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開眼
瞬きのまにまに 白い光に覆われたみずたまりは 朝の生存を映していた 白斑の記憶を呼吸で染めている間に 水面に浮かぶ蟻の死骸が波紋で流れていく 震える手をポケットに突っ込むと 指にするどい痛みが走った 薄目を開ける 流れる血液は退屈の赤で ぎらぎらとした太陽の破片が ぼくの掌で蠢いていた どこかへ行きたくて 帰り道を失った野良犬 肉の上に咲いた花をぶらぶらさせて ふつふつと沸きあがる 正体不明の希望と歩いている 痛覚に降ってくる生がいちいち煩わしかった 数え切れないほどの光線が眼球に刺さる 瞼の裏側に逃げるぼくの姿は ぼくにしか映らない 狭い部屋に閉じ込められた世界が吠える 声に驚いて 誰かが手放した 赤い風船が昇っていく あの長い持ち手は かつてぼくを繋ぎとめていたもの 視線で追っていくと カラスが夕空で螺旋を描いていた 皮膚からぬるりと汗が落ちていく どこへ行けばいい? すり減った靴底はぼくを遠くへ運べない 激しく往来する車のライト、信号の赤、ネオンの青 明滅、交差する色を見ているぼくの影はきれぎれ 行く手を阻む電柱 伸びた電線はどこまでも接続しているのに、 絶縁体。 いっそここで朽ちてしまえ 空気が わずかに揺れたような気がした 漂う腐臭、アスファルトには乾涸らびた白の犬 硬直した赤い舌で なおも総てに死ねと牙をむく骸 生き恥のぼくを睨みつける お前の血走った目が、 透明の奥で 開眼した 赤いものが あたたかいなにかが うえへ うえへと 黙祷するぼくの背中にクラクションの音が刺さる 振り向き そっとかさぶたを剥がすように 瞼を開ける
開眼 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 736.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2023-05-06
コメント日時 2023-05-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
厳つい作品。まず読めたところと読めなかったところがあり、かさぶたを剥がすようにと言われてもよく分からなかった。よく読めた行とよく読めなかった行がほぼ交互に現れて、それが印象に残る。。 なんだろう、私って会社だとまともにおひるごはん食べてたら怒られるので、いつも味のついてないパンを食べる。固いパンはずっと噛んでると美味しいので、この生活は気に入ってるんだけど、ゴールデンウィークになって普通にお昼を食べると、あまりにも味が多くて心がとてもカラフルになった。そのとき、なぜスパゲッティばかり食べた生活があれほど苦しかったのかを理解した。同じものだけを食べなければいけないとき、水分の含有量は少ないほうが、結果としては長続きする。そのほうが純粋な食事機能だけの問題と理解できるからだと思う。なんというかこの作品にはそういう固いパンみたいな乾燥感とカラフルが両方ある読後感でした。 特に第一連のしぶさとギラギラ感が禍々しくて古くて新しい感じ。鮎川信夫はたびたび剃刀を出すけど、実際に出血を描いたことはほとんどないみたいな。 ザ・にわか的なコメントだったらすみません。
1はじめまして、あおきがはらです。 コメントありがとうございます。 たしかに自分でもねちっこい文体だなと思います。交互に読めた行読めなかった行が現れるのは全然意識してなかったので言われてなるほど…と思うような発見でした。乾燥感とカラフルのたとえが面白いです。この作品がスパゲッティでなくて良かった…と少し安堵しました。 鮎川信夫さんはたしか現代詩文庫か何かで一度だけ通読したことがあるような気がします。本棚から取り出してさっそく読んでみます。 いえいえ…とても貴重な意見が聞けて良かったです。 拙作を読んでくださり本当にありがとうございました。
1痛みを生々しく感じる詩だと思いました。読んでるだけで鮮やかな痛みを感じる。感覚に直接影響を及ぼすような、簡単にマネできないような凄い表現だと思います。
1はじめまして、あおきがはらです。 コメントありがとうございます。 生々しさは目指した方向性だったのて感じ取ってもらえて嬉しいです。また「簡単に真似できないような凄い表現」と言ってもらえたのも励みになります。 拙作を読んでくださり本当にありがとうございました。
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