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小さな星の孤独な王
やぁ久しぶりだね。何をそんなに驚いているんだい。言っただろう、僕はもと居た星に戻るんだって。君だって言っていたじゃないか、象を飲み込むボアの事を。君は言ったよね、ボアは獲物を噛まずに丸ごと飲み込みます。すると自分ももう動けなくなり、6か月の間眠って獲物を消化していきます。君は僕の後を追い、僕の姿を見つけることが出来なかったようだけど。僕はボアのお腹の中に居たのさ。ボアは動けないから、砂漠の砂に埋もれていて見つけられなかったんだ。それで僕は6か月間ボアの腹の中を旅していたんだよ。 え?今なんて言った?は?ありえないだって! ねぇ君。君は本当に僕が知っている君だよね。26年前、砂漠に不時着した君なのかい。あぁよかった。間違ってはいなかったんだね。それじゃきっと今の言葉は僕の聞き間違いだろう。僕と絆を結んだ地球のパイロットは想像力豊かで冒険心に満ちていたんだから。 それで、僕はボアの腹の中を旅していたのさ。色々な人が居て面白かったなぁ。 まず初めに会った人は、青い顔をしてひたすら謝っている人さ。 「すいません。誠に申し訳御座いません。今後二度と無いよう注意致します」 あんまりにも必死だったから何をそんなに謝っているのか聞いたら本人にも分かってないみたいなんだ。笑えるだろ。何も分からずに謝っているのさ。それどころか誰に対しての謝罪なのかも、いつまで謝り続けるのかも分かっていなかった。彼曰く、彼の周りにはそんな人が大勢居たそうだ。全く異常な事だと思うね。僕は一つだけアドバイスしたよ。 「ごめんなさいの代わりにありがとう言うはどうだろう、その方が気分が良くないかい」 「有難うございます。感謝しております。今後とも何卒宜しくお願い致します」 彼は感謝の言葉を繰り返した。でも謝罪の言葉を言っている時同様顔は真っ青だったよ。そして僕も彼も気分は良くならなかった。彼の言葉には気持ちが全く込められていないんだ。繰り返しの中、彼はもう感情を失ってしまったらしい。 次に会ったのはとても太った顔がぶつぶつの人さ。 「頑張らないとなぁ」と言いながら彼はずっと本を読んでいた。彼は人が作ったものが好きでしょうがないようだったし、それが嫌いでしかたないようにも思えた。一日中、同じ場所に居て、人が作ったものを眺め、人が作った物を食べ、人が書いた本を読み、人が考えた事に対してずっと文句を言っていた。まるで彼は自分が世界で一番賢くて、冷静で、優れているかのようだったんだ。それでいながら自己卑下を繰りかえした。 「俺はなんてだめな人間なんだぁ。生きていても意味なんかないなぁ」 「じゃあ努力しようよ、人の為になる事をするんだよ!」 「けど、でも、だってそんな事は全然意味が無いんだ。ある哲学者は、ある心理学者は、ある文豪は言っていた…」 僕はもう全然意味が分からなくなって逃げ出してしまったんだ。 色んな人に会ったけど、出口の近くであった人が一番印象深かったかな。 彼は僕や君ととてもよく似ていたよ。とても想像力があったんだ。それはもう言葉では言い表す事が出来ないような素晴らしい絵がボアのお腹の中に書いてあって、それは彼が書いたらしい。あんな上手な絵は今まで見たことが無い。だから僕は彼にお願いしたんだ、絵を描いてくれないかって。 「絵を描けだって?絵なんか描いても仕方がない、だって俺はこんなに下手なんだ!」 「なにを言ってるんだい、君はこんなにも上手じゃないか」 「いや俺は下手だ、あぁ絵なんて大嫌いだ。絵なんか描いてたって生きていけない。俺よりも上手なヤツらが何人も居る。みんな死んでしまえ。あぁ、誰か俺を認めてくれ」 「僕は君を認めるよ、君には才能がある」 「才能!確かに俺には才能が有るかもな、だけどお前に認めてもらってもしようがない。死にたい、死んで楽になりたいよ」 そう、彼らは皆死にたがっていた。彼らの首にはロープが結ばれていた。でもそれをどこかに吊るすことは絶対にしなかったんだ。 そしてボアのお腹の中の旅を終え、自分の星へと戻ったんだ。 ねぇ君、僕はこれから悲しい話をしなくちゃならない。笑える事は一つも無い。だけど語らなければならないんだ。とても大切な事だから。 人は誰しも大切な一輪の花を持っている、という話は前にしたよね。僕の星にも僕にとってとても大切な薔薇がある事を。その薔薇は意地悪だったけど、とても綺麗で優しかったんだ。彼女の為に何だってした。けどね、僕が長い旅から帰ると彼女は枯れてしまっていた!僕の宇宙で一番大好きで大切な人が居なくなってしまったんだ。 僕は宇宙で一番大切な人の干からびた体を抱き、夕焼けに向かって歩き続けた。星は何もかも変わっていた。バオバブの木が全てを覆い尽くしていたんだ。火山は埋もれていたし、羊はどこにも見当たらなかった。樹海の中、全てが意味を失っていた。 でもね、僕はきっとまた一輪の花が咲き、このひび割れた星を素晴らしい物に戻してくれると信じている。 そうだ、絵を描いておくれよ。きっと君なら、素晴らしい花を描ける。だって君はあんな凄い羊の絵を描いたんだから。いいのかい?有難う。最近ね、君と砂漠で過ごした日々を良く思い出すんだ。楽しかったなぁ。あの頃僕はすぐ泣いて、すぐ怒って君を困らせたね。お互い見た目は変わってしまった。でも、変わらないモノもある。それは心さ。 もう描けたのかい?流石だね! え、なんだいこれ。 君。これはふざけて書いたのかい。僕を笑わせようと思って、ふざけて描いたんだろ。それとも羊の絵みたいに、何度も描きなおして良いものを作り上げるのかい?それじゃもったいぶらず早く次の絵を描け!なんだこれ。ふざけるなよ!こんなものは、こんなものは絵じゃない。ただそこにあるものをそのまま描いただけだ! デッサンだって?そんなもの知るか。はやく描きなおしてくれ。お願いだから、想像力豊かなあの頃の君を見せてくれよ. え、もう行く時間だって。どこに。仕事?なんだ仕事って。パイロットかい?違う?サラリーマン?なんだそれ。あんなつまらない大人にだけはなるもんかって言ってたじゃないか。決まった時間に起きて、決まった場所で、決まった仕事をして、ただ生きるために生きる。おい、君は馬鹿なのかよ! あぁ、すぐそうやって論点をずらす所もいかにもつまらない大人だね。確かに僕は働いていないし、君のしょうもない価値観で一杯の社会とやらに何の貢献もしていないだろう。だけど社それに何の意味がある。 僕たちはこの優れた想像力をもって生きて行くと決めたじゃないか。つまらない大人になんかなるもんかって。だから僕は何にも成らなかった。それなのに君はどうだ、あぁ、信じられない… 空が白んできたね。君の世界でも夜が明けるんだろう。最後に教えておいてあげるよ。いいかい、君は大人に成ってからもう何度もここへ来ているんだ。覚えていないだろう。ファンタジーによる現実の超克の果てに何が有るか、それは君が見た無味乾燥な砂漠だ。君も時がもたらす無慈悲な老化と諦念による迎合の中で生きてきたんだろう。追憶のファンタジーは悪夢でしかない。夢を見て目が覚めれば忘れる。君は何度そんな夜を繰り返しただろう。そして何度僕を失望させたことだろうか。全部意味が無かったんだ。幼い頃の体験は何もかも無意味だった。 正直に言おう。僕はもう箱の中に羊が居ない事を知っている。あれはただの絵だ。君が夢見た輝く星はもう存在しない。バオバブが星を貫き、薔薇は枯れ、君も去った。僕は小さな星の孤独な王。大切なものは目に見えない。だけど、目を瞑っても何も浮かんでこないんだ。大切なものは全て失われてしまった。 君が目を瞑るとき、心に浮かぶ光景はあるかい?もしあるならば、それを大切にすると良い。 でもきっと、それは僕の姿じゃないんだろうね。
小さな星の孤独な王 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 963.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-04-13
コメント日時 2017-05-07
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
本サイト投稿用に短くしたバージョンですが、長すぎるようでしたら削除下さい。
0星屑たちが思い出すキミの価値観 謝ってしまえサラリーマン! 本当の姿を隠せ 隠せ 砂漠の熱風が思い出すキミの失望 寝ぼけて遅刻の心理学者! 本当の姿を騙れ 騙れ エイリアンの憂鬱と僕は ココロのナントカがわかるのだ 黙れない星 正直な孤独のエイリアン ジョバンニさん毎度、投稿有難う御座います。 これは、『小さな星の孤独な王』に影響された 共感詩です。 失礼しました。
0「星の王子様」の切ない後日談という形をとりながら、新たな物語を紡ぎ出すことに成功していると思います。「お化けのQ太郎」や「がきデカ」のこまわり君が大人になった後日談を読んだことがありますが、どれも切ないものでした。夢の中で何度も再会しているのに、「ぼく」はそれすら忘れてしまっている。どんな物語にも続きがあるけれど、それは知らない方が良いことの方が多い気がします。
0特に日本国だと、星の王子様のようイマジネーションを殺さずに夢のままで生きることは難しいのだろう。 誰だって、この詩の王子様の言うことに少なからず頷いてしまうし、なんなら彼と同じ志を持っていた。 んでもさぁ、そうもいかないよね、ほんと、この形而下世界で生きていくにはさ。 「ファンタジーによる現実の超克」をあえて殺して生活を営む。誰しもに共通する哀しさだが、それ故にこの詩はフィクションで留まらず読者の内側に入り込んで、パーソナルな問題と変化して、そして刺殺してくる。 冷静に読めないな。客観視して読めない。
0二次創作、という「創作」の力強さを、改めて感じました。 滑るように流れて行く文体の心地よさが魅力のひとつであるだけに・・・「ありがとう言うはどうだろう」これ、あってますか?舌足らずの、もどかしい感じ、を表明しようとしたのなら、全体にもっと気を配ってほしいな、と思いつつ・・・ 後日談を楽しんでいたら、最後に鋭く、現実に投げ返される、突きつけられる。圧殺されようとしている「童心」の、ニヒルな告白のように感じました。
0星の王子様読んだ事ないので、そこらへんの事はよくわからないのですが、読んでいて、分かる話だという感じはしました。ぼくも詩というか、物を何年か書いてきてここに描かれているような人間みたいな感じだし、今でもそう思いながら生きている感じがします。 才能というのも多分色々あるんだと思います。それは沢山あると思うんですが、ここには総じて中途半端な才能みたいな物で苦しんでいる人たちみたいな物を感じます。自分が中途半端な才能しか思っていない、という自覚、でも他人から見ればその才能は意外と稀有な物だったりするけれども、しかし他人の中でも同業者から見れば大した才能なんかじゃなく、その程度の人間なんかゴロゴロいるみたいな感じでしょうかね。 この話を例えばネット空間に広げて考えてみたとき、多分自分と同じ立ち位置の人間っていうのは思うよりも沢山いて、そこから上にいけども同じステージに立つ人間というのは絶対にいる。そこに年齢みたいな軸を加えると、才能の差や機会みたいな物がより残酷になっていくし、、、 みたいな事を思いました。例え話、としては読んでて面白いというよりはなんとか読めたという感じがします。佐藤秀峰の『描くえもん』とか、なんだろう、こういう状況、みたいなものにぶち当たる話みたいなのは多分今の世の中には沢山あって、それらに比べると弱い、という感じがします。これはこの詩の中の語り手にとっては、多分一番聞きたくない話だと思うのですけれども。何がいいたいのかというと、この先、もしくはこの先のどん底をもっと読みたいという感じです。よくも悪くも愚痴で終わってしまっていると思います。
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