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無敵
付けっぱなしのテレビ 敷きっぱなしの布団 ニュースはいつも巫山戯ている。 誰かの幸せ グルメ 楽しそうなイベント 私には関係ない。 電話が鳴る 仕事先だ あぁ、今日は…… 思い出したけどやる気が出ない。 コバエが飛び回る空間を何も思わず眺めながら、何日も洗ってない洋服を取り出して、 磨かれていない鏡に映った私は、きっと どんな醜女よりも醜く仕上がっている。 長い髪を結わえて、薄くファンデーションを乗せて、口紅をさしても変わらない。 もっと、醜くなるだけだ。 とっさに、キッチンバサミを持って鏡に突き刺す。 陳腐な音を立てて割れた鏡は、泣きそうな不細工を写していて、哀れだった。 そのまま、家を出て、ぶらりぶらりと街を歩く。 街頭で誰かが叫んでいる。日本の未来がどうだ、外国への献金がどうだ、自分たちは恵まれているだ。 あぁ、刺したい……。 ふと、テレビで流みしていた時に聞こえた言葉を思い出す。 失うものがない人ほど強い、底辺にいる人ほど、強い、と。 無敵の人だと。 あぁ、まるで私じゃないか 私も失うものは何も無い。 持っていたキッチンバサミが語りかける 「耳障りなものは壊しちゃおうぜ」 あぁ、また、だ。 聞こえるはずのない声が聞こえるの。 でも、それが怖い、よりも懐かしい。 幼子の頃に遊びに誘う友人のあどけない囁きのよう。 あぁ、ダメ、ダメよ。 理性が止める、8月の真夏日、蝉の声が煩くて、太陽の光が眩しくて 早くあの真っ暗な臭くて汚くて醜い部屋に戻りたい。 口ずさむ、昔聞いた子守唄 夏の暑い日に思い出す、辛くて悲しい思い出 誰が悪いわけでもないのに。 その場にいた彼に問う 「あなたは、何のために叫んでいるの? 」 能面の青年は、テンプレート通りの言葉を吐き出して。 日本の未来を憂いて、あなたのような底辺を救うためっ! あぁ、私は無敵、無敵の人よ。 失うものは何も無い。 取り出したキッチンバサミが嗤ってる。 私の醜い顔を見て嘲笑う。 この刃を真っ赤に染め上げて。 彼の喉笛を突き刺した。 蝉の声と共に湧き上がる歓声、悪者を倒した時のような、フィナーレ。 血まみれの私を、都会の喧騒は褒め称える。 叫び声、悲鳴、怒号、泣き声、その他諸々の感情が混ざった声。 取り押さえられて地面に伏したとき。 真っ黒な猫が、私を見て、哭いた。
無敵 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 508.9
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-08-09
コメント日時 2023-08-10
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは。 心の中に秘めていた不満をぶちまけているような詩ですね。 タイトルの「無敵」とは、もう失うものがないが故の無敵なのですね。 そして、その「無敵」の中には破滅の裏返しのような意味が含まれていて、それは世間的な常識や浅薄な正義感への嫌悪を伴っている。そんなふうに感じました。 そう考えると、 「陳腐な音を立てて割れた鏡は、泣きそうな不細工を写していて、哀れだった。」 という表現はとても巧みですね。その後の 「耳障りなものは壊しちゃおうぜ」 というキッチンバサミの声と共に、どうにもならない深い哀しみを表しているように感じます。 そして末尾の 「真っ黒な猫が、私を見て、哭いた、」 というところがとても印象的でした。 ところで、3行目の「巫山戯ている」はふざけていると読むのですね。知りませんでした。でも、この漢字を読める方はかなり少ないと思いますので、ひらがなのほうがいいでしょう。 また中盤の「テレビで流みしていた時に」の「流み」とは何と読むのでしょう。調べたけどわかりませんでした。
0一行空きが気になりましたけれど、読ませますね。センテンスとリズムがいいのでしょうね。 まあ、暗黒思想なのですけれど、病み上がりな私にはちょっとしんどかったかな、内容的に。 その、気になったのはなんで暗黒思想に走っちゃうのかな、この話者は、ってところで たとえば、物を食べても、何も味を感じない精神状態というか、それが垣間見れるフックって 冒頭で語られてますけれど、何か弱いんですけれど、暗黒へ走る方はえてしてそう「普通」な方なのだ、そうなのでしょう、と感じました。
0追コメで、その親鸞が「機に触れれば人間なにをするか知れません」って言っていて、ああそうなのか、と思いつつ、そういう目線で見ると、この作品あまり、興味を持てなくなっちゃうっていうか、だから、書かなかったんですけれど、やっぱり書きました。
1そうですね、なんだろう、メンタルが全面に出ている作品だと思うんですよね。逆にどう読んで欲しいのか知りたくなりますよね。同情して欲しいわけではないでしょうし、共感を求めてるわけでもないように思うんです。 以前になんかの無差別殺人の犯行についてホリエモンが自慰行為をやってスッキリすれば犯行におよばずによかったのにというようなことをコメントしていましたが、自慰行為じゃなくてこの場に作品書いて投稿するのでもいいのでしょうかね。わからないですけど。
0そうですね、ただ、思い浮かんだ言葉を吐き出してる、のが正解かもしれません。 貧困とは言えないけれど、裕福とも言えない。 世の中の貧困とは、世界的に見ればきっともっと可哀想な人のことを言うかもしれない。でも、他にも、生活はできているけれどもどこか、満たされない、隣の芝生は青いと言いますが、そんな感じなのかもしれません。 幸せそうな他人を羨む、いや、恨むと言う表現が正しいのかな…。 失うものがないだけで、ただ、こんな狂気に駆られて行動する人間ははたして、本当に悪なのか。 そもそも、善悪とは? なんて、思いながら描きました。
1コメントありがとうございます。かなり、昏く病み上がりには確かにお辛いかと思います、それにも関わらず読んでいただき尚且つ、コメントまでありがとうございます。 無敵の人って一時期、ネットスラングとしてあったようです。 ただ、これって底辺の人と言うよりも、生活はできていても、なにか屈折した、満たされない人がなりやすいのかなと 周りは努力していないと卑下していても、本人にとっては最大限の努力、それは、本人にしか見えないこと。 それなのに、見下される悔しさ、周りが幸せそうな羨み、いや、恨みとも言える感情。 それが爆発したときに、出てくる狂気さや、悲哀さを私なりに描きたかった、のがこの作品のコンセプトになります。 でも、コメントありがとうございます!嬉しかったです。
1ありがとうございます、タイトルの意味を分かっていただきとても嬉しいです。そうなんです。失うものが何も無い、だから、なんでも出来る、それが善いことでも、悪いことでも。 もともと、自身の容姿にコンプレックスを抱いていた、だから、鏡を割ればまともに見えるのではないかと幻想を抱いたのに、割れた鏡の中でも見にくく見える自分に失望して、なにか壊れてしまったんだと思います。 黒猫は彼女を観て、哀れんだのか、嘲笑ったのか、それは、読者様の想像にお任せします。 漢字、ご指摘ありがとうございます。 あと、流しみは、流し見の間違いです。流れていた番組の内容の一部が頭に残ったと言った方が正しいかもしれません。
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