例えば、美しい翻訳においては
言葉と、言葉のズレが
想像力の広がりと奥深さになった
いま、私たち二人は
そのような愛を考えられるか
私たちは時に、再会を嫌うことがある
出会いと別れという単純な一本の線を
懐かしい人たちが曲げようとしている
果たして、この曲線は近道なのか
あるいは、新しい何かが待っている
曲がり角なのかもしれないし
そこを歩む私たちの
迷いの足取りそのものなのか
再び、私たちの時が、始まろうとしている
振り返ると
たくさんの見知らぬ人たちが
スクリーンを一生懸命に見上げていた
奪った紙幣の記番号が控えられていたらしく
ガンマンが口をパカパカさせて悔しがっている
保安官はみんな笑っている
いま、私たちは
映画館で一つになっているが
このサイレントが終わる頃には
私たちはそれぞれ
好きな人と家に帰るだろう
二人は手を繋いで
私たちの兄妹は太陽を見上げれば
いつも悲しいことを言う
幼いその兄妹は河の水を掬い
河の流れで傷を洗う
いつかは忘れられない記憶も忘れられて
いつだって忘れ去られてはならない
流された血と同じ熱が、温かさが、全身を駆け巡っている
河原にはたくさんの墓石があった
「今年のクリスマス・イブは雪、降らないね」
いつも同じ名前と数字が刻まれていると思う
連れ去られるように
保安官の一人が消防士に担がれて
枕木の外へ運びだされた
こんな人が
こんなにも、多くの人たちが
一体、街のどこに住んでいたのか
保安官は、血の記憶を隠すように
傷ついた全身で彼の左腕の上に覆い被さった
たくさんの人たちが
互いに何かを話し合っている
私たちはついに一つではない
それでも世界は一つなのか
私たちの悲しみは深く
どの深みにも道と迷いがあって、それは見知らぬ街ではなく
砂漠での迷いであった
私たちはいつからか一人で泣くようになった
私たちは隠れて泣いたり、人混みの中でも泣いた
私たちはそれでも、一人だけが悲しいことなんて、なかった
それでも世界は一つではないのか
待ち望んだ、めまいのような
思いがけない思い出を
私はこうやって耳で見ている
彼は
美しい星と、星とを繋げるように
私の乳房を、そっと指でなぞってみせる
舞台のような熱い言葉は
私たちの会話にリズムを作る
私たちの会話が音楽に似てくる、それが目に見えてわかってくる
再会には
出会いとも別れとも違う
どこか魔法のようなところがある
「どうして、魔法はもう、比喩でしか語られないのか」
「実はあのとき」
「どうして、今になって」
ベッドの上でワザとらしく
種明かしを始める
彼は私の乳房を指でなぞっている
彼の背中に私は腕を回してみる、やっぱり大きかった、そうなんだよね
けれども、もう熱はなかった
人は人を耳で見ようとすると
自然と、目を閉じていることに気がつく
人の旅に思いを馳せる
そんな風に
これまでと
これからを想像してみると
どの人の旅にも、迷いがあった
どうして溺れないのに
泳ぐように道を歩いているの
どうして歩くように河の流れに逆らわないの
向こう岸まで渡ろうとするあの人たちは誰?
乗り捨てられた馬と目が合う
電話番号、まだ知ってるよね
また声を聞きたいな
ありがとう、さようなら
金のない子供たちは
何もすることがない
もう何日も走り回っては、何度も転げている
目は盗人のように鋭くなり
愛は奪い合うものであると知る
与えたり受けたり
そんなに行儀よくねえからさ……
河の水で冷えた傷口を覗いてみると
そこからは海を
世界を盗み見ることができた
ボロボロになった保安官は
彼が詩を書き込んだ『シェルタリング・スカイ』のフライヤーを渡してきた
わけもなく
はなればなれに、なって
私たちは
しかし考えることをやめない
私たちは愛の次に
彼らを考えてみることにしたのだ
一人はいつも許している
一人はいつも許されてばかりいる
それが二人の孤独であった
二人は
すれ違って
ついに振り返らない
ただ、そこの
一番遠いところで
みつめあっている気もする
それでも
どんな二人でも
二人が、
いま、ここに、共に、いるということは
それだけで
そのままで
これまでも
これからも
許されてきたし
許されているのではないか
それは誰に?
それは
それは、上手くは言えないけれど
でも
ここから、私たち二人は、やっと
それぞれの言葉で
共に語ることが、できるのではないのか
そんな気もする
保安官はもう、ダメなんだよ
人々はハエのように集まってきて
何もできないのに何かをしたがる
私も思わず必死になって
ガンマンの左手を握ると
たくさんの人たちに混じって
なんとか、右手を掴もうとする
彼の姿があった
まもなくガンマンが保安官を連れ去りにくる
私の涙一つ
私たちの涙一つずつ
合わされて、また一つ
「海だ!」
幼い兄妹は宿題の
算数ドリルも漫画も家に忘れてしまった
何もすることがない
車窓の向こう側に広がる港湾を眺めながら
どんな船に乗ろうかなどと興奮している
どうせ切符も買えないのに
「今週の少年ジャンプ、まだかな」
私たちはついに一つではない
それでも世界は一つであった
引き裂かれ、はなればなれに、なって
一つの世界で、私たちは、それぞれ、生きてゆく
一つの世界の、大きさを、知ったとき
流された血と同じ熱が、温かさが、いまも
私たちの心を目指している、そのことを、忘れないとき
それが、私たちもまた一つ、ということなのだ
私たちの悲しみは深い
それでも私たちは
その悲しみよりも、もっと深いところから
いくつもの言葉を、掬い上げてきた
その言葉のどれもが、感謝であることを
信じてやまなかった
クリスマスだから、いいよね
久しぶりに電話でもかけてみようかと思ったけれど
彼について考えてみると
別れた後に連絡をする理由がなかった
彼についてはこの二日間、あれこれ考えてみたが
一つ分かったことは、私も大人になると
こんな満員電車でも泣けることだった
ボックス・シートの席の一つが空いたので
たくさんの人を掻き分けて
なんとか席にたどり着いた
前の子供たちは兄妹だろうか
二人は笑い合いながら
死んだフリをしている
訊いてみると、サイレントの西部劇の真似だそうだ
電車の進行方向とは逆向きの席だが
ちっとも酔わずに、楽しそうにしている
面と向かって後悔をするために
そう、私たちも再会をしたようなものだった
子供たちと笑い合いながら
私の心はもう一度、彼を振り返ってみる
何度でも、私たちの時が、始まっていた
始まっている!
時が始まっている!
私たちの心は
燃え立つほど光っている!
別れと、出会いを繋げるように
息を吐きかけた車窓を
私はそっと指でなぞってみせる
海は遠のいてゆく
私の愛が大きくなると
世界の大きさは遠のいていった
時が始まっている
私たちも再び
燃え立つほど光っている!
陽が射し込めば
私たちの兄妹は
自然と、目を閉じていることに気がつく
私たちの悲しみは深い
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1821.3
お気に入り数: 4
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-27
コメント日時 2023-11-18
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:1821.3
2024/11/21 21時20分16秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
・私たちもこのロスト・ハイウェイの先を急ぐ ・天国の子どもたちは、腕を大きく伸ばして、泣き叫び、喜んで求めてゆく ・122412251227 三部作です。 もう忙しいのでコメント打てないかもしれません。
2>ガンマンの左手を握ると → 保安官の左手を握ると
0すばらしい作品
4深い信仰に、その魂を捧げなければ、これらの言葉、詩は生まれなかった気がしました。 それほどスピリチュアルで、壮大な詩群、三部作 (上記筆者注釈) でした! 自分こういうの、好きだからかな ... どの作品も読むごと切なくなって泣けたです。
0これはもう、読ませてもらったことをただただ感謝するしかない。 ゼッケンです。勉強(以下略)さん、こんにちは。ありがとうございます。 作者名がこうなった経緯は知りませんが、知らない方がいい気がしてます。 お名前はいいとして、タイトルはでも気になる。 >122412251227 判定器にかけると素数ではないらしい。7で割り切れるそうです。 日付け? 12月24日、12月25日、12月27日。 たしかに「今年のクリスマス・イブは雪、降らないね」という印象的なフレーズが。 で、後半になると、 >クリスマスだから、いいよね >彼についてはこの二日間、あれこれ考えてみたが と謎解き部分が出てきて 24日と25日の二日間考えて、25日の夜に電話、27日に再会して、ということかしら。3日間の出来事。 いま、ゼッケンは野暮なこと書いているという確信が降りてきた。 読み物としても面白いし、すなおに感動もできるし、読めて良かったとだけ思える作品でした。
0ありがとうございます
0泣くというのは、すごくいいことだと思います。感覚を喜びに任せることが、どれだけ素晴らしいことなのか。 ありがとうございます
1単なる数字の羅列は、決して愛されることもなければ、長く記憶されることもないと思いますが、しかしそれゆえに、名誉や強権、そのほか何者かの手からも逃れて生き延びるような、強い存在感があるのではないでしょうか。 ありがとうございます
0