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ゆくえ
ひかり 開いたページの上に落ちる 読み上げることもない 文字の形に 舌を這わせ みつめている ずっと 一枚のガラスを隔てて そこに広がる無音をながめる ゆらめく擬似的な故郷は きっと匂いが違う のだろう 同じ表情が うすく 窓につもる つねに消費されていく体臭の こごりが雪となって降り 噤んだ理由と言い返さない凍蝶の季語 尾ひれにまつわる たくさんの事情を 引喩して おなじものだろう 残酷さを背けて おおきくなりました おもくなりました 自分の足ではあるかないので 空を飛んでいるようです ふたりからさんにんへ さんにんからたくさんへ 降りつづく雪に 羽化されるように よるよりもあかるく 踏み固められる足跡は わたしを基点として かげおくり のような ひかりおくり さきんじていたはずなのに 遅れて おまえのなまえがきざまれた 本の表紙を なぜる 闇に同化した文字のゆくさきを だれかに託しながら ひかりを 閉じ込めて とじる
ゆくえ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 919.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-10-08
コメント日時 2017-10-23
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
タバコのキャメルの絵に性器を含ませているような隠しエロス、それはディズニーでも良くあるサブリミナルメッセージですけど、この詩にもそんな恥部な行間が織り込まれていて魅力的でした。 自分はもうオッサンなのでもっと濃い作品でも構いませんので次回も期待してます。
0やばい。ちょうかっこいい。上手ですね。きっと慣れてらっしゃるんだと思います。技術があるんだと思うんですよね。単語それぞれはいかにも詩的できっとバランスを崩せば全部ださくなっちゃうんだろうけど、その人だけしか説明できない手練手管といったらおかしいけど、そういう技術があるから、このじつに澄明な情感がでるんだと思うんです。それを僕は説明できません。でもやばい。ちょうかっこいい。
05or6さん 興味深い読みをありがとうございました。 濃い作品、ご期待にお応えできるか分かりませんが、頑張ります。
0コーリャさん お褒めいただきましてありがとうございます。 バランスを崩さないように研鑽していきたいと思いました。 技術に頼らない詩が理想ですが、いまはこの方向を進んで行きたく思います。
0ガラスを透過して、外に降る「雪」・・・のように、もろもろの記憶が降る、イメージ。関わり合い、離れていった人の面影が、雪のように降る、そんなイメージにまず、とらわれました(私の、あくまでも個人的な読みですが。) その中で口をつぐむ魂、凍り付いている心・・・尾ひれは金魚のような魚のイメージ、命の自由な遊泳・・・を喚起しますが・・・同時に、話に尾ひれがついて・・・というような、人間関係の澱みに追い込まれていくイメージも重なってきます。 〈おおきくなりました おもくなりました 自分の足ではあるかないので 空を飛んでいるようです ふたりからさんにんへ さんにんからたくさんへ〉 ひらがなの用い方、やわらかな言葉の並び。若い夫婦に赤ん坊が生まれ、いつのまにか家族、という日々に「私自身」がふわふわと持ち去られていくような感覚を(自身に引き付けながら)覚えつつ。 〈羽化されるように よるよりもあかるく〉このあたりも、浮かされる、とイメージが重なりますね。凍蝶から深い所でつながっているのかもしれませんが、蝶の羽化、誕生のイメージ。ひらがなに開くことによって、夜という暗いもの、のイメージがいったん後退して、yoという明るい音が心に落ちていく。(代、世、無意識のうちにこうした「響き」も呼ばれているのかもしれません) 〈かげおくり のような ひかりおくり〉この行も美しいですね。冒頭の〈ひかり〉が呼び寄せられる。影、去っていった人、亡くなった人、そんな命の送りのイメージが、ひかりおくり、に転換される。 〈ひかり 開いたページの上に落ちる 読み上げることもない 文字の形に 舌を這わせ みつめている ずっと〉 〈おまえのなまえがきざまれた 本の表紙を なぜる 闇に同化した文字のゆくさきを だれかに託しながら ひかりを 閉じ込めて とじる〉 始まりと終り、この〈ひかり〉が印象に残りました。 現実の(物質としての)本、というよりも、ひとりの命、その道行き、ゆくえを記された(あるいは、これから記されていく、であろう)白紙の本、ひとりの人の物語。生きることは、時を経ること、時を経ることは、命が何かを体験していくこと。そんないのちの物語が記される本。 〈闇に同化した文字のゆくさきを〉ゆくえ、と記さず、あえて「ゆくさき」と強く方向性を指示するような言葉を選ぶところに惹かれました。闇も漢字の重さと固さを持って記される。 まだ幼い命の「ゆくさき」にひかりあれ、と願う、そんな若い母のくちずさむうた。いささか自分の思いに惹きつけすぎているかもしれませんが、そんな詩の世界を(私の中に思い描いて)読ませていただきました。
0細かい部分でいろいろと気になって、惹かれたことがあるのですが、この作品にまつわる一つだけをコメントいたします。 最初にページから落ちてきたひかりはただの演出ではないのでしょう。何となく綺麗な世界を描きたかったから用意した演出ではないのでしょう。最後に語り手が誰かに託してひかりを閉じ込めたように、語り手が最初にページを開いた時に落ちた光もまた誰かが託した光であったのではないでしょうか。 あっ、あとは、本で読んだ世界はあくまでも作中世界であって、あくまでも読むことで再生される疑似的な世界でしかなく、登場人物の仕草だけは真似できようとも、そこに溢れている五感に訴えるものを再生することはできないという読むことの限界もまた描かれているのでしょう。 それでも、この語り手は、そうした仕草にとらわれているといいますか、最終連もまた、内容よりも形式重視の、本の表紙をなぜるという行為、それもまた、おまえのなまえがきざまれた表紙をなぜるという行為、何だかわかるようなわからないような、それでも、そういう仕草をしたくなるような感じ、いや、そうせざるを得なかった語り手の思いが、秘められているのだと、読んだなりに思いました。
0最初に投稿された時から気になって折に触れて何度も読み返しているのですが、うまく感想を言葉にできないでもどかしい思いでいます。意味を考えることを放棄して読んだとき、非常に美しい作品だと思いました。ただ、おそらく何かしらの比喩としての作品なのだろうな、という印象があるのですが、その部分になかなかたどり着けず...。何度読んでも言葉やリズムの簡潔な美しさに眩まされて、「表面」をひたすら撫で続けているようなそんな感覚に陥ります。いろいろな方のレスをお読みすればもっと具体的な何かを掴めるのかもしれないと思ったのですが、やはりそれでも読む時に私の感覚はひたすら作品の表面を周回します。あるいは、そんな作品なのかもしれません(私は個人的に詩に意味を求めないことが多いのでそれはそれで十分なのですが...)。開かれて、そして紡がれては閉じられていくイメージの断片、美しいです。
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