鏡の中の鏡――アルヴォ・ペルトに寄せて - B-REVIEW
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鏡の中の鏡――アルヴォ・ペルトに寄せて    

Minimal musicの傑作といってもいい エストニアの現代作曲家アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」は 多分、誰もが一度はしたことがあるだらう合はせ鏡に映る 永劫の尻尾を見るやうな蜿蜒と続く鏡を音楽にしたものだが、 その音楽はブライアン・イーノにも通ずる 静謐な響きが夙に美しい旋律で紡がれてゐる。 そもそも音楽は時間の芸術といはれてゐるが この「鏡の中の鏡」はMinimal music特有の 一聴すると同じやうな旋律が蜿蜒と続くだけの 退屈な音楽に思はれるかもしれぬが、 そこはペルト、一筋縄ではいかぬのだ。 美しい旋律の反復に 少しづつ小さな差異が現れながら展開する。 それがたったの一音であったりと ぼんやり聴いてるゐると聴き逃してしまふ 小さな小さな差異なのである。 しかし、実際、時間といふのはさういふものであった筈に違ひない。 遙か昔に日常を必死に生きてゐたものと AIを駆使しての 便利になればなるほど忙しくなる現代人の日常を比べると その差異は時間を発掘することであるかもしれぬ。 日常が皮袋にぴたりと張り付いてゐた遙か昔の日常は、 一日の時間が最小単位で、 そこに季節の移り変はりを一区切りとして 一年が日常を計る時間の単位であると思はれる。 それが現代では一日が最小単位では悠長すぎるのである。 電脳が光速近い速度で情報処理するAIの登場により 時間の最小単位は一秒でも悠長な それはいふなれば光が一ナノメートル進む時間がもしかすると 現代の時間の日常においての最小単位なのかもしれぬほどに 時間は彼方此方に撓みが生じて その撓みがまた時間で埋められ 計測可能なものになり、 計測可能といふことは その時間は皮袋が活動するのに可能な時間となり、 それがどんどんと深掘りされ行き 現代の正確無比で精巧な時計で計測可能な最小の時間単位が 日常においての区切りになってしまったのである。 毛むくじゃらの時間が嗤ってゐる。 それに対峙するものは 時間と刺し違へる覚悟がなければならぬ。 さもなくば、そのものは時間に喰はれ 高速回転する陥穽に嵌まり込むしかないのだ。 それを免れるのには アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」のやうな 反復に現れるほんの少しの差異の気付きにこそ その鍵が隠されてゐるのかもしれぬ。 「鏡の中の鏡」は美しすぎる故に 寸時も聴き逃してはならぬ。 この見事な反復に隠された毛むくじゃらの時間は 対峙するものの隙を窺っては いつ喰らふかを算段してゐる。 毛むくじゃらの時間が殺気を見せたときに 対峙するものは一刺しで 毛むくじゃらの時間を仕留めねばならぬ。 それが美といふものだ。



鏡の中の鏡――アルヴォ・ペルトに寄せて ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 1
P V 数 : 497.6
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2024-02-27
コメント日時 2024-03-02
#現代詩 #歌誌帆掲載応募 #縦書き
項目全期間(2025/04/15現在)投稿後10日間
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2025/04/15 18時17分26秒現在
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    作品に書かれた推薦文

鏡の中の鏡――アルヴォ・ペルトに寄せて コメントセクション

コメント数(1)
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(2024-03-02)

鏡の中の鏡 聴いてみました。きっかけをくださりありがとうございます。とても静謐で美しく、わたしは眠くなる……

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