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短歌連作,「光暈、鉄、飢餓」
柳に風なでぎりのしろきはな散りて死を思はざる青年たちへ 密葬の墓日陰にてしづまりぬ他虐の果てわすられゆくものは 民族傷まみれなれパラディウム綱を亙りて子法師のごとし 基督を糾せしものは聡かれどみづうみふかきへくくるすべなし 十字架のうへ殉教のゆくへとは謗りをまぬがれず花茨 汝祖国の爲に死ねちつぽけな配給を待てど暮らせど 飢饉そは先触れおほくの厄ひを閉じしかるべき裁量を求め 「薔薇色の人生」獄中すくとしづまりぬ抵抗にこそこころふるへて 復讐を怖る拠りてはさきがけ全殲を謳へるこゑに涌ける群衆 黒百合脱色さるも白百合へかはりえず洋墨ふふむところにがかり 正鵠眼中になくば眼鏡の蔓骨としひしめくひとつのゲットー 詩歌既にして退廃健よかなる声楽響かふつつみかくさず死ね 死ねといはばいいはなちたる牀机にてさびしく剥かれず無花果一塊 たたかひに沸き立つ蹴球試合の選手すなはち死の匂すなり 殴たれたる頬を蔑せるもあはれ胡蝶花おしだまりて咲くものを 礫石そそがる娼婦を群衆はにくしみ止まずわれをわすれて ルドベキアの花の根の末復讐に腐りそめをりひともとならず 容赦なく一日毎に近づきぬその時なごりさへ捨つるべし 搦めて見せよ長繩の緒の結び目のかたきこそうつくしきよすが 牧人を逐つた自警の収奪にふけりゐるかなみな國のため 基督にうらぎりの影差し緋色纏ふいばら痩せてこはごは 奇蹟にはいたらざる二三程の俗あぐれば非公式聖母生誕祭さへ 辺獄に暫し閉ぢらる青銅の蛇目に見ゆるを信ずたやすさ 青年をそそのかしたつ青年のかげひとつきりぎしの高みに ひとりでに走り始むる乳母車のがれのがれ艱難の町出づ 「悪魔の子」歌ふ歌手ありハーメルの笛吹き疫病村にそぐはば 瀝青の舗装路熱きてりかへしたつ陽炎に駐輪場あり 音楽科禁止曲目ショスタコーヴィチいはずもがな「革命」の尚更 鈍鈍と発条歩行人形の倒れて宙足掻き掻きゐて 命令は旧き航海羅針盤北限に七つ星藍藍たるひかりを 児の熱を額もてはかるサマリアに青痣まみれの辛夷の花は わが領域揺らぎつつあり熱病の汗ばめるチュニック火照り 薄皮一枚はぐれて牀上に地球儀まろまろと肥え剥かる無花果 動悸とは日にたちくらむ僧帽のうら涜神にふける花韮 背教の愛こそ逸れ蓼の墓うち晒されて畳みそびれり 浮かさるるままただみづに触れよ浴槽の菫色の石鹸 馭者の恋あへなくそらにまぎれゆき星霜のふかまりぬ宵ならむ 夜の肖像くちひらきなまめかし熱もてる頬薔薇と染みつつ 宿痾ならめパブロピカソの分割線うち笑まふ貴婦人きりきざみ 命いかばかり燃え差しの閉ぢられ琥珀石に蚊かばね ガリラヤに漁れるしろたへの稚魚はらから絶ゆるを粛巌と悼まむ 人間動物園かつてあり群衆わらふもみづからの檻しらず 蜻蛉の恋死をしりそめしをとめゆゑ黒衣熾天使こそを寵せし そのをとこ裏切りへ向かはしめたるは花蘇芳の花粉そでに染みつつ 誰よりも奇蹟尊び見えざればひらくも叶はずサンタルチアは 湿版写真なまがはきなる漆喰の壁へ花投壜を吊れるをやきて 柑子樹にはしごをかけて仰ぐ雲淀みぬ嵐のまへの静けさ にくらしく驕れる花の名を月下美人十五夜が許ひらききり 柩大工と蔑されし青年をこころみ対峙す星空の父 釘の痕さする諸手に塩粒の浮き巡礼カぺナウムへ入りぬ
短歌連作,「光暈、鉄、飢餓」 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1079.2
お気に入り数: 3
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2023-09-22
コメント日時 2023-10-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
>柳に風なでぎりのしろきはな散りて死を思はざる青年たちへ 柳の木と、花が散る場面、死を思わない青年へ、死を思えというメッセージと回顧が感じられました。 非常に滑らかに情景を詠まれていて、言葉の美しさもあります。その時の想いを、きちんと保存して あり、うっとりする一首かと思います。 >「薔薇色の人生」獄中すくとしづまりぬ抵抗にこそこころふるへて これはいわゆる境涯詠、思想詠かと思いますが、こころふるへてを導き出す現実が、行動とともに 思想を持つ自分というのが読まれていて、漱石の「倫敦塔」なども想起されました。 >礫石そそがる娼婦を群衆はにくしみ止まずわれをわすれて 群衆に憎まれ、刑を加えられる娼婦の哀しさ、悲惨さが、実際にはどこまでもリアルに想像を出来る のですが、歌となることで、一つの物語のようなものに変わっているところもあるのかと思いました。 なんというか、記憶にとどめる場面がおびただしく読まれています。一首一首読み込めば、どれだけでも 長い間向き合っていられるし、それが一種心地よいのですが、そういう贅沢さを感じさせられるような力量 を持つ作者の作品だと思います。言葉の持つ描く力というのが、強く感じられます。音の側面では、 言葉を切るその自在さと、接続する必然性の作り方といったものを感じました。 長く楽しめる作品群で、おかしなところが全くない点も、素晴らしいと思いました。
1柳に風なでぎりのしろきはな散りて死を思はざる青年たちへ 柳の花が「しろい」とは知らなかったのである。無学である。 さて、柳に風、とはどんなことを言われてもそれを受けながすひとのことを指すが これをなでぎり、の語から実景から着想したものととる。 その、短歌には三十一字で言い仰せない、省略された何かがある。これを拾えばきっと 柳に風なでぎりのしろきはな散りて死を思はざる青年たちへ(舞い落ちる) などになろうかと思われる。なでぎりの、の語でそれはながし、そして散りて、で受けている形。 問題は、死を思はざる、であろう。やはり。 その、青年というのはやはりどこか、死というものから遠かったわけである。 それは子供のように庇護される弱者から一応抜き出ているし 病に侵される中年、又はもう後先がない晩年、老人とも違い、一番死がとおい。 それでも、青春として突如、友人を亡くしたり、青年ゆえの不安定性ゆえに 死を思うこともあるが。それはどうなのだろう。肌感覚として例外ではないか。 例外ゆえに、このように歌の俎上にのぼったり、ドラマになったりする。 そうして、科学合理主義の時代に突入して、益々、死はとおくなった。 現代社会に於いて、死はタブーである。なぜなら科学を担う医師にとって 患者が無くなってしまったことは、科学の失敗を意味するからである。 といって、幾ら、科学が発展しても未だ死は克服できていないし アメリカの大富豪が不老不死の薬を開発する為に莫大な資金を投じていたり 世界中至るところでチベット仏教の「死者の書」を読んで死に覚悟する ホスピスの患者が後を絶たない。日本でも終活なんて現象が起こる。 青年が、死にさらさられるとしたのならば、先に挙げた病気か、又は戦争である。 アメリカの海兵隊員というのは、貧しくしかし行き場のない若者が 覚悟してそこに入隊することも多いと聞く。家庭は潤う。死でお金を貰う形ではないだろうか? ともかく、そういう例をのぞいても、青年は死よりとおい。 じっさい、近そうに見えて客観的に捉えようとするととおい。 だから、文学が力を失ったとして、その核たる死の引力に引きつけられる 若者の数が減ったのだ。彼らは楽しいことが大好きで、しかし溌剌、前向きであり 柳に風、むしろ、何も言うでもない。かれらに白い花がふりそそぐのではないだろうか。
1ご講評を賜り、允に有り難うございます。 ご称讃を頂きまして、本当に励みになります次第でございます。自分では、余り褒められた出来ではないな、と思っておりましたものですから。 各詠草、色々と隠し種がございますので、そちらを探して下さりましても面白いかもしれません。 自分で申しますのもどうかと思いますが、パラディウムの歌等、変な歌だなあ、と思います事も頻りでございます。 思いがけない奇想が湧き出しますのも、韻文の面白さかもしれません。 皆様、夙に歌誌「帆」に応募して下さる皆様、もっと短歌に挑戦してみてくださいませ。 皆様の可能性に溢れた気鋭の短歌をお待ち申し上げております。
0ご講評を賜りまして、允に有り難うございます。 此れ以上無い読解を賜りまして、心より嬉しく存じ上げます。 かなり実地鍛錬なされた所以か、批評力がめきめきと伸びていらっしゃる様に思われます次第でございます。 只管、感嘆を致しました。 申し分のない批評文を頂きまして、まことにありがとうございました。
1にくらしく驕れる花の名を月下美人十五夜が許ひらききり これが一番。
2ご講評を賜り、允に嬉しく存じます。 最後迄、入れるかどうか迷いました歌ですので、お褒め頂きまして報われましたような心境でございます。 ありがとうございました。
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