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八月の檻
沛然たる雨のなか 透明なビニール傘をさして歩く 濡れそぼつカンナは巫女のようで 美しく舞いながら静止している 家族という檻に帰る 部屋は冷房がよく効いていて 冷たいソファーに体を投げだす 瞳を閉じて夏の白昼夢に沈んでいく 夢のなか わたしは半透明の麒麟であった 角で夜を切り裂きながら飛翔し 泰山木の花を食べた わたしは四谷シモンの人形であった 星の降る桟橋に倒れこみ 幻想行きの船を待った わたしは月を狩る巨人であった 天体の皮膚を愛でながら憎み 衝動のまま破壊した わたしはキュビスムの絵画であった 分解と再構成を繰り返し 万華鏡のように人を酔わせた わたしは退嬰的な人魚であった 海が怖くて死にたがり 地下のプールで恋人を待っていた フロイトはもうフロイトであることをやめた 嘘の世界でも真実は渦を巻いている だけど 時が止まったまま誰も死なない世界では何ひとつ犠牲にすることができない それはもはや生命として美しくない 美しくないのだと思うと泪がこぼれた ああやはりここも檻であったのか 覚醒 うまく歌えない人生にハローアゲイン 時の血管には透明な血が流れ続ける 買い忘れたものを思いだし わたしは再び外に出る 沛然たる雨のなか 透明なビニール傘をさして歩く 濡れそぼつカンナは巫女のようで 美しく舞いながら静止している わたしは何にもたとえられず 入れ子構造の檻のなか 不安を溶かして負暗を舐めて 嘘を愛して生きてゆくのだ ただ出来ることならば 花よりも花らしく 鳥よりも鳥らしく 風よりも風らしく 月よりも月らしく
八月の檻 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1031.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-08-07
コメント日時 2018-09-07
項目 | 全期間(2024/12/27現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
新しいことを言わなくても、ぐっと心がとらわれる作品の魅力たるや個人的な事情ですがとても好きです。 シンプルな「檻」の構造を踏襲しているので解読しやすいのが良い方向に働いていて、 それでいて言葉のセンスが澄んでいるように感じるのは、 このために調べました感のない、ごくごく自然なふるまいで僕にはない言葉がまとまっているからだなと思いました。 ありがとうございます。
0「わたしは〇〇であった」の繰り返しで「わたし」が浮き彫りにされていく手法。とても良いと感じました。「フロイトはフロイトであることをやめた」など印象的なフレーズも多く、綺麗に最終連につながっていると思います。
0こんな夢をみたで始まる夢十夜のような、しかも読んでて飽きない言葉選びが流石です。どうでもいいですがフロイトは先日、授業で習いました。時折顔を覗かせる作者様の死生観、といいますか、死んだ人間は星になる、だのありがちな表現でなく、死がない世界=美しくない世界=檻という表現、凄く好きです。文力なくてすみませんm(*_ _)m
0かるべまさひろ様 読んでくださりありがとうございます。 この作品は比較的肩の力を抜いてリラックスして書けました。それが良い方向にはたらいたのか、かるべさまに好きだ、といってもらえてとても嬉しいし、光栄です。 シンプルな構成であまり奇を衒わない方が良いのかも知れないですね。 コメントくださり感謝です。
0stereotype2085様 読んでくださりありがとうございます。 印象的なフレーズがあった、という感想は素直に嬉しいです。フロイトも「無意識」という言葉も苦手なわたしです。(便利すぎる言葉なので) コメントくださり感謝です。
0なつめ様 読んでくださりありがとうございます。 さすがに夢十夜は意識しました。(夢十夜は面白いですからね) 比べものにはなりませんが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。 最後の4行は横書きなのをいかして「花鳥風月」を縦に2列ならべて遊びました。(勿論しめくくりに相応しい思想とリズムありきですが) コメントくださり感謝です。
0こんにちは。《覚醒》ではじまる連で終わってもいいように思いました。第一連の《透明なビニール傘》のなかにある《カンナ》を神話的に捉える目は良いな、と思いますが、後半に使われた時は、その効果がすでに薄れているように感じます。
0藤一紀さま 読んでくださりありがとうございます。 カンナを神話的に捉える目をお褒めいただき恐縮です。 「覚醒」ではじまる連で終わる発想はまるでなく、目から鱗の思いです。それでも作品は成り立ち、以下は蛇足なのかもしれません。 ただ、これは「檻」がテーマなので、ふたたび「雨の格子」を登場させて、「どこまでいっても『檻』だけどそのなかで前向きに生きたい」という思想を明示したかったのでこのような構成、締めかたになりました。 感じかたは人それぞれで、これが正解というものはないということをわたしはここのコメ欄で学習しました。 藤さまの意見も面白く、参考にしたいと思います。 コメントくださり本当に感謝です。
0「檻に帰る」という冷たい響きの帰宅後に、夢の中を縦横無尽に駆け巡る様が本当に夢心地のようであったのに、「ここも檻であったのか」と気付くところに、言い得ぬ虚しさや真実の乾き具合を感じました。「覚醒」後、前述と同じ節が繰り返される中でも、「嘘を愛して生きてゆくのだ」といった覚悟を、「出来ることならば 花よりも花らしく〜」と「らしく」と連ねることで、透き通った可愛らしいような、愛しいような響きになっている言葉がとても心地良く、檻という無機質な全体の雰囲気に柔らかさが添えられているように思い、好きだなぁと思いました。
0紺さま 読んでくださりありがとうございます。 そうですね。 夢はいとおしいものですが、夢にしがみついて生きてゆくことは出来ないと考えています。 最終連までの表現を好きだと言ってもらえてとても嬉しいです。 コメントくださり本当に感謝です。
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