バカボンのパパがその恐るべき天才性を発揮し、バカな奴とバカな冗談を言い合い バカな奴とくだらないやり取りをし、バカな奴とつまらない失敗を繰り返す。その結語はいつも全肯定の「これでいいのだ」だ。バカボンのパパの天才性は留まることを知らず、洗脳力さえ持ってバカな奴とバカな遊びをし、バカな奴とバカな計画を立て、バカな奴とたちまちそのプランを破綻させる。結語はやはり「これでいいのだ」だ。恐るべきバカボンのパパの天才性に遠く及びようがない僕は、しばらくの間思考の海に潜って、自分を今一度再生させる。
僕は元々文学が余り好きではなかった。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」に感嘆する資質が少しはあっても、僕の同時代人の小説家、柳美里や金原ひとみ、綿矢りさには微塵も興味がなかった。家庭内で複雑な事情を抱えていた僕は、柳美里の家族描写、他人の一族の葛藤にずけずけと足を踏み入れていく作品を読んで、こういう作家陣の作品は一切読まないでいこう、と決めたくらいだ。僕は自然とエンターテイメントや、面白いもの、楽しいものに興味を抱いていく。エンターテイメントとは商行的成功がなければ成り立たないと言われてるし、思われているだろう。だが僕はエンターテイメントに+αで芸術性を見い出そうとした。本当にバカみたいな話だが、凡庸の極みのような話だが、そう思っていた。芸術性と商行的成功の両立、ど天才でなければほぼ達成不可能な目標をバカボンのパパの天才性さえ分からずにいた、思春期のstereotype青年は掲げていた。模索模索模索、習作習作習作の繰り返し。しかしどれだけあがいても凡俗の一人である僕には超えられない目標だった。その結果の流浪。詩作の開始。僕は文才はある、とよく言われる。そのせいか書いても書いても駄文、駄目シナリオの連続だった僕でも、詩はとりあえず認められた。どこぞの詩賞で佳作やらなんやらいただいた。それでも叩き破れない壁があって、僕は脱皮出来ずにいた。挫折と鬱屈の予感、そして日々。そんな時パチ屋でバカボンの台を打った。スペックは良くなかったし、演出も優れているとは言えない。しかしバカボンのパパのセリフには心動かされるものがあった。パチンコ玉が4円4円と消えていく、虚しい時間の中にくすぶる何かの目覚めがあった。文才への称賛も、センスという不確定な価値観への自負も捨てる。僕は丸裸になることを決意した。極めよ、天才。僕がこのサイトに投稿した初めての作品タイトルは「バカボンのパパの天才性」だ。そこに天才へと駆けだしたまだまだひよっこで未熟な僕がいる。バカボンのパパの天才性を知りながら、それでもバカになりきれない俗人がそこにいる。僕はそのスタート地点にまた帰る。
バカボンのパパの恐るべき天才性を僕はまだ知らない。くだらない奴とくだらない与太話をし、くだらない奴とくだらない物を作り、くだらない奴とくだらない、時には戦争を起こし、大失態を犯す。それでもやはり結語は「これでいいのだ」だ。天才、極まれり。バカボンのパパは今日も僕の、あるいはあなたの中で、何がしかバカなことを仕出かしている。その潜在させた恐るべき天才性によって。
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 847.8
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投票数 : 1
ポイント数 : 4
作成日時 2022-11-19
コメント日時 2022-11-19
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 4 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 4 | 4 |
閲覧指数:847.8
2024/11/21 22時47分47秒現在
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すっげー分かります。 人生の恥部をあけすけに描写すんのだけが文学的芸術性なのかよって。 それは現代詩、最果さんなんかにも思うトコ。 てめえちょっといい話で感動させてみろやって、表現者ならおもうんですわ。あと歴史性ね。
1鷹枕可さん、コメントありがとうございます。嬉しいです。通知が来て鷹枕可さんからのコメだと分かって一瞬すぐ開くのを躊躇したんですよ。否定的なコメントだったらどうしようって。そうしたら手放しの共感の言葉。しかも砕けた言い方で。鷹枕可さんからすっげーなんて言葉引き出した俺なかなかやるじゃん?なんて思っています。とにかくすっげー嬉しいです。
0室町さん、コメントありがとうございます。僕の詩に触発されて書かれた文、ということもあるだろうけれど感動しています。室町さんの最近書かれたコメ、詩を含めすべてを把握しているのではないのですが、その中で最も上位に位置する名文だと思いました。それでいて詩情がある、コメントが詩そのものになっているとお見受けしました。天才。天才とは何なのでしょう。まさに室町さんの仰る通り、その人にとっての、ということであり、万人が認め、万人が理解し、万人が納得する天才などいないのかもしれません。僕は今回の室町さんのコメに、ある種の天才性を見出しました。僕はネット詩掲示板などを渡り歩いたり、室町さんのような読書家でもないけれど、本を読み、哲学を学び、映画を観て、あらゆる学問、アートを吸収しようとした室町さんがネット掲示板で些細な日常描写を続ける老人に天才を見出したという文章は、驚くほど僕の胸に染み渡ってきました。そこに一つの目標を持ちながらも一人流浪せざるを得なかった室町さんを見たからでしょう。少し気持ちが先走りした返信になりましたが、心から感謝しています。室町さんのこのような心情を思い起こさせる作品が書けて僕も嬉しいです。ありがとうございました。
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