別枠表示
奴らは君より上を行っている
新幹線は確かに東へ向かって走っていた 夜の闇の中を逃走していたのだった 高校生のY君は窓外の闇に映る自画像を見つめていた 反抗の果てのさらにその先までも夜の闇は続くだろう それはY君の夢の中の色彩でもあった そしてもう光を見ることはあるまい どこへも着かなければいいのにとY君は感じていたが この車両は東京行きである いずれこの高速の新幹線は止まる どうやって死のうか? 「機関車になって突き進め!」 いつか祖父がこんな人生訓を言ったものだったが 今Y君は明らかに退行していた 東京駅では死ねなかった 家出もしくは失踪の体裁ではあったが Y君の足は自然とJR線に乗って 一人住まいの伯父の家に向かっていた Y君はこの伯父に信頼にも似た慕情を持っていた 伯父はY君の味方になってくれるだろうか? 「なんだ、やっぱりお前か」と伯父はY君を迎えた Y君は理由を述べなければならなかった Y君を一流大学に入れたいという父母の欲望 その醜い見え見えの欲望に押さえ込まれて身動きできない 親子関係のすべてがこれであった Y君は涙が溢れるのを抑制できなかった 自由が欲しい、高校はやめる 高校の勉強に何の意味があるのか 学校の外にこそ本当に立ち向かうべき問題があるのではないか 受験勉強は現実の世界に沿っているのか 受験勉強は実社会から乖離しているのではなかろうか そしてまた、こんな反抗に憑かれていることが苦しい なぜみんなはあんなに楽しげに明るく生きているのか 疑うことを知らないのか 小学生くらいの子どもであれば 何事にも夢中で従順にもなれよう あの頃に戻りたい 伯父が語り出す 「言うことは分かるが、生きるということはどう考える? 君は火の通りの悪い鍋のようだ。親からのプレッシャーが何だ。そんなものに負けてどうする。振り払って進めばいいじゃないか。弱いな。一流大学に入ることは間違いなく良いことだ。何を疑うことがある? 何も考えずに勉強すればいいじゃないか。そうしている奴らは君より上を行っているんだよ。高校は厳然たる社会だ。社会の中の社会だ。今現在身を置いている所にこそ取り組むべき問題があるのだ。幻想を見るな。幻想に憑かれた反抗は現実を見ている従順に劣るのだ。このエネルギッシュな年齢にあって小学生に戻りたいなんて絶対考えるな。一切の疑念を捨てて、今すぐ反抗をやめろ。目の前のことに勤しんで明るく生きている奴らは君の上を行っているんだよ。疑念を超えた思考、反抗を超えた従順、これこそが道なのだ」
奴らは君より上を行っている ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 715.9
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 6
作成日時 2023-01-08
コメント日時 2023-01-09
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 6 | 6 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 6 | 6 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
読み始めたらすごく読みやすかった。電車がまっすぐ滑るように走るから? つまり、走るメソッド(いすきくん、このはなし大好き?!) Y君は明らかに退行していた、というのもいい。 なんだろう、Y君のほうが全然正しいと思うけど、生きていくために大学に行けって言わなきゃいけないのだから、そうしたのかな。いや、違うかな。伯父さんの言ってることは正しいと思う。でもY君の真の疑問には答えなかった。Y君は、どうやって戦えばよいのかと問うた。伯父さんは、それは自分で考えなさいと答えた。 くそ、学生の時に学校なんて爆破しておけばよかった。
0お読み下さりありがとうございます。このシーンは誰でも自分のものとして「体験」するシーンですよね。特別に頑張った表現ではないのですが、伝わるということがよくできたようでよかったです。
0コメントありがとうございます。「疑念を超えた思考、反抗を超えた従順」、難しいんですよね。実際は疑念や反抗は大切だと思うのです、今も。それでもこのように言葉にして出しておきたかった。考え中の材料かな。
0