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コこロさん
いったいいつどんな経緯からだったのかはもう定かではないが やり取りを重ねるごとに彼女から届くお手紙の文面は日増しに このわたしを求めているのだという一途さで熱くなっていった メールやLINEで互いに軽口を交わしあった季節が遠ざかりゆく もちろんこのわたしも彼女を求めていることは疑わないのだが 実際のところどんなお顔をした方なのかさえいまだわからない そんな一人の人についてさまざまに想いながら椅子に背を預け ハッとすると同時に視線の先に毎度涎まみれの一本の万年筆が まあ落ち着け 彼女から届く手紙はとりたててなにか深い事柄を綴るのでなく 日常の些事をあれこれしたためるだけのものに過ぎないのだが しかし最後に必ずひとつだけ三択形式の質問が設けられている なにゆえこんなものを書き連ねるのかはよくわからないものの いつしかわたしはこんな仕掛けを行う彼女という人間に確かに 興を乗せられていることを愉しいと感じている自分に驚くのだ 拝啓~様から御元気ですか?といった通り一変の定型に始まり やがて季節や世事の話題に移りそして最近買った衣服や小物類 インストールしたばかりのアプリやゲームに音楽や映画や旅行 現在の髪形はこんなですにセール品の口紅が今お気に入りだよ では一つ○を付けお送り下さいね楽しみにしておりますとくる 1 会いたい 2 会いたくない 3 答えない そして草々により終える手紙はこれが丁度十通目となるのだが 初めて届けられた一通目から三通目までの質問は素直で可愛く 好きな動物や食べ物やスポーツに苦手な動物や食べ物や芸能人 四通目から八通目までは将来の夢や理想のタイプに信条や悩み 四季を一巡りするかしないかという頃合いから文面にはついに 結婚の文字を認めどどどどどどどど重低音がしばらく収まらず ハッとすると同時に視線の先に涎まみれの開いた一枚の封筒が ふう落ち着け 深く閉じていた瞼をようやく開け椅子からゆっくり立ち上がる そのまま背伸びを繰り返し全身がほぐれて頭をリセットしつつ シャワールームに向かい行者のごとく熱湯を浴びせかけながら 仄かに紅の色に染まり続ける焼き上げ最中の肉の火照り具合に 内側にみなぎる意思を迂回し抗うことなど到底不可能だと悟る そして股の間にある自身の性器にわたしは手を掛け持ち上げる 天上を見つめ両の掌をぐりぐりと捏ね回しては意識は底を這い 荒くなる息遣いと同時に双頭の大蛇が口を裂いてはうねりだし ギャアアアアアアア! 瞬間に金切り声がシャワールームを塵と化して光に投げ出され 全身の感覚はなくただ規則正しい鼓動が地を淡々と打つばかり ダダイジョウブデスカ? 気がつくと微かに誰かの呼び掛ける声が耳元にずっと木霊して ハッとすると同時に視線の先に無数形式の質問を綴った手紙が 1 アイしてる 2 あいシテル 3 愛シテル 4 あイしてル 5 アいシてル 6 愛死手流 ・ ・ ・ ・ ・
コこロさん ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1005.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-10-09
コメント日時 2018-10-13
項目 | 全期間(2024/12/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
まず「まあ落ち着け」に笑ってしまいました。こういう境遇に陥った男性が、真っ先に自分に言い聞かせなければならないことはこれでしょう。詩作品は三択をいつも迫る「彼女という人間」の謎に迫っていく。とても興味深い展開です。ですが、シャワールームに行って以降がちょっと僕には読み取りづらかったです。最後、彼女が不意に現れたのか、それとも「彼女という人間」が自分の中の妄想だと気づく流れだったのか。何れにしても、個人的な贅沢かもしれませんが「彼女という人間」の本質に迫り、その姿を謎解きする、というところへ行って欲しかったです。謎解きされているのかな? だとしたら失礼を。
0stereotype2085さん そうですね、シャワールームが唐突でしたかね。当初はかなりあっさりと言いますか、キャアアアア・・・・で終えるだけのものでしたが、もう少し作り込みをという、そうした目的からでした。 とくに謎解きについてなにかをというものでもありません。主題自体がかなり単純なものかと。しかし像の把握し難さはたしかに今一度一考すべきかもしれません。 ありがとうございました。
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