《なんてこたあ ないんだよ》
翼をたたんだカラスがうそぶく
電柱の上に ぽつつりとまつて
さうやつて 世の中をみおろしてさ
ほら ちよいと
武蔵の絵みたいな
構図ぢやないですか
ご機嫌よう
今日はいいお日和で
何か面白いお話でも
《さみしい男と
かなしい女が
ゆきずりに出会つて
どこかにしけこみ
二升五合を熱燗で空け
骨がとけるまで愛しあつたあと
うす霧ただよふしづかな朝に
近くの岬から身をなげた》
ほほう
そいつは何とも
おきのどく
《さうでもないよ
「わたし 誰よりも 幸せだわ」
といふのが
かなしい女の
さいごの言葉さ》
ははあ
さうですかい
で さみしい男は何と?
《さあね 知らんよ》
ほつぺたを掻きながら
長生きのカラスがまたうそぶく
《なんてこたあ ないんだよ》
さうかもね
なんてこたあ ないのかも
どのみちさみしい境涯で
どのみちかなしい人生だ
幸せなきぶんで あの世に行けるなら
それに越したこたあ ありませんわな
それにしてもだ
さみしい男はどうしたんだ
幸せになつちまつた女と
春の海に身をなげる前に 何かしら
気のきいた科白のひとつでも
のこしたのか
のこさなかつたのか
行きずりの女とひと晩愛し合つて
ちつとは気が晴れたのか それとも
さみしい男はやはり
さみしいまま
だつたのか
どうもそいつが
気になつて
しかたないのだが
カラスはそつぽ向いたまま
うす雲たなびく空の下
春風に吹かれてる
作品データ
コメント数 : 6
P V 数 : 2588.7
お気に入り数: 1
投票数 : 5
ポイント数 : 38
作成日時 2020-04-01
コメント日時 2020-04-16
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 13 | 4 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 4 | 0 |
技巧 | 7 | 1 |
音韻 | 3 | 0 |
構成 | 10 | 1 |
総合ポイント | 38 | 7 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 3.3 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.3 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 1.8 | 0.5 |
音韻 | 0.8 | 0 |
構成 | 2.5 | 2 |
総合 | 9.5 | 5 |
閲覧指数:2588.7
2024/12/04 02時31分20秒現在
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完璧。ほぼ完璧。カラス、寂しい男、そして死。この三つから先日亡くなられた志村けんさんを思いおこしましたが、ここで無理からこの詩と繋げて彼を語るのは野暮というものでしょう。いい響き。語感。そして《なんてこたあ ないんだよ》という楽観視。すべてが良い。悲しみの中に明るさ、楽観がある。そこがまたもの悲しく。志村けんさんが天国から「だいじょうぶだあ」と言っているようではないですか。おっと言ったそばから野暮を。いい作品でした。
4カラスの勝手でしょなんて 言わなきゃよかったよ 雷コントには居なかった君だけど 今ではブー様より 先に雲の上 君は勝手なんだな 東の村から音頭が聞こえると いつしかそれは山びこになるよ オイッスオイッスと 呼び合ってるのかな オイッスオイッスと 俺もあいつを呼ぼうかな カラスの勝手でしょなんて 言わなきゃよかったよ テレビの前で全員集合 そんな日々はもう来ないんだねぇ
1ステレオさん、ご高覧と過分のお言葉有難うございます。 これ、書いたのは実は志村さんが亡くなる数日前なんです。その時点では亡くなるなんて全く想像もしてなかった。投稿するときに読み返して、ああ、そう言えばカラスが出てきやがるよこれ、と奇妙な暗合を感じました。作者には予知能力はありませんが、言葉にはそういう能力が宿っているのかもしれません。
0tOiLeTさん、お返詩有難うございます。 しんみりしました。
1私は、むかしは 心中もの話がどうも共感することができない人だったのです。ですが、この作品を読んで 情が沁みる感じがしました。武蔵の絵とかのせいもあるかもしれません。武蔵の絵を、知らなかったのですが、なんともいえないですね。この詩はなんともいえないです。烏がいてくれたから、私にも読めたのかもしれません。あと、心中で どうして こころの中と書くのでしょうか。烏に聞いてみたいです。
1るる姐さん、コメありがとうございます。 「なんともいえない」感慨を引き出せたのであれば、作者としては本望です。 >どうして こころの中と書くのでしょうか カラスに聞いておきます。「さあね、知らんよ」と言われるかもですが(笑)
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