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泡の循環
そこは水の中に沈む青い街だった。 通りの石畳の一枚一枚、家々の屋根、壁、ドアノブに至るまで、全てが水色と青、藍色のグラデーションで染め上げられている。 それは静寂の青だった。 一つの泡沫になった僕は、崩れかけた建物の間を軽やかに漂っていた。 温度の無い冷たい光は、水面上空に広がる灰青色の雲の隙間から降り注ぎ、青い街をさらに青白く包んでいく。 道路の片隅に積み上げられた白っぽいゴミの山、よく見れば人間の頭蓋骨なのだった。怖いとは感じなかった。 すべすべと綺麗で清潔だった。自分の髑髏もこんな風に凛と過ごしていてもらいたいものだと思った。 自分の肉体がとっくに滅んでいることに疑いも持たなかった。 生き物のいない、建築物だけの並ぶ街。 いつの間にか生臭い泥と生きた魚匂いに満ちた川の底を漂っていた。 あれ、僕はまだ生きているのかなと思った。 自分の小さな意識とそれを包む泡のかたち。 小さな泡を包む大きな川の流れ。 泡の形が失われたら、大きな川の一部になる。 その水は青い廃墟に流れ着くのだろう。 踊りきらめく光が手を繋いで、上方の水面にまばゆいカーテンを作った。水面に浮かんでしまえば自分は消滅することが分かっていたが、泡はまっすぐに上へ上へ進んで行った。 無数の水紋ゆらめく光のカーテンに突如金色の文字が踊った。 「目を開けて、見たいものは?」 そして無限の光の中に溶け込んだ。
泡の循環 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 845.7
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 1
作成日時 2018-02-21
コメント日時 2018-03-05
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 1 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 1 | 1 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
言葉がやさしいのでこの詩が表現している世界をはっきり想像できる気がします。 ぼんやりとしているような文調が絶妙で、輪廻転生の世界観のなかで生きることを休んでるような感覚があります。 この詩のラストは誕生というより復活のほうが相応しいのかなと思います。
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