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Never Everlasting.docx
誰もいない教室。 私は初めて、誰もいない教室に入った。忘れ物をとりに来たのだ。 教室は年の瀬だからか、空気はひんやりとしている。窓から満月が、光を教室に注いでいた。 廊下を急いできたものだから、白い息が空気に滲んだ。 卒業式! 合唱頑張ろうね! 最後まで駆け抜けよう 書かれたその言葉たちは、黒板消しでなかったことにはできない。 必死に追いつこうとする愛しい子たち 文字ばかり追いかける無辜の子たち やかましい声を上げる悲しい子たち 甚だしい勘違いをする幸せ者 何も、ここになかった。静謐すらなかった。 いや― 一番後ろの隅っこの、窓側の席に座った。 忘れ物を取り出す前に、組んだ腕を机の上に乗せて伏せてみた。 現実だけは、ここにあった。残酷があるだけだった。 本当は全部知っていた。世界は私の知っているいつも通りには戻らない。この教室だって、血が飛び散ったり、肉が転がったりしていないだけで、いつも通りではない。 ○○君は元気にしているだろうか。もう死んだのだろうか。私はずっと君のことが好きだった。話すこともないまま終わってしまった。○○君の席は教室の一番後ろの隅っこの、窓側だった。だから、クラスメートや先生はもちろん、私のことも、永遠に続くものなんてないってことも、全部、全部、分かっていたんだと思う。 だから私はここに来た。 そして体を起こし、机に両手を入れた。かさり。と音が鳴って引き寄せてみると、それは真っ白な封筒だった。 封を切って中から手紙を取り出す。またしても真っ白で、画用紙のような便箋には、彼の字で 「Re」 とだけあった。 風が扉から吹き込んで、生臭い匂いが鼻をついた。 次へ向かうしかない。 ただ私はわらって、窓枠に手をかけた。
Never Everlasting.docx ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 694.5
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-03-05
コメント日時 2023-03-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは。 この詩の主人公は中学生でしょうか、高校生でしょうか。年の瀬とあるので、卒業を間近に控えた、冬の夜の教室でのことでしょう。 「私」がそこでの思い出を語るとき、そこには言葉にならないような、人間関係の相克が厳然とあったようです。 「現実だけは、ここにあった。残酷があるだけだった。」 「この教室だって、血が飛び散ったり、肉が転がったりしていないだけで、いつも通りではない。」 これら二つの表現がそのことを表しています。 「○○君」とは、遠くに転校してしまった人のことでしょうか。 彼が残した「Re」とだけ書かれた便箋。 結局書くことができなかった返信。 そこにもこの教室での、言葉にできない想いが書かれているように受け取れます。 直接的にではなく、行間を読ませるような表現は、巧みですね。 卒業間近の誰もいない教室。そこにあるのは決して永続しないものであって、だからこそ、次へ向かうしかないのでしょう。 厳しく薄汚い現実を透過してもなお残る、微かな切なさのようなものを感じさせる詩ですね。
1世界観すき
0ワードのドキュメントを意味しているのだけは分かるのですが、タイトルのDOCX、結構馴染んでいるはずなのに思わず調べて仕舞いました。彼の字の「Re」も印象的ですね、サイトのスレッドと言うのか、コンピューターサイトでの状況が想起されるのですが、実際は手紙の文字だし、 「次へ向かうしかない。 ただ私はわらって、窓枠に手をかけた。」 こんな詩の終わり方に、物語の終りではなくて、始まりを意識させられました。
0タイトルがカッコいいですね。 それだけで興味をそそられました。 行分けやスペースの空け方がすっきりしてて、読み進めやすさを感じました。 一度だけ登場する「いや」の後の「─」、少し不穏な雰囲気を醸し出す「○○君」といった記号の用い方がスタイリッシュだと思いました。 「真っ白な封筒」の中の手紙が「またしても真っ白」だったところも、シンプルながら引き込まれるものがありました。
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