「来るよ、きっと。大丈夫。」 そう言って彼女は笑う。「大丈夫。きっと。」そう言って俺を見つめたから、俺は安堵した。笑うあなたを見て俺は釣られて微笑した。 「ありがとう。」 ただ触れた。貴女の前でキスをした。ただ、触れるだけの、キス。甘くて、苦い。あなたの唇離れたら、俺はそのままベッドへ誘導した。二人ベッドの淵に座った。 「良い?」 彼女は「うん。」そう言った。触れていく、彼女の柔肌、細い腰、艶の有る黒髪。唇。あなた喘いだ。綺麗な声だった。 「もっと。」 そう言われる度、俺は腰を振った。その唇閉ざしながら、奪った。 「気持ちいい。」 貴女が見てる前、行為をした。貴女わらうでしょうか、それとも、憎むでしょうか、恨むでしょうか、それとも、蔑むでしょうか。貴女、貴女。 「これでいいよ。」 朝、目が覚めたら貴女、枯れていた。昨日水をやった、葉は青く、蕾を付けていたのに、貴女、枯れていた。 「どうして。」 彼女は言う。 「嫉妬したんじゃない?」 鋭く言ったから俺は「そうなのかな。」って返した。 「だって昨日まで育っていたでしょう?今枯れてる、変だよ。」 そう言って枯れた葉を撫でた。彼女の柔肌綺麗だった。 「もう会えないね。」 涙なんて出なかった。俺はその枯れた貴方を見てもう何の言葉も出なかった。ただ虚無だけが襲った。彼女はわらう。 「捨てようか。来年は違うものを植えよう。」 そう言うから俺はそんな彼女を見て安堵した。 「うん。」 そう言って鉢植えごと、ごみに出した。俺たちは毎夜交わった。 「やっぱり人間は汚いね。」 そんな声が聞こえた気がした。 「貴女、貴女、貴女。」 呼んでも振り向かなかった、唯の幻想、唯の夢だから。貴女、貴女、貴女。 「好きだよ。」 貴女振り向こうとした。 「綺麗だから、あなた。抱いてもらったの、あなたに見て欲しくて、実体化したの。これはね、私の欲望、私の夢、私の幻想。ごめんね。花なのに、こんな汚い幻想夢見て。ごめんね。ごめん。今まで育ててくれて、ありがとう。さようなら。」 「行かないで!!」 そう叫んで、目が覚めた。隣には彼女が寝息を立てていた。それを見て、俺は心底安堵してしまった。嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼。嗚呼。 「好きだった。」 今更気づいても、遅い、遅いよ。貴女はもう居ない、居ないから、もう居ないんだ。嗚呼、嗚呼、嗚呼。 「貴女。」 一人で花屋へ行った。一袋200円の種を買った。百円ショップで鉢植えも買った。休日、一人で植えた。青い、淡い、綺麗な花。貴女。 「咲いてね。」 唯願いを込めて植えた。もう穢れない、汚さない。だから、もう一度貴女に 「逢いたい。」 貴女またその綺麗な声で、髪で、目で笑ってくれる?もし貴女がもう目の前に現れないとしても、きっと好きだ。だから、告白させてね。今度はちゃんと言うよ。 「綺麗だ。」って言うから。だからお願い、貴女、貴女、貴女。 「あなた。」 そう言ってまた白昼夢の中、その淡い色を揺らしてただ僕を虜にしていった。 終わり。 
 PS ネモフィラは一年草でした(汗)執筆し終えてから気づきました(笑)この世界でもネモフィラは一年草ですが、花の少女はもしかしたら主人公が好きで毎回零れ落ちる種から花を咲かせたのかも知れません。主人公に恋人ができ、人間のように恋をし、嫉妬しました。だから主人公に恋人ができた時、嫉妬し潔く枯れてしまったのでしょうか。そして多年草としての役目を終えたのでしょう。そういったファンタジー、淡く切ない話。一瞬を生きた、鮮烈に。そんな花の少女の物語だったのかも知れません。



ログインしてコメントを書く
ログイン







新規ユーザー登録はこちら

パスワードを忘れた方はこちら

花に成った貴女。 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 1
P V 数 : 175.8
お気に入り数: 0
投票数   : 1
ポイント数 : 0

作成日時 2025-01-13
コメント日時 5 時間前
#現代詩 #縦書き
項目全期間(2025/01/14現在)
叙情性0
前衛性0
可読性0
エンタメ0
技巧0
音韻0
構成0
総合ポイント0
 平均値  中央値 
叙情性00
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合00
閲覧指数:175.8
2025/01/14 22時20分15秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。

    作品に書かれた推薦文

花に成った貴女。 コメントセクション

コメント数(1)
黒髪
作品へ
(5 時間前)

幻想と現実が、甘やかに混じり合って、花と人間を称えているように思いました。 絵空事に生きているという批判に対しては、むしろ理想が低い考え方をするなという批判で、 返すことが出来ると思います。 花を手折るという皮肉が、大人になるために必要なのです。 返詩を書きましたので、ご笑覧下さい。   セルフアイデンティティ 自己に目覚める場合 他者がきっかけになる 他者に接して自己が動揺し 自分が不安になり同時に可能性が開かれる どのような自己も己自身に最も影響を与え その全ては己の責任となる 「責任取ってよ」と あなたは言うだろう 僕は喜んでそれを受け取り引き受けるだろう 個と個とはそれぞれに確かな考えがなければ たくさんの人の思惑がめぐらされる世では 生きて行くのに困難が生じる そして誤った自己意識は人々に益をもたらさない 本質としての私はない だから他人とのかかわりの中で自己が疑問に付され定義され 次に証明される 最も落ち着く自己状態とは何か 自己と他者の区別があいまいであるという本来性に基づけば 可能性を開くこと つまり宇宙と一体化する自己が善いとなるだろう 自分勝手なことを言うことには意味がない しかしたった一人の相手を前にそれが特別だと 言うことにならねばならぬだろう 自分は嘘つきで欠けたところばかりで 完成され更に喜びに咲く花の 半分くらいの価値しかない 花をあなたに贈ろう いびつに半分でしかない自分にとって そしておそらくはあなたにとって 完全なる存在にならなければ 人生が完成されない それはきっと「愛している」 ということ その証明をすることが生きるということの一大事だ 自己を見て自己を見出し 他者を見て他者を見出す それでも 二人はきっともともと一つだったのだから 特別と見ていいのだと僕には思える 愛の前に人は小さいように思える だが小さな自己こそが愛の作り手なのだ 愛は超えるものではないのだ 己と他者を優しく見守る花の愛が 自分勝手になりがちな人間というものを 優しく見守っているのだ 宇宙の中で愛を 花も人間の魂も 遥かな宇宙に包まれて これから美しい踊りを踊ることが 悲惨を通って来た我々の 生の賛歌である 花びらはきっと 宇宙の秩序を表している 例えば水色に咲くネモフィラ それぞれの銀河は 自己を誇り 家族系の中で 宇宙の一部を分担している 太陽系である我々は 星々の姿によって 宇宙の社交場に参加している 花は枯れてしまったけれど いつかまた花は咲く こぼれる朝露に 瓦礫にうずもれ朝を迎えられなかった子供たちの 全ての戦争の悲惨を 明日は今日の向こうにしかないから 闇を払う太陽が 明日を必ず作り出す 人々は朝日を眺め 希望に燃え立ち一日を始める 死者の涙は地を潤し やがては海に帰って行く 地の球は 完全であるが孤独であった だから己の分子として 生命を生み出した 海の愛情が必然的に生命を作り出した 涙はしょっぱいね 僕の涙とあなたの涙 自然な笑顔で 笑いあっていくこと そんなに大それた望みなのかな みんなの血は赤色 染みは残さない 遠い記憶の中に揺れる町影 愛し合った人たちの 思いで揺れる過去 永遠の未来を受け止めよう 今というときに 全ての存在が運行していく それを止めるのは無用なことさ 何か根本的な誤解があるようだが あなたは幸せになってもいいんだよ I have stopped crying over now

0
ログインしてコメントを書く
ログイン







新規ユーザー登録はこちら

パスワードを忘れた方はこちら

B-REVIEWに参加しよう!

新規登録
ログイン
推薦文を書く

作品をSNSで紹介しよう→

投稿作品数: 2