縁に米粒が求愛する椀から、白昼夢の靄。
歳晩を、ひだ模様に彩る襖の横で、
部屋の隅の、主のいない蜘蛛の巣に咀嚼をあずけては、
灰づく草木の露に酔う。
蜥蜴。塀を降りて、暇つぶしに良い穴蔵を見つける。
朝顔の残り香に誘われたのだろう、
尾の影が奥から静かに伸びている。
ほろほろと部屋に射し込まれる余光を、
香炉が気持ちよく吸い込んでいる。
あの川面をすべり去る、からい憔悴を捲り剥がせば、
棄てっぱなしの、トゲの萎びた栗がじつは沈んでいるものだ。
木のにおいの、する夢だった。
洗堀される青い火薬のどれもが、
幽霊の象形文字となって褪色していく。
錬鉄が、輝く汽笛を届けていた白金の夏、
頭を振っても、現像されないあなたが笑っていた夏。
左隣に、斜陽を置き忘れ降りてしまった、
あなた
米粒をひとつつまむ。
固く乾ききっている。
唇すぼめ、あの歌ひそり、おちょこに口づく。
かろうじて、夜は来そうである。
ふと屋根が、きらやかな雪たちをドサリと地面に追い出した。
見上げると、黒く湿る梁たちがまだそこにいるものである。
外の土の中、蜥蜴の影はいつの間にか消えていた。
私の歌を、聴いてくれただろうか。
作品データ
コメント数 : 9
P V 数 : 1018.3
お気に入り数: 1
投票数 : 2
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作成日時 2024-08-25
コメント日時 2024-08-30
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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閲覧指数:1018.3
2024/11/21 22時36分01秒現在
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「灰づく草木の露」とは 一体どういうことなのだろう? 寒い季節のようなので外の景色ではないだろうし、 「灰づく」もよく判らない。 「幽霊の象形文字」もボクには判らなかった。 そういえば、 冒頭の「米粒が求愛する椀」もちょっと判らない 判らないけど、なんとなく判る気もする と、思ったら、 「洗堀される青い火薬」がまた判らない ‥‥等々 色々と判らなくてゴメンなさい、、
1コメントありがとうございます。 「色々と判らなくてゴメンなさい」 好意的に、作者ではなく詩に向けて謝っている感想として、受け取ります。 というのも、 最近、安倍公彦さんの「詩的思考のめざめ」を読んで、詩の中の独特な表現、景色の列挙などは、言葉の強い生命感・躍動感を呼び起こすものだと改めて納得して、この詩も着想はそこだったなと思い出しました。 私事になりますが、私が産まれる前に既に亡くなっていた祖父が、実は血縁の中で一番徳が深い人だったのではと考えながら生きていて、この詩はその未知の祖父の生活を想って書いたものでした。そのため、今の私が判るような言葉だけで書き切ってはだめだと、見慣れぬ言葉たちの力で祖父を蘇らせたかったのだと思います。 部屋の中、開かれた襖の向こう、塀の中、庭の様子を眺めていますね。外の景色だとは思います。「青い火薬」はベタですが若かりし記憶だとして、それが「幽霊の象形文字」=日記でしか確かめられないということ(現代の鮮烈な映像技術がない時代)かもしれません。 atsuchanさんは、判らないながらも、一人の人間が生きていることは察して、敬意を込めてコメントしたのだと、受け取ります。
1静かに経過していく、時の流れのようなものを作品から感じました。決して自己主張するタイプの作品というわけではないと感じるのですが、言葉による濃淡の付け方がとてもきれいだと思いました。
1すごいすきです。
1コメントありがとうございます。 時の流れ、確かに意識していました。部屋でじっとご飯を食べる「私」と対比的に、現れてはいなくなる蜥蜴、追憶の向こうの「あなた」、雪など。あとは、ゆっくりと動いていく時を横断していく歌。 気に入ってくださり、嬉しいです。
1タイトル内容の雰囲気から古民家(旧家)を対象にした霊念のような想いは伝わってきますね。祖父への想いという作者のコメントなどでそのイメージはより強く受け取れるというか、実際に存在した景想が読み手に上手く伝わるのかを考えてみた場合、あまりにも比喩表現に頼り過ぎると却って情感を歪めてしまうのではないか、というような気はします。
1確かに、それはありますね。 どんな時も、情感より言葉遊びを重視する性質なので、バランスが悪く映ったのかもしれません。 それでもそういう傾向に居座るのは、この世の視界のすべてが比喩だ、という信条を持っているからではと、このコメントで自覚しました。 ありがとうございます。
0この作品、気になっていたんですよね。実力、筆力ともの高い方だとは一読して分かっていたので。ただ、この作品に限ってはその高い筆力が、裏目に出たかなと。密集してるんですよ。高い技術による表現が。それだと僕の場合は疲れてしまう。しかし後半に突如として出てくるとても身近な描写、米粒をひとつつまむ。硬く乾ききっている。はスリリングでしたね。偏執的に日常を観察した瞬間という印象で。好きでした。
1私には勿体ないお言葉、ありがとうございます。 第一連、揺蕩うような視線から追憶の第二連に入り、第三連で日常に引き戻されていく、そのギャップを強めすぎたのだなと、stereotypeさん含め他の方のコメントで分かりました。 確かになと思った反面、今まで文章表現というものにコンプレックスを抱き続けてきた身としては、一つ指標ができて嬉しくも思います。 ありがとうございます。
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