私を洪水に追いやった姉がいて
いつも酷い頭痛に悩まされる
スプーンや菜箸をやおらと持ち上げる習慣のせいで
編纂した辞書は全部私の産声で埋め尽くされた
おかげで生きることは大変な仕事になった
結婚しようとする人に音楽がないように
私にも楽隊がいない
荒れた庭を手入れしてるのは誰か?
それを野生動物たちがぐるりと取り囲んで見ている
ただ見ている
そう、見ていてくれるだけで肯定されるのだ
静寂に白いものが混じる
空からちらちら降りて来る
夢を見た時の映像にもちらちら混じる
解像度が次第に落ちてきて
もう思い出とかもはっきりしなくなった
数えることは止めてしまおう
いや寧ろ止めないでと言うべきか
若いまま死んでいくあの黒い鳥にも影があって
それを記録した映画が何処かで完成する
だから嫌いな季節がまた増えて
その度に新たな季節を引っ張って来なくてはならない
ほねがおれる
いきがきれる
たいへんなしごとだ
がんばるしかない
何も描かれていないのではなく
誰もいなくなっただけ
かくれんぼしてるうちに見つけて貰えなくなった
それが気持ちよくなっただけ
好きな線を集めなさい
好きな色を使いなさい
絵の具箱の中で一回り大きなチューブ
間違えたなら修正してあげる
透明になんてさせないで
見てればいい
貴方はただ、見てればいいの
尻尾の退化した動物たち
周りをぐるり取り囲んで、だから
緊張して手元が狂って
爪が割れて、色が滲み出た
途端に不安になって、光を集めたくなる
だって色なんてどれだけ重ねても白になんかならないし
黒に近付くだけだから
がんばろう
かさねよう
それがいつか黒い翼となって
やがて雲の影と見間違うまで
(他に方法ってある?)
作品データ
コメント数 : 4
P V 数 : 613.7
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-11-21
コメント日時 2023-11-23
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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閲覧指数:613.7
2024/11/21 22時59分23秒現在
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姉との確執、庭の野生動物たち。夢の画像と現実の画像。鳥の登場。黒い鳥は重要な存在ですね。後にも最後らへんに出て来ます。ずっとかくれんぼが続いているかのような人生。好きな線や好きな色。黒に近付く色。ああ、黒い翼でしたね、最後らへんに出て来るのは。黒い鳥ではありませんでしたが、ブラックバードの存在が、この詩の屋台骨の様な気がしました。
0洪水、辞書、音楽や楽隊、野生動物、映像の解像度、黒い鳥の映画、そして絵の具。 様々なメタファーが用いられている中で、タイトルが「修正液」とされているのは、日々の苛立ちとか寂しさとかの中で、間違いながらも描き続けることを大事にしたいから、そして、ひらがなで書かれたところにその思いが込められていると、そんなふうに受け取りました。 また、 「だって色なんてどれだけ重ねても白になんかならないし 黒に近付くだけだから」 というところに、思うように描くことができないもどかしさが表されているような気がして、身につまされます。 そして末尾の「(他に方法ってある?)」という言葉に「そうだよなぁ」と、一人でなんとなく納得してしまいました。 いい詩だと思います。
0不吉な者は時としてその不吉さのために守護神ともなります。神の手でも及ばないような働きをするのでしょう。黒は過ち、それは消せない傷跡であり、一生残るものでしょう。そう、烏になら生まれ変わってもいいかな、と思うのです。 今夜はジャージャー麺が食べたいなー。
0ありがとうございます。深層心理はちょっと自分でもわからないのですが。ただ白も黒も色彩の最終地点として存在してると思ってまして、臨終の姿といいますか、なのにお互い交わることはないし、どちらも色を隠す役割を担っている、そして白よりも黒の方が少し強力。だから白い修正液はあるけれど塗り潰すための墨は売ってないのです。何故不自由なものに私たちは引きずられながらも憧れてしまうのか。もどかしさは時に快感。
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