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Seahorse
空からぶらさがる朝。眠りの残る背のかたさを気にしつつ、やや大きめの欠伸をすると、海面から降り注ぐ陽の光の眩しさに、おもわず、海藻に絡めた長い尾に力が入ってしまうのを少々疎ましく感じながら、ふくらむ腹を見る。 腹がふくれているのは、妻との交尾によってできた、多くの卵を入れているためであり、孵るまで夫が守り続けている。妻はその間に海底へと向かい、険しい岩石や泥地に付着するベントス、付近を漂うネクトンを補食し続ける。 妻は普段、ベントスやプランクトンを求め、穴に潜むものや、隙間に隠れたままでいるものまで補食するため、夫は心配になるが、背びれや胸びれを震わせ静観している。この頃の妻は特に激しく交尾を迫るため、夫にとり辛い時期となる。 妻との交尾や、重くなる腹に落ち着かなくなると、岩礁近くの大きな藻場へと夫は小刻みに体を震わせ、生暖かい海をのんびり出掛けることにしている。藻場では互いの腹を見せあう者達で溢れ、褒めたり貶したり、賑やかに過ごす。 藻場での一時を楽しんだ夫は、月の光が射しこむ帰り道をゆらゆらと進む中、腹に熱が帯び始めるのを感じると、その蠢く熱にうながされるようにして家路を急ぎつつ、生まれてくるものたちを妻と祝福する姿をひとり、静かに想う。
Seahorse ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 818.6
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 72
作成日時 2024-09-04
コメント日時 2024-09-17
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 20 | 20 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 15 | 15 |
エンタメ | 10 | 10 |
技巧 | 10 | 10 |
音韻 | 5 | 5 |
構成 | 10 | 10 |
総合ポイント | 72 | 72 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 20 | 20 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 15 | 15 |
エンタメ | 10 | 10 |
技巧 | 10 | 10 |
音韻 | 5 | 5 |
構成 | 10 | 10 |
総合 | 72 | 72 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
自分の体で感じながら読みました。想像だけではなく、身体感覚も込めて書いていらっしゃる のだと、私は思いました。タツノオトシゴになってみる、という着想に、子供時代と変わらない 変身の経験を、思えるかどうか、というところが、読者次第だと思います。自分でない者に なってみる、そんな思いで、世界は正常に回っているでしょう。
1タツノオトシゴの視点から妻や子供への思い、心情が鮮やかに描写されているのが素晴らしい★ 絵本のような雰囲気に惹かれました。
1タツノオトシゴの産卵について、雌が雄の育児嚢へ産んだ卵を、雄が身ごもって出産するということを初めて知り、興味深く作品を拝見しました。出産に向かう時の辛さを私も昨日のことのように覚えているのですが、それを雄(夫)が体験している様子について、よく書かれていると思います。 >眠りの残る背のかたさを気にしつつ、やや大きめの欠伸をすると ここも、本当にわかります。おなかが大きくなると、本当にうまく眠れず、朝の目覚めは最悪です。何度も思うのですが、このことを夫が体験している様子を見ると、「あーー、もう、本当にそうなんだよ、わかるでしょ?」と言いたくなるくらい嬉しいです。 >妻はその間に海底へと向かい、険しい岩石や泥地に付着するベントス、付近を漂うネクトンを補食し続ける。 これはなぜなのかと調べたところ、出産したらすぐにまた交尾するためなのかなと。ほんとうにせっかちな妻だなと、おもしろく読みました。しかし、タツノオトシゴは寿命も短いし、少しずつ数が減っていることもあるので、やはり本能なのでしょうね。 人間の世界でも少子化が進んでいるのが分かりますが、「よし、じゃあ3人目考えるか!」と、少なくとも私はならないし、そう考えるとタツノオトシゴと雌(妻)はえらいなと。 >背びれや胸びれを震わせ静観している 時々雄が震わせているところ、どういう意味なのかなと。出産するときは体を震わせるということでしたが、妻のことを心配していたり、藻場へウキウキと出かけるたびに体を震わせているのはかわいいと感じました。
黒髪さん ありがとうございます。 自分以外のなにか、それを見てしまったのかもしれませんし、すでに何者かであった自分が何かに憑依されたのか、はたまた憑依を試みたのか。よくはわかりませんがたしかに不思議な感じはありますね。
1田代ひなのさん ありがとうございます☆ そうですね。 これはお話といいますか、絵本で見たり読み聞かせたりと、そうしたものに近いようですね。 あるいはヴァーチャルな図鑑、物語詩のようなものでしょうか。
1つつみさん ありがとうございます。 きっかけがありまして気になりましたから、タツノオトシゴなる生き物についていろいろ調べてみますと生態や種類などを知り興味深く思われてという、そうした流れからできたものになりますね。ご自身の妊娠や出産、育児などの経験と重ね合わせながら詠まれたようで、コメントを楽しく興味深く拝読しました。 雌、あるいは人間の女性の場合もやはり交尾などで身体や気力が消耗するためでしょうか。食欲が旺盛になるというのは雄(男)が思う以上にタフな生き物のようだと知り私も驚きでした。生存本能、戦略等。生き物の多種多様なあり方は理屈を挟む余地がないようです。 だからこそでしょうか。3人目を!とはならないといった実感、言葉は貴重と思いますね。オスからは出てこない、実感できないものですからね。 背びれなどを震わせるのはなぜなのか? おそらく雌の活動を心配するのかなと。もちろん想像ですが。
1面白いと思いました。例えば、「眠りの残る背のかたさを気にしつつ」というような描写は、(僕のような寝起きの悪い人間には)分かるところですし、人間の感覚とタツノオトシゴの住んでいる世界がリンクするような感覚を覚えます。一方で、「動物の世界をまるで人間の世界のように描いた」以上のものだとは思えませんでした。何か、プラスアルファの要素が欲しいところだと思いました。
1九十九空間 さん ありがとうございます。 プラスアルファ、なるほど。想定内の指摘を頂きました。 やはりそのままに過ぎたようですね。 タイトルをふくめいろいろと修正を行ったこともあるのですが。 参考にさせていただきます。
0九十九さんの、プラスアルファの指摘は私も同意ですが、その実態の捉え方、表現の生々しさは素晴らしいと思いました。 好きなところは、第一連と最終連の対比でしょうか。水面からの陽でも眩しく思うほど、夫にとっての「陽」がネガティブなものになっている。しかしその月夜、腹の熱を感じ、「新たな陽」が射すことに希望を持つ。その最後に至るまでの夫の心情などが深く描かれているので、切なくなりました。
1熊倉ミハイ さん ありがとうございます。遅くなりました。 タツノオトシゴなる海に生きる生き物についての知識はなかったです。 ですのでググり、ネットからさまざまに参考を得ながらでした。本作品は私のとは言えないものになりますか。 もちろん一応は詩としてのという意識から構築された創作物の一つなのですが。 冒頭にある陽の比喩、最後の月光の道。そうですね。否定と肯定、または陰と陽など。 身体を通じての変容があり、変化への過程や自然の神秘などのイメージがあったかなと。
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