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room on ruin
序文 唾を吐き煙草に火を点け路地を右に曲がる。薄暗いカーテンはネオンに包まれても等しく虚しいばかり。若さも、欲も、機知も、思慮も、吸殻のようにくしゃくしゃで白髪も増えた。いっそこのまま凍え死んだ方が美しいのではないかしらなどとと女は地下鉄の落書きされた鏡の前でぼんやり自分の人生を省みていた。捨ててもつまらないし、持っていても仕方なくて涙ばかり溢れて来てその津波に思考は溺れ後ろを通り過ぎて行く逆様の行人が尽く自分より幸福な気がしてならなかった。女にはもう、少しの熱も残っていなかった。さながら雪道に捨てられた煙草のように自らの熱で湿って終いには消えてしまい、これ以上欲しがる理由も行く理由も全て失っていた。雨は未だあがらず、痛み止めももうない。もうこの先自分を誤魔化して朝起きる理由もない。全ての執着が消え、全ての、或いは始まりの終着に、たった独り立っているだけで、その瞬間のみが、その虚無のパッケージに包まれた刹那のみが自分なのかと思うと瞳は薄暗く濁り、身投げする気力さえ失った。飽いたのだ。春に。飽いたのだ。夏に。飽いたのだ。秋に。飽いたのだ。冬に。失くす心さえない始末。喜ぶために闘い、絶望する為に夢を見よう。死ぬまでの過程で私達は忘れながら賢くなる。 一章 what ever happend? 人生はあっという間だ。賢くも、阿呆にも、成り得ないほんの僅かな刹那なのだ。確かにそれは一度きりでまた回ってくる事は無いのかも知れないが心臓をケージに入れて鍵までかけるのは私はとんでもない誤解から産まれた因習だと思っている。お前も俺も彼も彼女もきっと等しく価値などないのだ。だから、金があるなら死ぬまでヘロインを打ち続ける方がいいにキマッている。何故わざわざ毎朝起きて生きているんだ?資本主義に或いは社会主義に或いは共産主義に傅くのは善い行いなのか?善い行いとはなんだ?お前の自己満足で他人が幸福になればそれが善い行いなのか?ならば死にたい奴を殺してやるのは善い行いなのか?腹を空かせて死にそうな子供の為にパンを盗むのは悪い行いなのか?道徳や倫理観やモラルにただただ俯くのは楽しいのか?それともそれが便利だから選んだのか?或いはただ死ぬのが怖いのか?或いは金が無いのが怖いのか?金があると幸せなのか?デカイTVが欲しいのか?随一の美貌の容姿の妻を娶りたいのか?選択肢を限りなく増やしてまた迷いたいのか?架空の世界の虚構の社会で満たされることに名誉や価値や幸せはあるのか?わからないが私も未だ立ち竦んでいる。しかし、これが特段私に未だ成さなければならない何かがあると思わせる程のロマンチシズムは内包していなかった為に私はまたその小銭で命を以て学ぶべき時間に背いて屋根の上で雲か煙か白い何かが青い青い高い場所で追いかけっこをしてるのを自らの運命とところどころ重ねながら眺めていた。そして金を持たない俺に似たクラスで生きている人々は時計と電球が有ったが為に溢れて舗道に溶けるアイスクリームを運ぶ働き蟻より正確に箱と箱の間を往復して歳を重ね陽の落ちる頃に酩酊し苦く笑い彼等の真理である「仕方ない」や「気の持ちよう」といった極めて汎用性の高い皮肉に似た解をジジイかババアかもわからない店主に連呼し、嘔吐し、忘れ、亦明日を繰り返すようであった。しかしもしそこに埋もれてもいいと思えるくらいの何かがあったなら、或いは、そこに自動で照準を合わせる「安全装置」が俺にも作動したなら始めから私も馬鹿な夢を観たり、自惚れてみたりはしなかったろうに、不幸にも行進が苦手だった俺にはやはり運命だろうか、ネクタイを寝ぼけていても締められる程の起用さは無かった。 二章 reptilia 今日を独りで死ぬ時、格子越しにふと青空を眺めると不意に二十歳で急逝した友達の顔が浮かぶ。あの時俺も死んでいたなら若さ故の無知や無駄に血の気のはやった叫びを言い訳にマシンガンで穴だらけになってソファを引き千切って隠していたコカインでハイになって娘を連れ去ろうと車に乗り込み調停中の妻に撃たれてそのフロントガラスのショットガンの染みが遺言になるような、そんなロマンスと刹那の折り紙の鶴のような死に方で皆の記憶にもかつて在った美しく無垢の私が生きていたのだろうけれどこの臆病者はもう三十路を過ぎてもう薄っすらと老け始めている。嘘が嘘だったと知って黙劇の道化か何かに表情は変わり感情を一切から追い払えば自然と熱は下がり奇妙な悪夢を観ることもなくなったが、なくなっていくことにすら何も思うことがないことが余りにも日曜日の青空に似ていたのは私に未だ残っていたセンチメンタリズムの残滓か何かそれに近いものに反応したのか瞼を閉じると一筋の雨が頬を伝った。いや、悲しくも苦しくも痛くも痒くもないのだ。ただ恐らくそれが本能の支配している領域に掛かっていたから、それだけなのだが、それは心が麻痺していても分かるくらいには憐れでかえって余りにも王道の悲劇の展開を歩む自分に微苦笑している私が居た。しかし、地下鉄もバスも仕事も区役所も俺の裡側に何があろうがお構い無しに定時を以って過ぎていく。人々は疲れるが街は眠らない、もう明日には値札が貼られ、今日は写真立ての中に蹲っている。今はこのウイスキーの氷と二人きり。きっと明日には俺も思い出せやしない。隣の醜女のホクロに鳥やらが自由に何処へでも飛んで行けるのと同時に奴等は羽毛の布団で眠る暖かさを知らないのをいつか、未だ、世界の果てなどないと考えていた頃に読んだのを思い出した。あの頃の自分からしたら俺はとんだ裏切り者の卑怯者になったものだ。 三章 automatic stop 孤独が付きまとう、独りの影に。 俺は私と話し、私は僕と話した。 人生は如何に過ごしても無駄にしかならない。どれだけ人に尽くそうが、どれだけ厚顔に生きようが、どれだけ迷惑をかけようが、どれだけ素晴らしい曲を書こうが無駄にしか成り得ない。生きて在るのは痛みのみ。あとのおまけには影もない。そして、満ち足りることも少ない。餓鬼のように常に飢え、修羅のように戦ってばかり蜘蛛の糸はカンダタ自ら切ったのだ。俺はその時の彼の表情を容易に想像できる。人が連なりきっともうダメだって時に彼は可笑しくて笑っているはず。自分の業に焼かれてこれから苦しむ自分を眺めて、きっと彼は笑っているはず。 Interlude 記憶の影に君を見つけて何処へも行かないように紐でここと結んだのに君は青白い嘘を置いて追いつけない速度で遠ざかっていく。もう俺に見えるのは朧げな君の囁きの残ったシーツだけ。そして一度の人生の時間の中で可能なことは限られている。しかし如何に生きようと神はそれを望んでいる。何故なら、十字架の前に傅く私が居るからだ。あゝ確かにアルコールはどの場面でも必要だ。幽かな、溶けていく蝋燭のような弾まない人生も又一興。この泉からなるべく多くの喜びを汲み取れるように時には骨を曲げなければならない。それは或る者には苦痛かもしれないが、或る者には無上の喜びになる。気の持ちよう、使い古されたアル中の常套句が小汚い路地の場末のバーのネオンに引っかかってる。 五月六日 私は完全に集中を忘れていた。そして死んだ後に現実があると思ってた。だから、いつも何処か何かがつまらなかった。そして悲しいくらいに完全なジャンキーであった。独りに散らばった虚ろなジャンキーであった。 四章 12:51 朝は数えなくても来る。伴れて酔いも解け酩酊感の抜け殻には何の感慨もなかった。つまらなくて退屈で何もしたくはなかった。つまり、俺は素面ではありふれた喜びも悲しみもなくただただ腹が減るだけであった。そんな地獄の季節の中皮膚だけが乾燥し老いていくのだけ分かった。あと何度意識を持ち何度忘れて何度繰り返すのだろう。ここに俺は厭世主義に付着したロマンスの屑みたいなものを見出し独りで笑っている。もう狂ってしまったのかも知れないし、或いは、病人になったのかも知れないがそれは今の私には極めて瑣末な問題で、今考えるべきは私の怠惰の結果に残ったこの借銭の返済だけでそれさえ払えば縊死からの許可も降りた。いくら夢を観て酔っ払っても請求書は迷わず俺の家に届いてくる訳でこの場から早く逃げないとと思ったがどうも一日煙草を吸って窓枠やらカーテンを眺めている方が落ちついたし、何より悪人は足掻くべきではないと思ったしこのまま彫刻のように死ねるのなら本望だった。そして俺の人生は詐欺の中にある。奇妙な眼鏡が購買部で法を納める。崩壊していくパリの街にジェイムスブレイクのウィルヘルムスクリームが良く似合う。痛みを分かち合いながら常に低い音階に命綱を結んで国家は繁栄か滅亡を遂げるんだけど、その夕暮れの空は同じ色でそこにひじをつく退屈な青年も同じ夢を観ている。飽き飽きとする程に。だから、俺は嘘を買い生活している。嘘の友達に、嘘の恋人に、嘘の家族に、嘘の兄弟、痛みはそこら中に有るが十字架は教会の中にしかない。通りでホームレスがいるわけだ。演説とロックスターが次のページの見開きになる時代。狂気は伝播する。果汁のように。絞りとられ、干からびて死ぬ。それなら俺は媚び諂い働きたくはなかった。誰にでもある一種の全能感がもういい大人なのに剥がれてなかったから。ここからギュスターヴエッフェルのギロチンまで飛ぶ軌跡は描けないだろう。気球にくくられたスケーターのように、だが確かに四月はまだ寒い。歩くだけでウンザリしてしまう。 お金を恵んであなたの妾に。 私は幸い時代に紛れたわ。 きっとあなた荒れてるでしょうね。 コンビニの夜中の店員として 消費されながら 爆弾を作る時間にされ その中で恐怖しながら銃を構え合ってる。 確かにエミネムの言う通り酋長は沢山居るのにインディアンが居ないって言うか、 頭がいいのは分かるけど俺は疲れる為に読書するのは厭だね。 煙管に動脈が走る。 それでもモッズコートの下は 匿名希望のハイプバンドと つまらない経済論の集会。 しかし、もうそれも酩酊の向こうに 忘れたいこと。君の言う通りにするよ。 どうか死ぬことを命じて。貴方の皮膚を貫いて核の雨から逃げてオルガンだけ持って来て。 私は貴方の過去の残像の 夏に灼けた目に住んでいる錯視。 本当は貴方の事なんて知らないの。 フランス語を勉強してるとか、 シャネルの香水をつけてるとか、 UNIQLOのレースを持っているとかは勿論、 けれど最後に赤字で綴られるクレジットは本能より悲しい。 そして名前は未だ無い つまり悪役には丁度いい出自。 失くすことから始めて夏を消してから思うのは梅雨の湿気。記憶は窓を伝う雨のようにあの丘をモザイク画に仕上げている。母の編み物の中で謝る事を失くして、錯覚に囚われて、自分をまた見失う。お前の人生に並ぶのは敗戦の写真ばかり。WGIPが俺たちを潔癖にし、妙なアクセントを移した。罪の記憶を磔にして、流れ落ちる太陽に灼かれて君のここから俺のここまで。数秒のロマンスに蕩ける背骨。もし質問してもいいのなら何年本当に愛してくれてるのか答えて欲しい。出来るならこの日の暗くならない内に。落書き帳にサインの練習。俺は電気の紐と戦っていたんだ。完全に愛情が不足している、そう五歳児でも理解出来る程に物心ついた頃から私は独りだった。 5章 you talk way too mach 君が居た。君の香りもあったし、温もりも、優しい笑顔も、その地獄に。 記憶の中で洗われて泥の混ざった夏の日差しが俺と君を分かち互いに違う道を照らす。それが正しいのか、また間違えているのかはわからないけれど太陽はまだ彼等の上にあり俺は呑気に煙草をふかしている。思い出は巡り明日の朝にまた芽生え、そして全ての嘘が剥げ落ちて今日を懐かしむ今日に陽は暮れる。ひとつなぎの憂鬱は輪廻の中で傾き歓喜の沼に浸かっている。もしまた繰り返し、目が覚めたとしても、未だ全てが売られる前の心を取り返したとしても、何物にも囚われたくないという自我が何物にも囚われたくないという執着に捕らわれて如何に自分が小さな存在かを刷り込まれ、世界を虚仮にしていた意識は一気に老い、萎み、何かわからない名前の無い巨大な何かの奴隷に成り下がり、希望はもう胡蝶の夢にしかなかった。そして息を切らせ駆け出す程の虚しさがかつて心の在った位置にトンネルのように重なってきっと明日もしくじると思っている。しかし、予定説を信じる私にはそんな青褪めるような運命も解る時に解るもので産まれたなら死ぬように矢鱈頭を抱える必要は無いように思えた。 6章 between love and hate 今日も明日も明後日も明明後日も弥明後日もきっと不毛に終始する。何を選び、誰を愛し、何処に行き、何を成そうが為すまいがきっと不毛に終始する。俺がそう思うからそうなのかも知れないし、空がこんな色だからそうなのかも知れないけれど、それもどうでもいいくらいにグラスは空っぽで誰もいない。 その陽が丁度暮れる頃私の聴覚を支配したのは何でもないたんぽぽの香りだった。 もう何もわからない果てに独り、どのくらい逃げて来たのだろう。今日が遠退く明日へ、今日が遠退く明日へ、犠牲の為の犠牲、惰性の中の忠誠、宙空の恒星、或いは、点滅の矯正。姿勢を破滅に調整。亡霊がアルコールを片手に私の机へ。私は疑うことを忘れて彼女の影を酩酊の暗黒に見た気がしてからずっと手が震えている。それは死ぬのが怖いからなのかも知れないし、素面に戻るのが怖いからなのかも知れないし、もう青空の下で健やかに生きていけないことに青褪めているからなのかも知れない。解らないけれどそれは解る時に解ればいい問題で今は兎に角この不安がどんな夜よりも暗いことに溜息をついている。頭の中の狂人はいつの間にか海馬から脳髄の奥深くへ潜り、まるでその生き方が、半日を酔い潰れて消費するその生き方が俺に許された位置にある贖罪であえて形容するなら千鳥足の聖人、或いは、ゴミ溜めの賢者が相応しいのではないかと今夜も捻れた皮肉に笑みを浮かべてグラスを傾けあの湖に身投げした満月は誰にでも解るロマンスの解の一つで俺も夢追いの中の或る独りの落伍者なのかと思えば特に予約がある訳でもなくこのまま死んでも十分償える気がした。 檻の中の七日間は秩序と退屈と安定と既視感で氾濫している。自らそれを望みそれが自分に一番の幸福だと思い時計より正確に暦を歩む人も多いが、俺は例えその檻の外が凍えるほどの日照りで先の無い割れた荊棘の道だったとしても鍵がかかっていないのなら俺はその暗闇に飛び込むだろう。何故ならそれが未だ俺の居る場所だから。文字通り五劫の擦り切れに気付ければそれでいいと思っている。そう、予定説は俺のような楽観的な厭世主義者のジャンキーには丁度良いソファでクッションが効く分いくらかマシな曲も書けるだろうし、何より古人の言うように何処に行っても死が在り、そいつが生を孕んでいるのなら虚しさの隙間の空いたロマンスすら感じる。終わり良ければ何とやら、どうやらこの唄は例外らしい、それはこれを読んでいる君が一番解るはず。そういう風にスタートしたからね。 今此処この場所こそが地獄の釜の底だと何故思わない? 7章 meet me in the bathroom 理由を突き詰めればきっとどうということのない瑣末なことなんでしょうが、私にはもうこれ以上の、進む理由も、戻る理由も、誤魔化す理由も、何もないのです。ですのでせめて昔の私をこれ以上失望させ続けるのも気の毒ですからこの辺りで終わりにしたいと思います。
room on ruin ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1362.7
お気に入り数: 0
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ポイント数 : 1
作成日時 2019-03-09
コメント日時 2019-04-08
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 1 | 1 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 1 | 1 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
enokizさんの好きなラッパーを知りたくなってきました。 当初より、着々とレベルが上がっているように感じています。僕はヒップホップファンのしがない一人でしかないのですが、トラック次第でもっと惹き込んでもらえるような期待も湧いてきました。
0コメントありがとうございます。私はほぼヒップホップは聴かないのでヒップホップ的な印象を受けてもらえて驚いてます。ただエミネムだけは世代なので一応全部聴いてます。これからもっとめちゃくちゃで下手クソな詩を書いてこんな奴でも書いてるんだって皆んなが思って誰でも詩を書くようになったら楽しいだろうなーって思ってます。
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