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vapor trail
1 ――また、来ました、私。 そのひとは飛行機雲を背に (飛行機雲、vapor trail、蒸気の足跡とも言う) 腰を折った。玄関口で。 そのひと――「あの」ひとでもなく、 その、そのひとだ。 目を閉じなさい、と聞こえたので従った。 ぼくたちに強いられた、その命令 しかし、目とは何だ。 何が、このぼくのその、目の前で起こっているんだ。 また、飛行機が行った音。でも、足跡は聞こえない 足跡は、見るものだ 2 聞こえる物音は多くない。でも、増えている。 声が聞こえるけど、ぼくたちが聞くのはその、その命令だ。 そのめいれい――「あの」ではなく――。 「また、」とそのひとは言った、 「来ました」と、 「私」と、続けて。 一歩ごとに複雑になっていく足跡のようで、 伝わることは一言ごとに増えている、いるのだ。 ぼくが従ったのは、ぼくが聞き従ったのは、 そのめいれい――「あの」ではなく――ぼくたちの。 また、飛行機が行った音。でも、 そろそろ空は足跡でいっぱいだろうか。 3 あの命令は目を閉じなさいと言った。 「目を」、「閉じ」、「なさい」と。 とはいえ、電話が鳴っている。 トースターも焼けて、ポンとはねている。 陽が射してきて、身体がポカポカしてきた。 ぼくは言った。その、その疑問を―― ――どこ、行くの。 腰を折ったそのひとの胸から、 落っこちた レモン色の電子タバコ吸引機 (vaporizerという)
vapor trail ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1142.7
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2023-12-12
コメント日時 2024-01-10
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
この前裏庭に座ってシェアメイトと空を見てたんですが 飛行機雲が空を渡って行きまして 俺はすごく田舎に住んでいてとにかく空が広い場所なんですが 飛行機雲だねって シェアメイトに言ったら ケムトレイルだね って言ってたんで何それってきいたら 陰謀論者が言うんだよ あれは飛行機雲なんてものじゃなくてケムトレイルで明日を雨にするケミカルなんだよって教えてくれました たしかにその次の日から季節外れの嵐が来ました 空は毎日空を繰り返していて 鳥とか 飛行機とか 雲とかが飛んでて 俺たちは地上からそれを見てて 日常は毎日過ぎて 毎日がエブリデイだねなんて 暇だなとか言って はー? ひまー あー とか言って 永遠のフリをしながら日常は過ぎて
1とても好みなタッチの作品でした。飛行機を題材にした小説・アニメーションは結構あって、そのなかでも僕が好きな作品と似ている気配を感じました。飛行機の足跡という表現が洒落ていました。終わり方として、一つの区切りはつけられているのですが、でもそれ故、もう少し長く読んでいたかった、インメルマンターンじゃなくて、スロットルを全開にしたまま、もっとこの作品に心を預けてみたかったなと、そんなふうに感じました。
1すみません、ライトレスです。今日は体の具合が悪くて1まで読みました。結果、すごいです。 > そのひと――「あの」ひとでもなく、 このあたりまではあまり熱中してなかったので、世界観が理解できずふーんとなっていました。 「足跡は、見るものだ」ていう、いいまでもないかもですが、これが良いと思います。話し言葉と書き言葉の隔たりと跳躍と呼べるものがこの世界にはあると思います。文法的誤りと口語としての許容範囲みたいなのもあると思います。文脈によってアウトやセーフが変化することもあると思います。 足跡は見るものだというところにはそういった国語に対する、なんというか内省を行っている人だというものを感じて、クールだと思うんです。 すみません!あんまり日本語のこと何もわかってないので、変なこと言ってたらすみません
1ひこうきぐも。何を言っているのか、ではなく、言葉通り視界に写し取って行きたい。それだけでなんか好きだな
1コメントを読んで、「飛行機を題材とした詩」として読んでなかったことに気付きました。私にできるかは別として、飛行機にもっと寄り添っても良かったのかなと思いました。
1日本語が話されていないところに行く機会があり、そこでなんか寂しくなって、自分なりに、日本語に向き合おうと思って書いたので、そういうところが伝わったのかなと思いました。
0ああ、こういう風にも書けるんだ……と思いました。コメントありがとうございます。
1なにか通じるところがあったようでうれしいです。
1視覚的な文字表現で、静かな内奥をつづったこの詩篇。飛行機と電子タバコの軌跡、そして命令の声が美しい。
2vapor trailも飛行機雲なのですね。コントレイルが飛行機雲なのは知っていたのですが。目を閉じなさいと言う命令?玄関でなされた命令だろうか。そのへんは曖昧なのですが、腰折れと言うのも腰折れ歌ではなくて、この詩では文字通りでしょうが、どうしても和歌の世界の腰折れ歌が浮かんで、イメージが錯綜しました。 2では「めいれい」「あの」では無くて「ぼくたちの」。増えている物音。飛行機が行った音は、「いった」と読むと、米軍基地や自衛隊の基地が近いのだろうかと思いますが、「飛行機がおこなった音」と読むと、ジャンボ機でもいいような、そんな感じがします。 3では目を閉じなさいがまた出て来て。そして最後の行のレモン色のタバコ吸引機。タイトルの飛行機雲を思うと、吸引機と飛行機雲を比較してほしいのではないかと思いました。
1あけましておめでとうございます。 なんだろう、作者名が伏せてあるけれども、きっとこの方は、もうある種の「型」という 自己のスタイルといってもいいかも知れません。 それを確立されており、この作を読んで、じっさい、意味、ミーニングとして あまり面白い事、とか、読者の心を動かそうという事とか、そういうものは抜きで書いてらっしゃる。 それは静謐に、美学として、自己のフェチ、を提出するだけだけれども、こういった事に拘れるのも それが楽しいからだと思われる。 そう楽しいと感じられている内が花であって、そうすると、その花の向こうに、作家として、何か今後、本気で書こうと思ったのならば苦心するのは目に見えて、だから今、「旬」だと思わされた。 すいません、語が荒くなってしまって。一票。
1めいれいに対する拘り。分節されるセンテンス。一般的に目を閉じなさいと言う命令は散文的と言うよりは情緒的で、陽が差してきてポカポカしてきたのかもしれませんが、何か妄想がポカポカさせたのかもしれません。
1読んでいただきありがとうございます。「視覚的」というのは、ひょっとしたら二重の意味(景の描き方という意味と、鉤カッコなどの文字の意味)で評して下さったのかなと思って、考えています。
0>どうしても和歌の世界の腰折れ歌が浮かんで これ知りませんでした! それはイメージが錯綜しそうです。
0ありがとうございます。
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