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キオク
ある冬の晴れた日 ぼくは穴の外に出てみた 光は柑橘の香りがし 背骨に無数の別れが宿った 「母さん」という人が ぼくの顔をのぞき込み 「カズヒコ」と言った 高層ビルの一角に切り込む路地裏 捨てられた子猫がニャーオとなく その穴の向こう側は水平に落ち 垂直に曲がっていた あなた自身が その冬枯れのある晴れた日になった 眼をこすると 恋人 と呼ばれる人がぼくを見ていた 「あなた」と彼女は言った 幸せが事も無げに黒い灰となって昇った 空は生きていたのだろうか 女の影は南の砂漠までのび さらにの砂漠の向こうの海に落ちていた ぼくらはこうしていなくなった 分離した世界は繋がり合っていたのか 見ていたものは果たして存在していたのか? 鳥の羽ばたきが破滅的な森に回帰した どこから来たのか自分の墓がある その上で おまえはうまそうに煙草をすった それが明日の朝に混じり合った時 ぼくは出て行った 窓から見える海は砂漠を抱えて沈んでいる 海は鉛を飲んだように黒々としている あの美しい話を 誰に語ればよいのか探している カモメが一羽旋回している
キオク ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1662.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 15
作成日時 2019-04-25
コメント日時 2019-04-27
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 3 | 3 |
技巧 | 4 | 4 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 2 | 2 |
総合ポイント | 15 | 15 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.6 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.4 | 0 |
エンタメ | 0.6 | 0 |
技巧 | 0.8 | 1 |
音韻 | 0.2 | 0 |
構成 | 0.4 | 0 |
総合 | 3 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
「あの美しい話を 誰に語ればよいのか探している」 でやられました。 良い詩でした!
0ふじりゅうさんの作品にて「『死』とか『自死』を匂わせるような作品ばかりで…」との尾田さんのコメントを目にしたので、改めてこの作品に向き合ってみました。たしかにこの作品には無から有が生まれる瞬間の書き出しがあり、生命の誕生を仄めかす描写が入っている。希望に満ちているし、自己陶酔的な「死」や「自死」とは程遠いし、それは存在しない。とても気持ちよく読めたのですが「女の影」が「砂漠の海に落ちて」以降の文面、最終節が少し私には分かりにくく感じました。冒頭の誕生の瞬間は夢で、恋人と呼ばれる女との別離が描かれた作品なのか、そしてその悲劇性をある種官能的に描いた作品なのかと読み解いてみて、その真相にとても興味をそそられました。ひも解きを求めるのはいささか無粋な気もしますが、筆者様にこの作品の奥深いところで描きたかったものを訊きたくもなりました。また他作品との差別化は筆者様の意図があるかはともかくとてもよく出来ていると思いました。
0はじめまして。 書き慣れている人の詩だなと思いました。 とても、安心して読める。
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