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泥の月
水面の月を一掬い 啜ると泥の味がした こいつは幻想で幾ら美しくても 血は通っていない偽物だ 僕らは二十歳の頃どぶ鼠だった 灰ねず色の作業着で這いずり回り 朝も昼もなく溺れるように 仕掛けられ 最後は遠心分離機にかけられて 心身が別たれ工場に棲んでる どぶ鼠にされた あいつも どぶ鼠の一匹で とにかく何処でも歌っていた 車の中や薄暗い倉庫の奥 真夜中の駐車場や食堂の片隅で 水面に映る月みたいに 儚く美しく生きたい なんて、叫んでいた 僕がどぶ鼠の皮を脱ぎ 脱走してからも あいつはあの工場を這いずり 朝陽に溺れて歌っていたらしい 二年ほどして訃報が届いた 僕はあいつと友達だったのか 葬式にも行かず香典も包まず あいつが叫んだ歌手の名も 思い出せない 違ったのだろう軽蔑すらしていた 偽物に憧れていたあいつを 水面の月を啜り泥の味を覚え 水面の月を叩き割り僕も偽物で この泥の月を描きたいと 感じたとき、初めてあいつと 通じたのかもしれない 偶に僕はあいつの抜け皮を被る
泥の月 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1361.2
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-09-02
コメント日時 2018-10-05
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
どぶ鼠という比喩が典型的で微妙だが、月のくだりはいいかんじ
0労働と浮かばれない人生が悲しくも描かれている。美しい表現で時折、作中で描かれているだろう「実態」がコーティングされているのは、試みとしても面白いと思いました。
0渡辺八畳@祝儀敷 さま 鼠という比喩は確かには手垢がついたものですね。伝わりやすいが詩としての印象が安くなってしまいますか。しかもブルーハーツの曲が頭から離れない 笑 ロボットにしたり、ゾンビにしたり、しっくりせず安易なイメージにすがったわけです。月のくだりは自分でも気に入っています。ありがとうございました。
0stereotype2085 さま 自分にとって当時の経験は生き地獄でした。ぼくは生々しさや剥き出しの感情を描くのがどうも苦手で、こういう描き方しかできません。そういう意味では作品の密度は薄いのか、と他の方々の作品を見ながら感じています。面白い、と感じていただける部分があったようで嬉しく思います。ありがとうございました。
0自分が軽んじていたひとが、もしかしたら生のどの場面にも通じる何かを体現していたと、 思うとき。 時を経てもう一度そのときに出逢う。 相手は過去の姿のままで、周囲の誰よりも身近に、現在の自分に存在してくれる。 偽物、と言うことばは強すぎて、詩の言葉としては苦手ですが、 人間を偽物と本物に峻別する友人が過去にいたための個人的トラウマかも。 >水面の月を啜り泥の味を覚え >水面の月を叩き割り僕も偽物で >この泥の月を描きたいと 「描く」という生き方が、こういう再会を豊かにもたらすことを思いました。
0fiorinaさま ありがとうございます。これは二十年の月日を経て、詩という形で向き合えたことがらです。詩としては技巧も何もない、と思いますが捨てがたい詩であります。偽物、自分が決して本物になれないという思いが強いのは、もしかしたらこの出来事に根っこがあるのかもしれません。
0拝見しました。 主人公は「どぶ鼠」で、工場の作業員などの労働者として働かされる様が物悲しいです。私が最も面白いと感じたのは最後の締めの部分「偶に僕はあいつの抜け皮を被る」です。僕の自分自身からの逃避だけではなく、軽蔑すらしていた、そして亡くなった「あいつ」の抜け殻を被って主人公はいったいどんな面持ちであるのか。それはこの一文以外に表現できないものだと感じます。
1ふじりゅうさま コメントありがとうございます。 最後の一文、すごく悩みました。ある種のあざとさにもみえて偽善的でなかろうか?という葛藤した一文です。でもこれを入れなければ、自分にとってこの詩を描いた意味がわからなくなるとも言えました。そこに注目していただいたことを嬉しく思います。
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