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#LIVES
「老師へ」 (どうした因果でここにいるのですか、(なにをしているのですか、(なぜこんなに痛めつけなければならないのですか、(わたしはなにをしたのですか、 * 足の鈍痛が一週間消えず、履きなれた安物の革靴を履くこともままならないため、近くの病院へと向かいました。若い男の医師からは、なぜ早く来なかったかと言われました。いつものように変わらず仕事をしていたと話すと若いほうの女の助手からは、スゴい……と言って斜め上から眼差されました。 横たわり、右足を白い液体にひたされ、足首から膝下までカチカチとなり、包帯でぐるぐる巻きにされ、松葉杖を両手に持たされました。片方の革靴はリュックに入れ、片足を浮かせてサドルに跨り、ペダルをこぎました。街はすっかり日が暮れて、すべてが影絵のようでした。忙しなく行き交うものたちのなかを走りました。このまま空へ浮き上がるのだと思いながら。 大病院の待合室で長椅子の上から車椅子へと体を載せられ、しばらく患者さんたちとテレビを見ていると、名前が呼ばれました。診察室へ入ると、送られていたレントゲン写真を見せられました。右足の小指の下を青白い稲妻が、甲の真ん中まで走っていました。 仕事帰りにいつもの交差点を渡り、信号が点滅を始めたのを見て小走りになりました。ふくらはぎの張りは前の日からありました。渡りきったと同時につんのめり親指から地面にめりこみ、なにか硬いものを噛んだ時のような鈍い音を聞きました。そのまま片膝をついてしばらく呼吸を整え、ひきずりながらバス停にたどり着きました。 眼鏡を掛けた年配の女の看護婦が松葉杖の扱い方をレクチャーしました。両脇に挟み込み体を支え、差し出した勢いで弾みをつけると前方へ移動できました。階段を上り下りしました。入口横の受け付けの前から隣の新館へと吹き抜けになった、渡り廊下へ続く自動扉の手前まで往復をくりかえしました。家に帰ると松葉杖を押入れに仕舞い、カチカチだったものもはずして押入れに仕舞いました。痛み止めは日に三度の食後に飲んでいました。シャワーを浴び、買い物にも行きました。階段を上り降りしました、横断歩道を渡りました、電車に乗りました。その他の雑用などもこなしました。やっつけでしたが仕事を休むわけにはいきませんでした。わずかに足を浮かせば問題はありませんでした。 手術ではなく、リハビリを受け治療することを選択していました。白髪の男の医師からは完治するまで半年はかかるだろうと言われていましたが結果はその半分でした。カチカチのものをはめ包帯でぐるぐる巻きにしました。両手に二本の松葉杖を持って向かいました。病院の前から松葉杖をついて入り、返すと二本分の8000円が返されました。数人の患者さんたちとともに長椅子に座りテレビのワイドショーを見ていました。最後の支払いを済ませ外に出ると、自転車に跨って走り出しました。ペダル、タイヤ、サドル、春も近い晴れわたる平日の朝、街の雑踏や鳥のさえずりもまばゆさのなか、雲のようでした。 * 一本の線香が尽きる、組む足の痛みに、後悔だけをつのらせながら、ここから立ち去ることだけを。 午前三時の僧堂に、背後に、声があり、 ───骨を折ってください、 わたしたちの背後、あなたの声があリ、 ───どうぞ骨を折ってください、 ことば、からだ、あつめる、こころ、 とらわれ、ていた、こころの、 とらえきれず、くだけた、
#LIVES ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1246.1
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 6
作成日時 2020-07-07
コメント日時 2020-07-09
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 3 | 3 |
総合ポイント | 6 | 6 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1.5 | 1.5 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
何か不思議と印象に残る作品でした。 こういった場合、本当はこの文章のこういう所がと言えれば良いのでしょうけれど、 きっと.。
0沙一さん 構成については、たとえば散文で統一すべきだったかと、そんな感じもありますね。やはり全体が把握し難い不親切なものになってしまったかなと。文章表現の甘さなども含めて掘り下げが足りないといいますか。散文は久しぶりだったからなのかわかりませんが。 村上春樹の作品は私はわからないですね。読んだこともおそらくないかなと。マジックリアリズムと呼ばれるものとはまた異なるものなんでしょうか。筆致が禅寺での厳粛な静けさ、雰囲気に引かれすぎたのかもしれませんね。 ありがとうございました。
0ryinxさん そうですか。残すものがありましたか。言い難いもののようですね。おそらくわかりにくい作品となってしまったかと。 ありがとうございました。
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