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フィラデルフィアの夜に 44
フィラデルフィアの夜に、針金が見ます。 寝苦しい夜の事です。 寝ようとしても眠れない者にとって、その夜は何よりも永く続く様に思えます。 思わず目を開けても世界は未だ真っ暗で、手を伸ばした時計は深夜から一向に時間が進みません。 それでも眠らないといけないと、一心に目を閉じます。 また、全く同じ動作を繰り返すだけだとしても。 暑く、湿って、寝苦しい。 冷房を寒いくらい効かせても、暗い部屋をさらに漆黒に変えても。 直ぐに目が明き、時間は遅々としか進みません。 また、目が開いた時。 思わず目を擦った指がおかしい。 痛い? それは何か刺さった感触。 目は見えている。時間が進まない時計のバックライト。それが見えている。 いや、見えていない。 左目と右目で、世界が違う。 「ガァ」 カーテンの向こう。月夜にカラス。 その胸元。見覚えのある目の形が、存在している。 光を弾いて光る針金で作られた目の。 右目を閉じた。 自分が闇夜のカラスを見ている。 左目を閉じた。 自分自身が見えた。左目を閉じ、右目のある部分に何もない、自分自身が。 自分自身が見える。 自分自身が見える。 自分自身が見える。 自分自身が見える。 自分自身が見える。 自分自身が無数に見える。 左目だけでカラスがいる外を急いで確認する。 右目を胸元に着けたカラスが、こっちを見ている。 数えきれない程。 目を、これが我々の勲章だと言わんばかりに。 「ガァ、ガァ、ガァ」 カラスが飛んだ。 一斉に。 右目を胸元に着けたまま。 黒い塊が、遥か空へ飛び立つ。 真っ暗だった世界。 そこからすぐに宝石の様な光り輝く街が現れた。 脳を破壊しかねない程の輝きが、飛び込んでくる。 住んでいる街。その街の姿か。 風に乗り、さらに空へ。 低い雲を抜けた先。星々。 夜に向かって砕けた水晶を掴んで放り投げた煌きが、無数に突き刺さって来る。 いつもなら何も感じない光が、いつになく綺麗に思える。 無限と言える視野が、この世界の色を全て知覚してくる。 これはカラス、カラスの感情なのか。 ひどく楽しく思える。 ありとあらゆる空の色を、無量の視覚が確認する。 そして、大きな光が、空を一気に青く変えてきた。 朝だ。 朝が来たのだ。 気が付くと光が差し込んできています。 眠っていたようでした。 右目は触っても、鏡で見ても、いつもの目でした。 ただ目を閉じれば、あの光と感情を思い出せました。 あの信じられない限りのない視野視界と。 「ガァ」 たまにカラスが夜に訪れます。
フィラデルフィアの夜に 44 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 806.6
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-02
コメント日時 2023-11-12
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
とても面白かったです。 眠れない夜に、カラスがやってきて、右目と左目で違うものが見える。 カラスの胸元に自分の目(針金製の)。飛び立つカラス、の群れ。 カラスに付いた目が、街を見下ろしてみるのですね。 美しい夜景、水晶をまいたような星々。このあたりの描写が美しく、詩的です。 読み終えると、冒頭の意味の分からなかった言葉の意味が分かる。 幻想的で美しい物語のような詩ですが、癖の強くない文章と、描写の確かさで、 とても酔わせられました。
0こんにちは。 幻想的な詩ですね。 暑い夜に現れた無数のカラスに右目を奪われる。 その奪われた目で無数の自分自身を見るところが面白いです。 「自分自身が見える。」というフレーズが何度も繰り返されている表記に、昆虫の複眼を思い浮かべました。 そこまでだけでしたら単に恐ろしい体験なのですが、その後一斉にカラスが飛び立ち、それにより無限とも思えるほどの視野を持つことができた、 「夜に向かって砕けた水晶を掴んで放り投げた煌きが、無数に突き刺さって来る。」 「ありとあらゆる空の色を、無量の視覚が確認する。」 そんな幻想的な展開が美しいですね。 文体を「ですます調」と「だ・である調」とで書き分けています。それにより夢(幻想)と現実を区別されているのですね。 そういう手法もあるのかと勉強になりました。
0こういう物を気が付いたら70作品書いています。 ビーレビューに投稿しているだけでも44作品です。 フィラデルフィアシリーズと気が付いたら称されております。 流石に初期の物は拙いですが。 今回は杉浦日向子の漫画「百物語」(新潮文庫版と愛蔵版があります)から発想を得ていまして。 その中に収録されている話の一つに、「奇妙な話を集めているご隠居の元に、不思議な体験をした女性が訪れる。彼女が言うには、気配がして目覚めると、鴉が旦那の目を引っ張って自分の胸元にくっつけていた。あっ、と叫ぼうとしたが鼻の下にはなにもない。鴉が『一晩借りるだけじゃ』と言いつつ振り返ると、旦那の目と自分の口が鴉の胸元にあった。夜が明けると元に戻ったが、旦那は空を飛ぶ夢を見たと言い、自分は散々叫んだのか喉が痛かった」というのがありました。 この鴉が目を借りるという発想を拝借しつつ、独自の世界を展開させてみました。
1悪夢的と言われた事のある作品群ですが、悲劇的な事にはまずなっていません。 針金にまつわる不可思議な出来事が起こり、その描写に力を入れてます。 文体を書き分ける事で場面ごとの緊張感を変える事ができるのでは、と思いこのシリーズでは実験的に「ですます調」と「だ・である調」を両方使っています。 一定の効果はあるなと思っていたのですが、指摘されたのは初めてです。 やはり効果はあったのですね。 上手くいったようです。
0おはようございます。 なかなか不思議な詩で、そのこれは不思議な詩ですね、で、じぶんの中の不思議ボックスの中に しまっておくこともできると思うんですが。 その、阿頼耶識、ってあると思うんですよ。要は無意識の中の無意識。 そうして眠り、体を横にしているのですけれど、それは昏睡と常時の境を揺蕩っている。 その、昏睡側に行ってしまうわけですけれど、そこに移行する段階で 人は何か不思議なものを、見ているのかも知れないけれども 結局、眠っちゃうから覚えていない、ってあるのかも知れないと思いました。 加えてカラスは日本では聖性の鳥で。なにかいいことが起こりますように。
0なんでこのような情景が思い浮かぶのか自分でもわからず、またかなり書きながら考えて(というか掘り起こして引きずり出すというか)いるので、自分の中の不思議ボックスにいれたままだと整理がつかなくなりそうではあるのです。 確かに夢の中の出来事のようにも思える話です。 でも事実なのかもしれません。 まあわからないですが。 そういえば八咫烏は日本神話で神聖な存在でしたね。 ここのカラスはどういう存在なのかはっきりしませんが、悪い存在ではないのは確かそうです。 牛舎にカラスが入らなければそれだけでとても良いことなのですが。 (サルモネラを媒介する可能性があるのです)
1寝苦しい夜なのでしょうが、どっちかと言うと慣れない環境で何度も寝入っては目を覚ましているのではないかと思いました。自分自身が見えるのも夢の中で有るような、寝入っていることに自覚症状のない自我なのかもしれないと思いました。「自分自身」と言う表現が、自分自身そのものではなくて、自分のイメージだから、自分が見た夢だからすべて「自分自身」であるような。自分で作り出した像に対して責任を取る姿勢が執拗な繰り返しにつながっているのかもしれないと思いました。
0なんだか物凄く深読みをして下さっていますね! 全くそこまで考えていなかったのですが、 >自分で作り出した像に対して責任を取る姿勢が執拗な繰り返しにつながっているのかもしれない これとか斬新な解釈です。 責任を取るために繰り返すのは確かにあり得ます。 しかしなぜそこまでして責任を取らねばならないのかという問題が発生しますが。 自分では至らない発想をありがとうございます。
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