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白い神話に寄せて 二編
【きっと はなせる】 目が覚めて一番に 口にした言葉は くちなし 薫り ゆたかな色彩の白 しずくを 湛えた光沢の葉 無垢を 口にするときの ふるえる くちびる くちなし きょういちにち なにを はなすことだろう なにを 話す なにを 放す 町が動きはじめる いらっしゃい いらっしゃい 店は 品を自慢し テレビがスマホが 自信たっぷりに 優れた人や物を教えようとし そこかしこに昨日をコピーしたかのような言葉が あふれようとし 昨日のままに すべてを押し流そうとする すこし くちなしになったら きっと 花せる しばらくは なにもいわず 耳を かたむけ 昨日とは すこし違う口調で はなせる きのうとは ちがっている友に 昨日の蕾が そっと ひらくかのように はなす きのうとは ちがう季節の風に 身をゆだねながら おもいを はなす 【白い神話】 白い部屋で生まれた多くの人間たちは獣の生き方を忘れ いまでは すっかり病院という白い部屋で死ぬと 多くの者が信じているのは 一種の形骸化した信仰だ 白から生じ白へ消えてしまうなどというのは どう考えても神話的ではないか いつから人は 年功序列で死ぬものだと思い始めたのだろう たとえば、祖父と父と息子がいたとするなら まず祖父が逝き 父が逝き そして息子が いつかは いくものだと なんとなく人々は信じているものだ しかし 白い神話は そうはいかない ある年の六月の三十日 ひぶくれのような顔に変貌して弟は逝った 熱中症だ すでに癌の宣告をうけていた父は 息子にはできることを すべてしてやったから 「わしは なんの後悔もない」と言って数か月後に逝った そして その同年、祖父も逝った 老衰だった 三人の男の中で最後に死んだ勇者は 一番の年寄りだったわけだ 三人は生業が よく似ていた 祖父も父も造船を生業にしていたが 父は出向で原発に何年も行っていたことがある 特別な技能を磨き重宝がられていたようだ 弟のほうは 下っ端な作業員として 原発にいたことがある 原発事故のとき 三人は すでに亡くなっていたが 家族はさあ いつかは事故があるのではないかと 思っていたさ 未曾有なんかじゃない 弟は生前、ほんの一時期だが 自分の名前を忘れてしまうほど 心を崩壊させていたのだから 具体的にはどんな困難であったかを私は知らないにしろ困難がないはずがない 父の生前の苦労は わたしには 全く想像できない 苦労だなんて例え我が子であっても想像させまいとする父だったから 「なんの後悔もない」とか言って 弟を追うかのように数か月後に癌で逝った 祖父は むかし戦艦を設計したグループの一員だった 有名な船だ 沈没などは けしてしないと言われていた船だった そして、船は撃沈した 祖父の戒名には 尊い文字列とともに【船】の文字がある だが、その船に乗った人々は、みんな死んだと聞いている 三人は 同じ年にそれぞれ違う理由で逝った どこへ行った 大きな船で いったのか 祖父の関係した戦艦でいったのだろうか 父の関係したタンカーでいったのか それとも弟と子どものころに遊んだ あの沼にうかぶ あの壊れかけの あのガタピシいいなから 濁った水がどんどん入っていた あの小舟でいったのだろうか あのとき わたしも 逝ってたかもしれないのに 宇宙の「宇」とは時間のことであり「宙」とは空間のことだそうだ 同じ年に逝った三人の時間と空間は きっと同心円状に重なり合っている 太陽の一番近くまでいけたのは きっと弟だ なにせ 熱中症という病は そういう病なのだ 突然、太陽のすぐそばに行ってしまうのだ とうさんより じいちゃんよりも いちばん 熱量の高い中心に わたしより若い弟は いったのだ 「おとこは 渋うないといけん」とか いわれながら育ち 指を三本たてて 「ほれ 鈍いのお 渋いは四(^^)vじゃのお」と笑っていた弟は 三人の中で いちばん いかした中心の場所に いったのだ 海のそばの町の白い部屋で それぞれ うやうやしく生まれた三人が 清潔な病院と言う名の白い信仰を出たあと 宇宙になった きっと三人とも達者だ なにせ これは神話なのだから
白い神話に寄せて 二編 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2108.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 21
作成日時 2019-06-10
コメント日時 2019-06-13
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 4 | 4 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 5 | 5 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 21 | 21 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.5 | 1.5 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2.5 | 2.5 |
音韻 | 2.5 | 2.5 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 10.5 | 10.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
連発で投稿しましたが、こちらを 先に読んでほしいので、あげます。
0ちなみに四(^-^)vというの vは、一ブイ 指で三をつくると 二ブイ 鈍い 指で四をつくると 指の谷間が三つだから ミブルイ 指で五をつくると 四ブイ 渋いです。 言葉ではないでし どなたにも わからないことを いれてみました。 失礼しました。
0「白い神話」がとても気になりました。特に冒頭の連の非常に練られた強度のある表現、そして「三人は」で始まる6連以降の直線的リズムに支えられた歯をくいしばるような強靭さが印象的でした。6連目、7連目は短いフレーズが畳み掛けるように連なっていますが、工夫された音韻に緊張感があって効果的に効いているように思います。しかも冒頭から2連目にかけてまず一度畳み掛け、そのあと若干リズムが柔らかくなり、そこから後半また徐々に引き締まっていくような印象があり、そのために読んでいてがっつりと掴まれる感じがします。欲をいえば中間部分、三人の思い出が語られる部分は言葉の緊張感が緩み過ぎている感じもします。 >白から生じ白へ消えてしまうなどというのは >どう考えても神話的ではないか 「白から生じ白へ消える」というイメージはパソコンの画面の中の世界に慣れ過ぎた自分にはむしろ自然すぎるぐらいのことで、毎日膨大な数の文字や画像が白いディスプレイから現れてそしてまた同じ白い画面のなかに消えていく。人の生まれて死に至ることもそれと同じくらい自然なはずで、本当に自然なくらいさりげなくこともなげに時間は人に命を与えたと思えば、同じくらいの気まぐれで奪っていく、そのあまりの自然さはあまりに非情で、理不尽です。生から死を「白から生じ白へ消える」に喩える巧みさはの一つはその言葉が喚起するイメージがもつ一種の「自然さ」であるような気がしました。「白から生じたものが白に消える」というのは分かりきったこと。だから「どう考えても神話的ではないか」に込められた悔しさが実感として迫ってくるように感じられるんです。 ただ、イメージはイメージとして、それとは別に、実際に「白から生じたものが白に消える」ものってどれくらいあるのだろうと考えると、大抵のものは腐敗して汚くなって朽ちていく。やはりそう考えた時にも「どう考えても神話的ではないか」が非常に痛切に訴えかけてくるように感じます。生から死までなかばシステマチックに処理されていくが病院だとして、現代の病院というものは生も死も何もかも清潔に消毒でもしてくれるかのように感じられるけど、そんな訳はないだろう、と。
0るるりらさん こんばんは。 確か長渕剛さんは、リリックと楽曲と脚本の著作者であったことを、二つの詩を読みながら、何故か思っておりました。長渕剛さんが、目標にした小説を書き損じながら、チーズを肴にして、酒を浴びながら未完成の小説を、敢えて詩として洗練させるにとどまらせることを、何故だか想いました。高校生の時分に、ただ純粋に音楽を確かめるように聞いたことを、思い出す目的でCDラジカセに向かうようにです。どうやら、いつか学生服を着た若者達が闊歩する姿を探すように、そのような情緒を短文で想像させることには、とてもうまくいっているような気がします。とはいえ、この詩は、まだ未発酵なチーズのような気もします。独特な香りがよいのか、白の色味が柔らかいのか。じっくりと、もう少しねせると更に風合いも醸し出される感触に、舌鼓が打てると思いました。もちろん、このままでも、いけると思います。 ※長渕剛さんから連なる想いのくだりは、僕が未だにイチファンとして思うことであって、他の表現に関わる事件やらを空想して考えた訳ではありません。では、よろしくお願いします。感想にて。
0読みながら自身の家系を思いました。偶然ですが曽祖父、祖父が造船業に携わり父は事情があり造船業界を辞して全国を放浪していたそうです。で、叔父がひとり若くして亡くなっていて内容は違うものの、不思議な既視感に囚われました。 年功序列で人が死んでいく、というのはなんとなく日常でそんなもんだと思われているんですかね。自分の家系は早くに亡くなるものが多くて、なんとなくそんなもんだと幼い頃から感じていましたが。すっかり作品から離れて申し訳ない。 呆気ないくらい理不尽に失われていく生命を思いながら、白から白に、と書かれている裏側にそれだけでは割り切れない切なさを感じました。すみません、うまく整理できない。書かずにいられない。もう一作を拝読してまとめ直したいです。失礼しました。
0●survof 様 詳細に読んでいただきありがとうございます。おおむねsurvof 様にとっては この詩の中に入りやすい詩文であったようで、嬉しいです。残念だったのは 中間部分ですね。送信三十秒後に、やらかしてしまったと、頭を垂れてしまったのがご指摘の箇所です。 「白から生じ白へ消える」についての洞察が また興味深く拝読しました。 パソコン画面と照らし合わせて読んでおられるのは、私にとっては新鮮な読解でした。 大自然を見渡せば、言われてみれば あまりありませんね。生き物は萎れたり腐敗したりしますし。けれど、四季は冬から数えるなら 冬の雪景色から来冬の雪景色までのサイクルで区切ろうとおもえば、白から白かもしれません。 結婚のことを人生のスタートとして白で演出することがありますが、死に装束も白いことがあり宗教概念のゆるい日本ですが、色彩の中でも白は宗教色を感じるのは私だけでしょうか?そういえば、日本の色彩名では「赤い・青い・白い・黒い」の四つだけが形容詞だという指摘を読んだことがあります。その話というのは、この四つは ほかの色とは違って、色の質を示していたという話でした。 赤=明るい色 青=ぼんやりとした色 白=はっきりした色 黒=暗い色 白は、はっきりくっきりした なにかしらの祭事に区切るために、用いられてきたのかもしれません。それにしても、「どう考えても神話的ではないか」に込められた悔しさ。感じててただけて嬉しいです。ありがとうごさいます。
0●竜野欠伸様 長渕剛さんて、リリックと楽曲と脚本の著作者なんですか?長渕剛さんて喋りの上手い方という印象は わたしにもありました。ぶっちゃけこの詩のスタイルって、変ですよね。 なぜ二編編纂にしてるんだ。しかも なぜ次の投稿作品も二編編纂にしてるんだという点は、つっこみどころですよね。 そうなんです。できることなら しゃべくりながら自作品をおりまぜるというのが、やりたかった。息切れをおこしたため とりあえず、二編編纂×二作品という形にしたのです。二編にはしてはいるが、一遍の作品だと言えなくはないというチョイスにしてます。 たしかに、もう少しねせると更に風合いも醸し出される感触に、舌鼓が打てたのかもしれませんね。 実はね自分でも すこし そんな気がしています。 するどき指摘をありがとうございます。
0●帆場蔵人様 わお。うん。あら。そーですか。いえね。「帆場蔵人」というハンドルについてなのですが、なんだその めちゃめちゃ私ごのみのハンドルって何?って、わたしは前から 思ってました。ここだけの話、初めてお名前をみかけたときは、ペーパークラフトの帆掛け船を購入したし。でも ホーバークラフト(?ほうばくろうど?)だから ペーパーは違うんですけどね(笑) 年功序列で人が死んでいく、というのは 正確にいうと、年功序列で人が死んでいくことをそうでにい順番で死んでいくことよりは、望んでいるケースが多い。と言ったほうが正確かもしれません。わたしの祖母は乳飲み子を大勢亡くしてますし、年功序列で人が死んでいくはずはないのですが、でも 「あんたは まだ若いんだから大丈夫よ。なんぼでも やりなおしがきくわよ」とかいう励ましとかを聞くことがあるのですが、正直。 それって、なんの保証もない話だよね。と、思うのです。おもうのですよーーーーー。 ねー。(遠い目) お読みいただいたううえに、 ご自身のことも教えてくださって ありがとうございます。
0×そうでにい順番 〇そうでない順番 失礼しました。
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