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僕のからだが生まれた時みたいに綺麗だったら
薄い雲に閉じ込められた沈黙のなかで 波は正しいリズムで音を立てる 夜が朝に変わるとき 夕が夜に変わるとき 空が一番澄むのを私は知ってる 風の冷たい立冬の浜辺には 人の姿はまばらにもなく 私が今ここに在るのは ただそれだけが理由なのだ 波打ち際を伝って歩く 時々やってくる大きな波が 私の足を飲みこむと 知らぬ間に足首に描かれていた 猫にやられたような引っ掻き傷に 海水は少し滲み その痛みにうつ向くと 古い足跡を2つ 私より小さなものと大きなものを見つけた その足跡の行く末を追って行くと 途中で小さいほうが駆け出したのが分かった 日が沈むのを背に向けて たぶん二人の帰る家に向けて この辺りでいいかしら 私は服を着たまま浅瀬に寝ころんだ 波はつーんと冷たくでも穏やかに頬を撫でる このままずっとここにいたら そのうち大きな大きな波が来て 私をずっとずっと遠いところに連れていくのかな そんなことを考えながら 私は目を閉じ 正しい時の流れのなかで 中途半端に眠りを探そうとした でも何故だかお腹にもついていた 引っ掻き傷の痛みが気になって 眠ることはできなかった 「僕のからだが生まれた時みたいに綺麗だったら」 「暗く冷たい海の底をめがけて」 「どこまでも深く深く沈んで行くのに」 「そのことに」 「どんな恐怖も厭わないのに」 しばらくすると少し離れたところから 車の走る音が聞こえだした 私はのっそりと立ち上がると 生まれたての朝がまだ私を隠しているうちに 家に帰ることにした 日の昇るほうへ向けて
僕のからだが生まれた時みたいに綺麗だったら ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1049.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 3
作成日時 2020-07-07
コメント日時 2020-07-08
項目 | 全期間(2024/12/31現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 3 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 2 | 2 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
少し長いですが読んで頂けると幸いです。
0特に1連目の描写が美しいです。散文的なのに流れるリズムがある点、「波打ち際」という題材とマッチしている気がします。タイトルにもなっている「僕のからだが生まれた時みたいに綺麗だったら」というフレーズは、このモチーフだけで何編か物語が書けそうな、すごく雰囲気のあるフレーズですね。このモチーフで色々練ってみたら良いかもしれません。
0コメントありがとうございます。 僕のからだが生まれた時みたいに綺麗だったら、このフレーズがまさしくこの詩のキーになっています。僕自身も気に入っている言葉なので良く見ていただいて嬉しいです。
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