宇宙の下
踏まれ続ける私たちと、その怪獣に
あと何回キスが出来るだろう?
自分が恋していると知ったのは
いつからか何も話してくれなくなったから
胸が潰れる程の出来事でも
まるで幸福の最中にでもいるように振る舞ってしまう
そんな姿に気付いたから
衛星でいると決めたと同時に
惑星になることは諦めた
小さな塵に過ぎなかったあの人のこと
まだ誰にも話してはいない
彼は遥か昔、とっくに消えてしまった
今は思い出だけでご飯を食べて
風呂上がりにはストレッチ
今日買い忘れたものは
明日買おうと思う
もう何億年も書いていない物語があって
今でも筋だけは覚えている
だけどもう書かなくてもいいような気がして
それでも思い出す度に空の何処かがひとつ光る
その度に
また流れる
魚を焼いた後のグリルの網を洗いながら
今だったら書ける気がするのだけど
やっぱり書かない
最後にはみんなあそこに落ちていくんだと
太陽を見上げてる
その瞬間はみんなで一斉に手を繋いで
大きな声で歌でも歌えたらいいのになと
今、気になってる人のことを考える
その人には大陸がある
海もある
どちらも大変な量の悲しみだ
いいことなんて一つもない
あったとしてもそれはほんの一瞬
現れる度に小さな者同士が奪い合う
私の好きだったあの人はもっと小さな存在だった
もっと弱い存在だった
だから忘れられない
似ている人はいない
気になるその人は少し似ているけれど
全然違う
その人は芸能人
面影が似てるだけ
魚も焼けないし
じゃが芋の皮も剥けない
新しい怪獣映画がまた作られる
そんなことばかり話している
でもそれはその人の自転が速過ぎるからで
実際は私の方がその人よりも先に消える
私はいつか抱かれる
その人に
乾いた海のままで
緑の無い大陸で
その時その人の体液が私に押し寄せて
ザブンと覆い被さる
私はソファーでゆっくりと押し倒されながら
鍋が吹き零れるからコンロの火を止めてと囁く
その時やはり、好きだったあの人のことを思い出す
勇敢な人だった
可笑しな姿をしていた
私と同じ、海も陸地も空もなく
ただ呼吸をしていた
そういう音がしていた
特撮なんかではない
一度だけキスもした
次の映画はもっと凄いとその人は言う
来年春公開
そうして二度目のキスもいつか訪れる
私はその人の好きな料理を三つ知っている
あの人の好きなものは一つしかわからなかったのに
スクリーンの中
破壊され続ける私たちと、その怪獣に
あと何を確かめ合ったらいい?
作品データ
コメント数 : 14
P V 数 : 1801.3
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 0
作成日時 2023-05-11
コメント日時 2023-06-02
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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技巧 | 0 | 0 |
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閲覧指数:1801.3
2024/11/21 23時23分13秒現在
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視点を巡る速力に圧倒。 生活の解像度と惑星の不可抗力の浮遊感が恋の感覚を保持していてる。 記憶的で見えきらないが明確な出来事のバックグラウンドに安心感を覚える。
1速力なら任せてください。高校時代は50メートルを7.0秒で走りましたから。もう40年も前の話ですが。 解像度に関してはよくわからないのですが、恋に関しては思いっきりのふわふわにしたつもりなので、綿菓子みたいにふわっふわ気分で食べていただけたら嬉しいです。ありがとうございます。
1こんにちは。 宇宙の天体と日常生活の描写との対比がいいですね。 「怪獣」とは何のメタファーでしょうか。 無情な時の流れ、あるいは巨大な社会のシステムのことでしょうか。 そんな怪獣がいない、「その人」がまだ売れない頃のことを思い出しているようで、何か寂しい感じがします。
0怪獣とは人生の悲哀のメタファーでして、悲しいことがあると人はなぜ海を見つめに来るのか鴎が飛んだあなたは一人で生きられるのねというわけなんです。 もしくは恋の悩みのメタファーでして、男と女の長い道のりもう迷わないはずがあーそこから先はセクシャルバイオレットなわけなんです。 さらには希望のメタファーでもありまして、ジグザグ気取った都会の街並みいつかは二人で行きたいけど内容はカリフォルニア関係ないよねっていう。 あとそれから、いややっぱり止めときます。今までのことはなかったことにしてください。
0うまく言葉にできない。できないのですが、この詩を読むと何だか呼吸が浅くなります。冬の朝みたいな感じで、胸がずっと冷えて小気味よいと思います。素敵です。
0そうなんですよ。もうすぐ夏なので夏にぴったりの作品として書いたのです。猛暑の日などは一日一回読むといいでしょう。冷えピタと合わせてご使用ください。ただし読み過ぎると冷え症になって下痢を起こしますので要注意。 呼吸が浅くなるということは過呼吸にも効きそうですね。今度効能に付け加えときます。何と言っても鷲のマークですから。
1その人のこと、話者の胸に秘めておいてほしいと思いました。だから、ビーレビで見たこのお話のこと、私は忘れたいです。
2感想です。巧い、巧いけれども、まあ新しいのだろうな、と。 まず、比喩というのは、言ってしまえば妄語の部類に入るが、過ぎると、こころの 部分と食い違ってしまうかも知れないと私は考えた。 その人、への憧れか、恋心があったとして、言葉の花を捧ぐとして、それを数で、そして過度にラッピングするか、一輪の花に思いを込めるか。 私は後者だけれども。うーん、女性は、本当は花を沢山買って過剰にラッピング、したいのかな。降参。一票。
0ああ、あなたは優しい人ですね。本当は秘めておくべきところを作者が余計なことをしてしまったもんだから。これから先、誰と巡り会っても比べてしまうと思う。記憶は残酷。
0>宇宙の下 >踏まれ続ける私たちと、その怪獣に >あと何回キスが出来るだろう? 出だしが面白いですね。 この出だしでこの作品を読んでみようと思いました。 怪獣に惑星、太陽それに地球の地形。 それらと人の記憶や思いが交差する。 よくできた作品です。
0ありがとうございます。比喩は難しい。使おうと思って使えるものではない。少なくとも私にとっては。無意識に使ってて途中で、あ、これもしかしたら、って気付く。直喩が鮮やかに使える人が羨ましい。私はどうしても暗喩っぽくなってしまう。ちなみに同じ暗喩なら粒あんが好みです。こしあんはどうもね、なるべくなら選ばない。旨味もこされてる気がして。
1出だし、導入部分ですね。やっぱり大事ですね。ちょっと前なら、ワクチン接種会場はこちらです、って書いとけばどんどん勝手に人が入って来たのに。あ、でも私こう見えて反ワクなんですよね。毎週金曜日はデモで忙しいんです。
0ずっとこちらの作品が気になって、幾度か読み返していた。庵野監督のことなのだろうかと、そう気になって読み返した。怪獣映画という語句がそう誘ってくるだけか。それとも、
0どちらかというと「怪獣の花唄」の方ですね。あれが頭の中を回って回ってしょうがなかったんですよ。それより庵野監督にはぜひ「シン・がんばれロボコン」を撮ってもらいたい。ガンツ先生は絶対ロビンちゃんとデキてるんです。
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