殺されると思った。
僕を殺すと得する人間がいる。
奴は林檎の頭をしている。
僕にはやらねばならないことがあった。
それは白い花を育てること。
白い花の真ん中に美しい瞳が芽生えるまで
大事に精魂込めて育てること。
美しい瞳は昔死んだ彼女の瞳。
彼女のような柔らかな青い瞳。
もう一度見てみたいんだ。
夕暮れ。
誰もいない路地の曲がり角に
林檎の頭をした奴が僕を見張っている。
今か今かと胸の内に隠した拳銃を
引っ張り出したり押し込めたりしている。
僕は鉢に入れた白い花を眺めながら
いつになれば彼女の匂いがするものかと
あの美しい瞳と見つめ合う時間がやってくるのかと
たくさんの疑問符を引きずりながら。
ある日
忽然と白い花は鉢から無くなっていた。
その代わりに彼女の頭部が植え付けられていた。
両目が無くなっていて、
暗闇の瞼が悲しそうに開かれていた。
誰の仕業だろう。
林檎の頭をした奴のコートの中に
白い花が見え隠れしていた。
僕は彼女の頭部を抱きかかえて
林檎の頭をした奴に
白い花との交換を持ちかけた。
林檎の頭をした奴は素直に応じてくれた。
林檎の頭をした奴は、
自分の頭をゴミ箱に捨てたかと思うと
彼女の頭部を自分の首に差し込んだ。
僕は白い花を鉢に植え付け
もう一度彼女の瞳が見てみたい
という一心で懸命に育てるのだった。
僕が殺されることはなかった。
でも、彼女は林檎の頭をした奴に殺されていたんだね。
今、分かって悲しかった。
どうしようかと思ったけれど
今はとにかく白い花の真ん中にあの美しい瞳が
芽生えてくるようにと必死に育てるばかりだ。
作品データ
コメント数 : 8
P V 数 : 1719.5
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作成日時 2020-11-09
コメント日時 2020-12-03
#現代詩
#縦書き
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2024/12/22 01時49分42秒現在
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ポエジーをめぐる作品になるのでしょうか。林檎の頭は知や理性の比喩のようにも思えました。花の瞳が見たいと取り引きや花を植えるという過程に引き込まれる作品でした。
0湯煙さん、コメントありがとうございます。 この詩の可能性を引き出してくれました。これは夢で見た光景に幾つかの脚色を加えたものです。
0ストーリー的ですね
0やっこさん、コメントありがとうございます。 怖い夢だったのですが書き記してみるとあまり怖くはありませんね。
0りんごの花は白かったと思うのですが この詩に出てくるりんごの顔も白いような気がしました。
0田中宏輔さん、コメントありがとうございます。 それは卵のような白さですか?どんな白さを思い浮かべられたのか少し気になりますね。一応ここでは林檎の頭をした奴はヒールなので、そう言えば全身真っ白のヒールって中々いないよなと面白く考えさせられました。
0不思議でグロテスクな雰囲気、私は好きです 彼女の目が白い花から生えてくるのかどうなのか、想像が膨らみますね。 白い花と彼女の対比、林檎頭の意味するところも考察し甲斐があって楽しいです
0アオさん、コメントありがとうございます。 覚束ない筆跡が、読み手の想像を遮断してしまわぬかと冷汗ものでしたが、そう仰って頂けて少しばかり安堵しております。
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