夜明けが追いかけてくる、
終幕ののちに──
冬の叫びが劇場を駆け巡り、
顔のない俳優がコートを羽織る。
しおれた花束が客席を賑やかし、
スポットライトの熱は、とうに冷めきった。
「真実も、嘘も、大げさな戯曲も、
長ったらしい独白も、もうたくさん。」
老女優は煙草を吸いながら、そう嘯く。
煙は暁に染まり、
赤い絨毯の上に、灰が白く光っている。
緞帳は確かに愛を孕んでいた。
しかし、書割の世界は全て凍ってしまった。
月が沈み、星々の葬列を見送ったあと、
冷たい太陽の下で、我ら観客は漂う、
孤独の遠い海を。
──台詞を奪われ、魂を忘れ、形もない「主役」に、
神々を見いだすものなど、もはや誰もいないのだ。
作品データ
コメント数 : 2
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作成日時 2020-11-03
コメント日時 2020-11-05
#現代詩
#縦書き
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2024/12/22 01時41分55秒現在
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説明するのは野暮だと思いますが、「この世は舞台で、人はその上で自分の役割を演じているに過ぎない」と言った誰かがいますね。しかし、そんな単純な世界観は崩れ去ってしまった。この詩が見事に、突き崩している。 舞台という秩序を失い、神をみうしなっても、劇は続いている。 日常と舞台の上のリアリティの濃度の差が曖昧になってくる。どこまでが、現実でどこまでが虚構か。 ルールを失った私たちはどのように「主役」として振る舞えばいいのか。誰も答えられない。それでいいのか。 アイデンティティやら、主体性やらと叫ばれることの空虚さに対する疑問。そんな概念上の自分で満足しようとすることに対する欺瞞を暴く。鋭い。鮮やかな劇場のつつましい闇。
1大塚拓海さま コメントありがとうございます。 深い洞察と批評、恐れ入ります。本当にコメントのとおりで、現代の虚無感みたいなものを舞台と演劇に仮託して、詩を作ってみました。
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