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第一楽章:玉座の調和
玉座の上、王は一人
金の指揮棒を掲げている
その一振りに、森の空気は固まり
音の粒は整然と列を成す
休符が織り込まれた旋律が
地平を覆い尽くし
どの葉も、どの鳥も
その秩序に従うほかない
だが、静かすぎる空気の中で
目を閉じれば聞こえる声がある
抑えられた音、閉じ込められた響き
それらが土の奥から囁いている
王はその声に耳を塞ぎ
指揮棒を再び振り上げる
「沈黙こそ至高の調和
秩序なき音は災いだ」
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第二楽章:影の足音
森の奥で虎が目を覚ます
金の月が黒い毛並みを照らし
その足音は地を滑る風となる
虎は耳を澄ませる
王が描く旋律の下に潜む
自由を求める声たちに
影は音もなく玉座へ近づき
空気を裂く牙を剥く
「王よ、聞こえるか?
音の骸に潜む私の足音が」
森の葉はざわめき
鳥たちはその影に怯える
だが、どこかで笑う囁きがある
「待っていた、この時を」
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第三楽章:裂け目の囁き
虎は柱の下に立ち止まる
指揮棒が揺れるたび
玉座の調和が舞い踊る
だが、その隙間から
音符に取り残された小さな声が
闇の中を彷徨い始める
「私たちを忘れたのか?」
「私たちはお前の始まりだ」
亡霊たちの調べが柱を震わせる
虎の目が鋭く光り
その爪がそっと木の皮を裂く
「お前たちの声を取り戻すために
私は、ここへ来たのだ」
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第四楽章:牙の一振り
玉座の上で王が叫ぶ
「誰がこの調和を乱すのか?」
指揮棒が鋭く振り下ろされるが
その音は森には届かない
虎が柱を跳び上がる
その爪が王の旋律を裂き
牙が空気を貫く
交わる響きが乱れる
調和は崩れ
新たな音が空を駆ける
それは秩序なき混沌
だが、それこそが自由の証
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第五楽章:崩れゆく玉座
柱が揺れ
王の玉座が音を立てて崩れる
「これが、自由だというのか?」
王は呆然と呟く
地面に落ちた指揮棒が
音もなく割れる音が響く
その隙間から現れるのは
音と音が交わる不文律
葉が歌い、風が奏で
森全体が目を覚ます
自由な響きが大地を満たし
王の影は静かに消えていく
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第六楽章:咆哮の夜明け
虎は森の中央に立ち
その咆哮が夜を裂く
それは命の歌
亡霊たちが待ち望んだ調べ
森の音が一つに溶け合い
新しい音体が生まれる
誰もがその響きに耳を澄ませ
心の奥に眠る声を思い出す
夜明けが近づく中
虎の姿は静かに消えていく
だが、その足跡だけが残る
……休符のように
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第七楽章:森の新たな調和
王の支配は消えた
だが、森は混沌に落ちることなく
新しい調和を見つけた
それは誰か一人の指揮ではなく
全ての音が交わり合う響き
鳥のさえずり、風のざわめき
それら全てが一つの楽章となる
虎の足跡を辿るように
森の命たちは新たな歌を紡ぐ
その音は玉座の跡地に響き渡る
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第八楽章:消えぬ名
風が静かに吹き抜ける
玉座のあった場所には
ただ一つの名前が刻まれる
「王消す虎」
その名は歌となり
森を駆け巡る
誰もその姿を見ないが
自由の響きが聞こえる限り
その名は消えない
玉座も、指揮棒もなくなった今
森はただ歌う
虎の牙が残した調べを
王なき新たな世界のために
作品データ
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作成日時 6 時間前
コメント日時 6 時間前
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/22現在) |
叙情性 | 0 |
前衛性 | 0 |
可読性 | 0 |
エンタメ | 0 |
技巧 | 0 |
音韻 | 0 |
構成 | 0 |
総合ポイント | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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2024/11/22 12時09分31秒現在
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