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乾きそめている道
乾きそめている道は未だ虚ろ 閉塞していた人々の心は解放されて戸惑っているだろう 降るだけ降って尽きた雨は 林に濡れ色の静穏を残していった 雲は再び健全らしい真っ白な表情を取り戻し 空が子どもたちのように空色の声で話をし始めている 乾きそめている道に私は出てゆく 私の心に血流が戻ってきている感じがする 愛されているものは愛されていないものよりも強いのだ という峻厳な現実を思い起こす 一人ぼっちで寂しいなどと言う場面は 雨雲のように風に乗っていつかすぐに過ぎ去ってしまうべきだ 乾きそめている道に自動二輪が走り出す 今や青く輝き始めた西の空に 過去の愛が埋もれているような気がする もう十分愛された、これからは愛する番だ、と思ったりする しかし私だって一人なんにも愛していないわけではないのだ と孤独の現実に勇猛に主張しつつ 乾きそめている道に交通が蘇る 清々しかった気持ちに陰りがかかってくる 友人の嫁は私のことが嫌いらしいが今では二児の母だ 私に悪口をした女もいたがその女も今では二児の母だ 社長の愛人におもねっていた男は二児の父だった 私を軟禁したり監視したりした男も二児の父だった 誰でも母親や父親になれるんだなと陰鬱なことを思う 私はどんな人間の子なのだろう そして私はなぜ父親でもなんでもないのだろう 乾きそめていた道がまた濡れてくるように見える 道をゆく人間の足の裏は救いようもなく汚れているようだ
乾きそめている道 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1527.8
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 22
作成日時 2020-10-16
コメント日時 2020-10-20
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 6 | 6 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 6 | 6 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 6 | 6 |
総合ポイント | 22 | 22 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 3 | 3 |
総合 | 11 | 11 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
乾きそめているという表現がいいと思いました。私たちがいつも目にしているようで気づいていない色を言葉に表したような感覚です。 第一連の「濡れ色」「空色の声」という言葉も、乾きそめている道の補色を表している様に感じました。 >私の心に血流が戻ってきている感じがする >愛されているものは愛されていないものよりも強いのだ >という峻厳な現実を思い起こす この感覚がとても共感できます。個人的な感想ですが、心が元気になった途端にそれまで忘れかけていた峻厳な現実を思い起こすということがよくあるからです。 初めはただ、そこにあった乾きそめている道に 「私」、「自動二輪」、「交通」と増えていくのに対して私の心にどんどん陰りが差していく様子に惹かれました。 そして第四連がリアルで残酷な現実が描かれているのに対し、最終連はとてもシンプルにまとめ上げているところがいいと思いました。
お読み下さりありがとうございます。 今作では、雨が降って、過ぎ去って、乾き始めているという誰もが遭遇する状況を描きながら、そこに愛の性質についての一考を重ねてみました。 愛には方向があるし、必ずしも公平なものではないし、美醜もあります。とても人間的なものです。 終盤はちょっと暗くなってしまいましたが、なんとか読まれる程度には持ちこたえられて良かったです。
0もしこの作品が音楽だったなら、 と少し思います。 音楽を聴いて、一作一作に批評を表明するという文化は、あまり聞きません。 けれども 言葉じりをとらえず、音楽のようにこの作品を読むと、あるいは鑑賞すると深い孤独の中へ、強い意志の中、入り込んでゆくような印象を受けます。 この作品に空色、という色彩、特定の色彩でないにせよ。そういった表現があることに、僕は安堵するのです。
0コメントありがとうございます。 本作品を「聴く」というアプローチをおもしろいと思いました。 「書く」ということをすると、どうしても「思考」が入ってしまい、時にその書かれたものは何か汚いものになります。そして「読む」に堪えないという仕儀に至りますね。 本作品には汚い箇所があります。しかし、雨上がりの情景描写や愛をポジティブに書いた箇所があるためか、鑑賞する人に安堵をもたらすことができることに、作者の私も安心の気持ちになれます。
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