作品を読む
技術で遊ぶ、言葉で遊ぶ、顕在心理を加工して遊ぶ。
今回、推薦させていただく作品「朝はあぶく」。著者名は誰か分からない匿名投稿だ。僕はこの詩はとても素晴らしくて詩の面白味、醍醐味を充分に堪能させてくれる良作だと思っている。だがコメは一個と今一つ伸びに欠け、話題にもなっていない。それがとても残念なので、推薦文を書かせていただく。 この詩、冒頭「泡沫がよく痙攣を起こす」という興味深いが、一見意味不明な一節から始まる。だが僕はこの一節だけでこの詩の虜になってしまった。導入部としてほぼ完ぺきに思えたからだ。シュールリアリストのスペイン人画家サルバドール・ダリは「人は謎を好む」との言葉を残している。謎めいていて、秘密に満ちていて、神秘の影がある存在にこそ人は惹かれるものだ。それは幼年期の性への興味、関心にも似ていて、人間の謎を好む傾向は、原点を探ると「不思議を辿る探究心」と「性の謎解き」に辿り着くのかもしれない。さて詩の推薦に戻る。「泡沫がよく痙攣を起こす」というかなりロジックの崩壊した詩文に、僕はこの詩の作者が詩で遊ぶことが出来る詩書きだと推測した。その理由としてこの作品は、意味不明に陥りかねない描写に、作者の顕在心理が表れているからだ。一連目の「ミシシッピに沈んでいった魚」「泥沼地の陰った淀み」「裏返ったアリの巣の恵み」が、どいつもけたたましいと言い張っている、らしい!状況なのだが、恵みでさえ淀みでさえ不運にも沈んでいった魚でさえ、けたたましいと感じる作者の情感がきっちりと描かれているではないか。そこに僕は、筆者が確信犯的に自我をコントロール出来ている様を見い出す。僕はこのタイプの詩作品を今推薦文においては「顕在心理を加工して遊んでいる作品」と呼ぶ。技術的に詩文を細工して遊ぶのは、みなが挑戦しているところだと思う。そして言葉で遊ぶ、俗に言う言葉遊びも多くの詩人が好むところであろう。しかし!「顕在心理を加工して遊ぶ」作品には、それもかなり質の高い作品には、僕はなかなか巡り会えないでいる。僕は「朝はあぶく」にそれを見た。この詩では「人」と思われる存在が三者登場する。瓶詰めの可視光線をがらくたにした「友人」と包みを送り込んだ「実行者」、そして包みを奪取した「悪童」の三者である。この三者が各々詩の中でどのような役割を果たしているかは即座には判別しづらい。しかしこの三者が具体性のある、筆者にとって何か関わりのある人物であるのは想像に難くない。だからこそ僕は作者が言葉で表現するにあたって、自分が何を描いているのか把握していたと推論する。僕はこの詩を読んでいて、理性と理知の崩壊を感じない。一貫した知性とコントロールされた詩文の構成力を感じる。人は自分の心情と向き合ったり、完全に顕在化するのを恐れる生き物だと僕は個人的には思っているが、この筆者は自分自身と、冷徹に時に冷めた目で向き合っている。僕はこの詩を「顕在心理を加工して遊んでいる」作品として特に推すのだが、詩の一節一節を取ってみても優れた表現が多い。エロティックでありながら乾いているのだ。そして詩句としてはよく使われる言葉を組み合わせの妙味で、斬新な表現にも変えている。それでいてもし僕の推察通り、作者が自分の顕在心理をコントロールしている状態なら最高じゃないか!思わずこの詩の締め「こいつは伊達じゃない」とこちらもいい切ってしまいそうである。 最後にこの詩を推薦するポイントは三点。 ①顕在心理をコントロールする一貫性。 ②エロティックで艶めかしくもドライな描写。 ③詩句の繋がりの絶妙さ。 に集約されるのだが、どの切り口から読んでみてもこの詩は楽しめる。どうかこの推薦文を読んでくれたあなた、ご自分のお好きな切り口で、「この詩わけ分かんねえな」などと言わずに詩文のリズムと、この詩に作者が潜ませた意味、が美しい言葉で綴られているのをどうか堪能してほしい。若干情熱が先走りした感があるが以上でもってstereotype2085の推薦文を締めさせていただく。
技術で遊ぶ、言葉で遊ぶ、顕在心理を加工して遊ぶ。 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 735.5
お気に入り数: 1
投票数 : 0
作成日時 2022-11-10
コメント日時 2022-11-10
この度は、推薦文お寄せくださり誠に有り難う御座いました。 匿名期間明けましたので、此方にて改めて御礼申し上げます。 これまで投稿してきて、貴重な御時間を割いてお読みくださり、コメントまでしてくださる方に大変感謝している一方で、(推薦文という、目に見える形としての評価だけが全てではないと頭では理解しつつも)あまり手応えが感じられずにおり、退こうかと考えていました。 ですが、推薦文を頂き、不器用不恰好でも創作行為を続けていこうと思える大きな励みになりました。 私もこれから、たとえ微力でもなんでも、誰かの励みになるような行いをしていければと思います。
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