卵を割り黄身をコップに落とす。白身はトロリと分離して流しの底へ。
飲み干す卵黄が喉に触れながら胃袋に落ちる時、目眩を起こすほどの彼女の恍惚が聴こえる。入道雲が見えるビルの一室から始まるのは、分裂気質の男が見せる祝宴。
瞼を開いては目の前にある合わせ鏡を見てる。その奥に立ち去るのは眼帯の少女。帰る気配はない。
≪shake hands≫ずっと昔に大切にしてた≪touch your brain≫「僕ら」という一人称、砂を噛むように消える。
一人きりで見上げた濃紺の空は、沈む気持ちを包み込んでバターみたく溶かし、胸に蕩けさせ少女を呼び戻す。
≪keep diving inside≫。不規則に変化する信号。行き来する迷い子の車。夜行性の人々。時に行き場を見失ったのは君だけではない。≪keep diving inside≫。
傷だらけの手にリストカットの痕。泣き腫らした瞳。夢を見たあとで苦し紛れに泣き喚いたのは児戯さ。
≪shake hands≫置いてきぼりにしてた君の癇癪のあと≪touch your brain≫「僕ら」という言葉がまた夜を泳いでいく。
二人で肩を並べ数え上げた、試験管の向こうの星屑は今にも砕けて弾けそうで、君の気持ちを掬いあげて。
≪keep diving inside≫。ヤリタイコトヲヤリタイヨウニ。ジユウナスガタデアリノママニ。ソコニアルベクシテ存在シテ。コワレルママニマカセテ。≪keep diving inside≫。
僕らは痺れたまま空を仰ぎ、無数の亡き人の、ドラマと呼ばれる時間の果てに情愛を注ぎ込んで、瞬いて。
僕らは壊れた一人称を探してはつまずいて。拠り所のない感情の行きつく場所を見つけ出し、透明な色に染まりゆく。無数の亡き人の。無数の亡き人とともに。
≪keep diving inside≫。砂がジャリと口元から零れていく音。
規則正しく整った呼吸音。
目まぐるしい時間に一呼吸。
赤子のようにぐずっていた僕はどこか、
知らない場所へ。
≪can I touch your brain?≫。
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1887.7
お気に入り数: 2
投票数 : 6
ポイント数 : 0
作成日時 2021-10-01
コメント日時 2021-11-11
#現代詩
#縦書き
#受賞作
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
閲覧指数:1887.7
2024/11/21 20時38分39秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
なんとなく、人肌を思いました。しょぼん。(´・ω・`) 個人的には英語を使うより日本語で全部勝負したほうがいいような気もしますが。カタカナ語もそうですが。古い人間なので。
1湖湖さん、コメントありがとうございます。僕も普段、英語を使った詩には懐疑的で、自分も英語を使う時には慎重になるのですが、今回はならなかったですね。なぜでしょう。理由は今のところ分かりません。こういう詩も時にいいのではないでしょうか。
0ああ、いきなりロッキーのトレーニングの場面が思い浮かぶのですが、白身と黄身を分離するとは、ちょっと清新です。眼帯の少女でアニメチックだと思ったのですが、詩文のそつのなさからあまりそんな感じはしません。英語のフレーズが矢継ぎ早に出て来て歌のタイトルかとも思ったのですが違うようです。リスカの跡などはステレオタイプの常識的な内容かもしれませんが、詩文の緊迫感がそう言った考え方を許さないような。でもやはり読み進めて行くと、英語の歌詞を翻訳した詩文が引用されているのかとも思いました。
0作詞家・三浦徳子を彷彿とさせる挿入される英文フレーズのリズムが、とても興味深い音楽的な作品と感じました、意味の世界との距離を上手くとりながら流水プールに揺られているような心地です。
0エイクピアさん、コメントありがとうございます。僕も書いていてついロッキーを思いだしてしまいました。笑えてしまいますが。詩文の緊迫感とそつのなさから常套的な印象に「陥らなかった」とすれば、それに勝る評価はありません。英語。なぜ使ったのか考えたのですが、コピーペーストのように切り貼りされる記号的で機械的な印象をその箇所箇所で表したかったのかもしれません。
0うたたねさん、コメントありがとうございます。今作は意味よりも音やイメージに読み手を誘い出したかったので、意味の世界との距離を上手く取っている、との評は嬉しいです。三浦徳子さんについて詳しくないのでより調べてみたいと思います。一先ずはこの詩の目標、着地点の一つ、流水プールに揺られているような「心地良さ」を感じてくれたとしたら、この詩は幸せ者だなと思います。
1不断に繰り返される英語のフレーズがポイントだと思いました。卵のエピソードは古事記の国生みの話とも映画のロッキーのトレーニングのエピソードともとれます。眼帯の少女がボクシングの試合の幻の様に現前する。ボクシング試合の結果の様に。リストカットや泣きはらした後の瞳。メンヘラ少女とは即断できないにしても、地獄の亡者、煉獄のエンマ大王、壊れた一人称は何を意味するのか。他人の脳に触れることの意味。
0エイクピアさん、二度目のコメントありがとうございます。他人の脳に触れるとは、ある意味では共鳴、共振の最終型とも言えるのではないでしょうか。唯脳論的と言いますか、ただそこに脳がある、とだけ考えると情緒も詩情もなくなるかもしれませんが、分かち合う喜びの未来形、進化型とも言えるかもしれません。「can I touch your brain?」
0