中学生の時に見た夢を未だに覚えている。
私は廊下で掃除をしていて、教室ではクラスメイトが何者かに次々と殺されていた。辺りには血溜まりができていて、それでも私は廊下で掃除をしていた。その様子はテレビで中継されていた。とあるお笑いコンビが惨劇の様子をネタにジョークを言っていた。それでも私は廊下で掃除をしていた。芸人は私をからかった。何を言われたのか覚えていないが、私はカメラに向かって何か言わなくちゃと思ったのに、言葉が出てこなかった。
掃除をしながら、私は以前にも同じ経験をした気がすると思った。幼い頃に素裸の私を同じお笑いコンビが指さして何やらネタにしていた。お風呂上がりだったから素裸だった。確かその時も近くで誰かが殺されていて、私は素裸でテレビの前から離れられなかった。素裸であることを猛烈に恥じた。
ああ、私は廊下を掃除していることを恥じた。素裸を見られた時よりも恥じた。毛先の曲がった箒で、いつまでも同じ場所を掃き続けていたから。その間にも一人また一人とクラスメイトが死んでいった。芸人のトークはどんどんと軽快になっていく。
という夢だった。
お笑いコンビは今ではすっかり大御所になって大活躍。私はというとまだ毛先の曲がった箒を気にしていて、寝る前に同じ夢を見るのではないかとびくびくしている。恥ずかしいという感情だけが生々しく残り、この恥ずかしさはもっと幼い頃、いや、産まれて間もない頃にも経験したとなぜか確信している。
異様な静けさに包まれて
私は森の中にいた
ずっと街を捨てて
森に行きたいと思っていた
人が死ぬ夢なんて一度しか見ていないのに
もう何人も殺してきた気がする
あの時、クラスメイトを殺したのは
私だったのだ
私は私の恥ずかしさから
何人もの人を手にかけたのではなかったか
森の木々が揺れる
枝葉の触れ合う音で
ようやく風だとわかる
木漏れ日に照らされて
素裸の私は
墓石のように佇んでいた
作品データ
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作成日時 2023-02-21
コメント日時 2023-02-23
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 23時34分33秒現在
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テレビの中継、お笑い芸人の別なく恥ずかしさは既にそこにあったということなのかなと読み終えて思いました。 皆が置かれた境遇や起きたことを誰かのせいに何かのせいにするように。
1素裸で一日中過ごした日々は、自分はいつの頃であったかと追憶しましたら、昔に亡くなってしまった姉の素裸が浮かんできました。お笑い芸人さんであったならば、それは、ある意味で幸せかもしれません。でも、「真の」詩情には業のような、際限なく夢想してしまうような、そんな自己の井戸に降りてゆかなければならないのだと思います。それは不幸なことですけれども。
1読んでくださりありがとうございます。恥ずかしさは既にそこにあった。確かにそうかもしれません。
1読んでくださりありがとうございます。真の詩情か。その境地まで至りたいものです。
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