川のように純潔な朝
消えつつある腕を振るように風は舞い上がって
公園の木立ちの葉を街路に運び
すでに若葉がベンチの側に揺れている
あなたに出会わなければ
暉やく美しい色彩にわたしの眼が止まらなければ
わが胸の新しい血脈が泡立つこともなかったろうに
紺碧はわたしを蒼く染め、そして果てしない蘆の草原で
わたしはあなたの声を繰り返し聴いている
冬の静寂があなたの息を白くしていた
夜、あなたは碧い眼のうちにわたしの耳をかみ
みどりのような手でわたしを抱きしめ
やわらかに光る榛色にかがやく眉が
かがやくような美しい肢体が、眩い胸が
奇跡の神秘の白い溜息がわたしの心を裸にし
あなたとわたしははるかに続く欲望の浜辺にいた
吹きすさぶ風のなかでであなたの帽子は羽根をさらし上下しながら
光を許された空間に塵の輝きを撒き散らしていた
ある日、あなたは冬に吐く白い息のように去っていった
冬の樹氷は、白い光にますます水晶のごとく輝き
冷たい川と紺碧は鋭く切り裂かれていく
今、雪は消え風はやさしく美しい音で鳴り響くと
あなたの名とわたしを叢に運び
愛と消えたあなたの裸身を浮かび上がらせ
空間の先に光はあなたの姿を肉体の影のように語る
わたしは歌が、草や、幹や小鳥が大地を駆けるように
そして眠る夢の中であなたの喘ぐ声を聴く
夜風になびく瞼よ、閉じないでおくれ
ダフネーの琥珀色の瞳が私に語りかける
儚く消えていった欲情の憩いの営みを
春、緑がなびき松をそよがせ鳥が空を渡ってゆく
私はあなたの竪琴となって過ぎていった官能の日々を
あなたの微笑みを優美な白い胸を思う音を鳴らし続けるだろう
新たな沈黙があなたの眼に入り込む前に
新たな風が花を塵としないように
広がりはじめた緑が季節の中で消えてゆかないように
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 940.7
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2023-07-11
コメント日時 2023-08-19
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/21 20時49分18秒現在
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私の詩は、室町礼さんの仰るような雰囲気が感じられるかと思います。 ただ、全てにおける感覚だけではなく、それぞれの詩が別個のものとして受け止められたらいいなとも考えています。 まだまだ、その点、成功しているかは何ともおぼつかないところですが、自分の持ち味を生かした詩作に励みたいと思います。
0一流パティシエの作った気品ある一切れのケーキ…たとえるなら、そんな趣を、僕はこの作品に感じました。 あり余る情念のほとばしっているこの詩には、やはり濃厚なチョコレートケーキがふさわしいでしょうか。 「紺碧はわたしを蒼く染め、そして果てしない蘆の草原で」 「あなたとわたしははるかに続く欲望の浜辺にいた」 等、壮麗なものを感じる表現は素晴らしいと思いましたが、それだけに、 「冬の静寂があなたの息を白くしていた」 「空間の先に光はあなたの姿を肉体の影のように語る」 といった、消え入りそうに繊細な感覚の描写が、グッと胸に迫ってきます。 何度も読み返したい、完成された美しい詩だと、そう心から思いました。
0この詩は比喩がとても多いのですが、比喩が浮いてしまわないようにバランスに留意しました。 また、雪月統さんの仰るように、壮麗さと繊細さを組み合わせることが、詩作においては重要だと思います。 ただ、そこは私も気が付いていなかったところで、非常にためになりました。 有難うございます。 私の詩には長いものと短いものがありますが、それぞれに違いは有れども、雰囲気の一貫性は維持していきたいと思います。
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