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水の中の網
夜とも昼ともつかぬ青黒くいくぶん濁った水の中に目の荒い網が漂っていた。 いつの間にか俺はクラゲのようなそれでいて不定形の気持ちの悪いゼリー状の群体と化していて網はその俺を包み込もうとしている。 それに抗う俺の情念はゼリー状の体から滲み出て荒い網の目をくぐり抜けて青黒い水の中へと出ていってしまう。 俺はそれを止めようとしたが情念は俺の内に留まろうとせずに網をも俺をも無視するかのように煙突から流れ出る煙の如く網に包まれたゼリー状の俺から遠ざかってゆく。 網は情念の涸渇した俺にまとわりついて離れず徐々にこのゼリー状の体を締めつけてくるが俺は声すらあげられずやがて不定形の体は締めつけ続ける網の荒い目から絞り出されるように突出してゆきいつしか無数の触手を伸ばしたイソギンチャクのような姿と化したが無論それらは何の獲物をも捕らえることはできない。 情念の涸れ果ててしまった俺は何の抵抗もできずに網のなされるがまま締めつけられ続けいつしかちぎれて無数の切れはしとなってこの青黒くいくぶん濁った水の中を漂うことになるのだろうがそれは俺がこの水の中で気持ちの悪いゼリー状の群体と化してしまった時から定められていたことなのだろう。 俺の体がなぜこんな不定形のものになったのかわからずいつからこの水の中にいるのかも覚えていないがひとつだけわかっているのはこの網は俺の体を散り散りにした後は次の獲物を求めて再びこの青黒い水の中を漂い始めるということなのだが俺は誰にもそのことを警告できない。 なぜならその時にはもう俺は体だけでなく意識も散り散りにされてしまいこの夜とも昼ともつかぬ青黒くいくぶん濁った水の中へと拡散してしまうからだ。 それからどうなるかどこまで散らばってゆくのかそして俺を締めつけ続けるこの網はそもそも一体何なのか俺には皆目わからない。 ただ気づいたときには網は既にそこにあったのだ。
水の中の網 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1241.8
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-04-08
コメント日時 2023-04-28
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
詩というよりは短編小説のようでした。 「俺が」網から出たい願望が、すでに出始めている千切れている事実に救いようの無さみたいなものがあって、現代社会に通底するものがあると思いました。 総じて漂っている感覚なども。 しかしながら最初から「ゼリー状の群体」ではなくて人のかたちであった方が理屈が通るような気も致しました。詩には理屈など不要なのかもしれないですが。 意識の底を探った心象風景としてあるのか、ホラー的な要素であるのか曖昧なところが良いのかもしれないですね。 少々まどろっこしい表現が続くところもあるなと思いましたが、とても丁寧に書かれている作品だと思いました。
0コメントをありがとうございます。 現代社会に通底するものがあると観ていただき、たいへん嬉しく思います。 理屈よりもイメージを先行させて書きましたので、始めから「俺」をゼリー状の群体にしてしまいました。それをどうとらえるかは読む方にお任せしようと思いまして。 思いつくままに書き進めたのですが、曖昧なところが良いと、また、丁寧に書かれていると仰っていただき、ほっとしております。
0こんにちは。 私は批評家ではないし、そもそも他人の作品を評価した経験が殆どないことを先に述べさせていただきます。 率直に申し上げまして、詩特有の(もちろん良い意味での)曖昧さや掴みどころのなさを活かしたとても良い作品だと思います。別の方のコメントでは現代社会に通ずるものがあるという解釈をされていましたが、そういった解釈ではなく、私は文章自体にある種の美、文芸における美を感じました。これをうまく申し上げることは私の語彙力では難しそうです。 総括すれば、解釈の自由度と文章の美を持った良い作品だと思う、ということになります。 お読みいただきありがとうございました。
0コメントをありがとうございます。 文芸における美という高い評価をいただき、たいへん嬉しく思います。 今回の詩は非現実的な内容に合わせて、敢えて読点を入れずに、だらだらとした長い文章を連ねるような形にしました。 また仰る通り、詩の内容が意味することへの解釈は、読み手の方へお任せするほうが面白くなるかなと思い、ある程度の自由度を持たせることを念頭に書きました。 良い作品と評していただき、ありがとうございました。
1地球環境の悪化で水質汚染の網のゴミでクジラやシャチなどの海洋動物が死ぬ例が多発しているそうです。動物に住みにくい世界を人間が作っているのもそうですが、一部の強者が作った世界が人を無力化して家畜化する世界観を思いました。映画の「マトリックス」のように、ネット社会の増大はそれを思わせますし、そのなかで生きる喜びを感じられない感情の虚脱に悩まされる人類の未来を想像させました。他人ごとじゃないです。未来を良く作り変えることしかないですけどね。不気味さを上手にお書きだと思います。
0コメントをありがとうございます。 現代の環境の破壊と人間の精神の破壊とは、どこかでリンクしているのかもしれません。 それはどちらかが原因でどちらかが結果ということではなく、それぞれが互いに影響を及ぼし合い、負の循環を繰り返し、螺旋を描いて堕ちつつあるような気がします。 ですからこのような状況は、仰る通り他人事ではないのでしょう。一人一人が未来を良くするために、負の循環を断ち切るよう動き出さなければ、悲惨な結末が待っているように思います。 不気味さを上手に書いていると評していただき、ありがとうございました。
1いつもの丁寧さが見て取れなかったものだからコメント欄を見させていただきました。するとコメント返しにあった、作者様のお言葉、「読点を入れずに、だらだらとした長い文章を連ねるような形」というのがすごく引っかかりました。何度も同じ言葉を繰り返す技法でもなく、ただ同じ言葉を使かってしまった印象ばかりが目に付き、これがわざとなのかわかりませんが詩としても小説としても私には推敲不足としか思えませんでした、例えば「俺」という俗称は何度も書く必要を感じませんし「ゼリー状の」と曖昧に何度もいたしたところも、ぬらぬらしているのかさらっとしてしまうのか、擬音や色形に変化を持たせる必要があるのではないでしょうか。ただこれは私個人の好みで語っておりますから、本当に気に障ったら申し訳ない。
0コメントをありがとうございます。 推敲不足な点は確かにあったと思います。 何か少し変わった文体で書いてみたいという気持ちが起こり、それに気をとられたからかもしれません。 また、曖昧ということに関しましても、読み手の解釈に任せて、好きなようにイメージしてほしいと思って、敢えて曖昧なままにしてみました。 いろいろな形を試してみたいという気持ちもあり、このような詩になってしまいましたが、言われてみれば「俺」という語は多すぎたようです。 ご指摘ありがとうございました。 尚、「いつもの丁寧さ」とはどういったことでしょう。 お教えいただければ幸いです。
0私の言う曖昧は、「ゼリー状の」この物体そのものがもつ曖昧のなかにもいろいろな姿があるのではないか、それをえがくとより読み手さまにより沢山の感情を思い出を抱かせることがかなうのではないか、曖昧であるからといって読み手様にに想像を丸投げにしてないだろうかという意味です。 あとご質問にあったいつもの丁寧さというのは、そうですね、tasaki様の詩は行や連で細く区切られているのだが(違うものがあったらすいません)、それでも続けて読んでも違和感のない、きれいに読める理解できる作りをしていらっしゃると思って私はみていたわけです。それは意識して削ったわけではなく、何度も積み重ね染み付いているものだと思うが。しかし今作品は挑戦ということなのか、ちょっとした小説の形を取りながら、その列に組まれた言葉たちが思ったまま書かれ、それら言葉たちの姿を確認する所作、これは自分の詩なのだという大事さ丁寧さを殺しているのではないかと、残念に思ったのです。
0ご返信ありがとうございます。 自らを省みるということはなかなか難しいことなので、いろいろとご指摘くださると非常に助かります。 今後の詩作に反映させてゆこうと思います。 ありがとうございました。
1おはようございます。はじめまして。 一読、カッコいい、クールな作品だと思いました。 私はその、変身願望これはあるんですが、この作品では「変わりたくないのに変わっちゃう」 それは環境が強いる、ことかも知れませんが 思い返してみますと、私も環境、場所によって自分を変えていますね。 それはそうせざるを得ないから、なのか、私は心理学に暗いのでわかりませんが 二読、三読して 意識さえも、これ「散り散り」になってしまったらば、その主体の「言葉」は どうなってしまうのか。 多分、それは意味不明のものになるだろうと。 ですから、この語りはその変身状態が解かれた、終えられたあとに成立するだろうと。 すいません、間違っていたらすいません。 なんだろう、もっとこの作品は色々な方の意見を聞いてみたくなります。 ありがとうございました。
0コメントをありがとうございます。 カッコいい、クールとの感想をいただき、恐縮しております。 変身願望や意識が散り散りになったときの言葉については特に考えていませんでした。 色々な受け取りかたや感想を知りたかったので、想定していなかったコメントをいただき嬉しく思います。 ありがとうございました。
0クラゲのイメージが読んでいて心に落ち着きを与えてくれると思います。興奮を鎮める。それと同時に、読者は「俺」という意識を感じることになり、意識に同化したり、また別に客観化してみることになると思います。「俺」の陥っている状況の特殊さとその意識の普遍性(誰でも共感し、自分の中にあったもの、あるものだと思うこと)が、絶妙な読詩体験をもたらします。これは工夫されている、アイディアと文的独創性もある詩で、とても記憶に残ります。
0コメントをありがとうございます。 アイディアと文的独創性もあるとの感想をいただき、たいへん恐縮しております。 今回の詩は、実はテレビで見た草間彌生の網の色紙絵からイメージした情景が元になっています。 デザイン的な絵ではなく、とても幻想的な感じのする色紙絵でした。 また、私は詩で「俺」という一人称を殆ど使わないのですが、今回は湧いてきたイメージに「俺」という言葉がしっくりくると感じて使ってみました。 それが結果的に良い効果をもたらしたのなら嬉しいです。
1「俺」の状態をテキストから想像すると、この長さの独白がどうしても「俺」の心情とアンバランスな読後感です。状態が陰鬱であればあるほど、言葉数が減るように思ってしまうんですが、カオスになればなるほど饒舌になるのもあり得ますね。でもその場合は、もっと意味不明な語になると思うんですよね。ちょっと中途半端で、完成度が低いように思いました。
0コメントをありがとうございます。 この詩では語り手である「俺」は、情念の脱け殻であるため、その心情を敢えて考えずに書きました。 ひとつの文を異常に長くすれば、異様な状況を強調できるかと思ったのですが、どうやらあまりうまくいかなかったようです。 もっといろいろと考える必要があるようです。 ご指摘ありがとうございました。
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