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獅子奮迅
もともと肉体とか物質とかそういうものは信用していないのかもしれない、ほんとうは。この頼りない「わたし」とかいう概念と同じくらい。万人に理性を認めるカントは相当楽観的だし、己の所在を神の裏面に求めるデカルトはどこにも行けないし、かといって生命にまつわる何もかもを信用しきれないわたしも袋小路で寝るしかない。 教授の教えに則って断食をしたところ、わたしは小さな自室のベッドでトランスしたみたいに泣き喚くしかなくなってしまった。「わたし」が肉体の癇癪に乗っ取られるみたいな嫌な感覚。栄養不足を「わたし」に八つ当たりしないでほしい、と心から願うけれど、わたしもこの心の錯乱を体に八つ当たりしているのだろう。もうしょうがない。このまま殴り合って互いに死なないかなと思うが、割と命というものはしぶといのだ。わたしを主語にしてテクストを生成するにはわたしがどこにいるかを見つけ出さないといけないのに、わたしはわたしがどこにあるのか、どこが意志で何が反応なのか、そもそも自由なんてあるのか、全く皆目見当もつかなかった。冷房の行き渡った部屋は冷たく、しかし身体はうなされるように暑い。動悸は止まらないし、世界の果てはわたしに付き纏ってどこにも逃げられない。 詰まった息を吐き出しながら上体を起こし、腹から胸までちくわみたいな空洞になっている錯覚を覚える。吸った息がそばから脳天を抜けていく。じゃあ胸に溜まっているこれはなんだろうか。感情がそうかもしれない。わたしはこれを捨てようという気にはならなかった。たとえこれで本当に喉を詰めて窒息して死ぬのだとしても、それでも良かった。こういう情動がなければ生きる意味もないのだ。ない意味を何かに当てつけるとしたら、それはわたしにとって感情でしかなかった。わたしはネクタイをカーテンレールに引っ掛けておきながら、今なお生に執着している。一方では何もかもを憎悪しながら、結局それは深い愛情の裏返しでしかなかった。
獅子奮迅 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 334.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-08-18
コメント日時 2024-08-18
項目 | 全期間(2024/11/24現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
死に際に何を道具に選ぶか、って人生が出るなぁ、と思いました。 ネクタイを締めない人種も世の中には大勢いるのに、この人はそれを最後に思い浮かべたんだ、と。
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