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ふたりぼっちの禁断の惑星
ねえ。 闇につぶされた街がみえるよ。 ネオン街育ちのきみと地元の夜。ぼくたちはバスにコトコト揺られながら息を吐いた。故郷が近づくたびに胸の透き間へと二人分の鍵をかけてゆく。それから、重たい、といって力なく微笑みを交わした。 きみはやさしい、きみはいい子。 闇のなかでぼくたちは産まれた。おかあさんと出会う前にぼくはきみと出会っていた。おかあさんはまんまるなお腹のなかの宇宙を半分ずつ食べたかったのだろうか、そう思うくらい“おかあさん”は生まれたてのぼくときみを二分化させて育てた。 きみはおかあさんに捨てられることで食べられたの、ぼくは育てられることで、いつかおかあさんに食べられてしまうの? ────わからない。 ただ、きみの泣き顔はいつでもおかあさんのものだった。きみは真っ白な部屋で素肌をさらして死ぬように喘ぎながら、ぼくをみつめてわらった。 ────きみの熟れた瞳。 大粒の泪がデラウエアのようだな、そう思った。きみの頬にくちびるを押しあてるとくすぐったそうにわらった。わらいながらも泪が溢れるものだから、ぼくはみじかい舌のさきできみの頰の泪の跡を下から順になぞっていった。真剣そうにきみはわらう。きみの瞳にぼくが映る。そのなかのぼくはまるできみのような顔をしている。 二つの瞳のなかで二人ぼっちでいる 二つの瞳のそとで二人ぼっちになる ────奇蹟。 きみの割れ目に舌を伸ばすと舌がでてきた。ぼくの腕をきみはつかんだ。ぼくは折れそうなきみの身体を抱きしめて、壁からソッときみを引き剥がした。 きみはいい子。 ぼくもちいさく喘いだ。 おんなの人はおかあさんになれないよ、でも、おとこの人はおとうさんになろうとするの、きみはいう。 (ㅤ身体をㅤ)創造された。 (ㅤ裸をㅤ)想像されてしまう。 (ㅤ父と母に(ㅤ母と)(父にㅤ) あの頃、きみを抱きしめるたびにぼくの鼓動はポトポトと溶けながら壊れてゆきそうだった。それから喪くした部品を集めるように、いままでずっと、きみを探していたものだ。 「ㅤお葬式はやさしいㅤ」 ────おかあさん──── “おかあさん”という名前の人が箱のなかで眠っている。何人ものおとこの人がぼくたちのおとうさんのようにみえる。式場をでて、ぼくたちはしばらく黙っていた。きみの手首に指先でふれると、ぼくの指をやさしく両手で包んでくれた。 きみはやさしい、きみはいい子。 二人分の宇宙に、この惑星を納めようよ。いつでも胸のなかから真実は産まれてくるんだ。流れ星をくちに含むように身体の奥を光りで満たし、ふたりぼっちでいって、いってしまおうよ。 ぼくたちは家のなかで地球になった。まなざしを重ねあい、きみの瞳をぼくは何度もみつめてしまう。泣きそうになる。泣き虫の鼓動が肌に直接響いてくる。 ぼくたちは抱きあうたびに幼心の海へと帰る。光りのなかで互いの闇をみつめるように舌を伸ばして沈んでゆく。 ────絡まるような青さだよ。 真実の実りはいつでも青いものさ。ぼくたちのあやまちは熟していない。誰かがくちをすぼめて近づいたとしても、僅かに硬くて食べられない、ちいさなちいさな禁断の果実のようなものだよ。 きみは穢れてなどいない。 きみは美しい、きみはいい子。
ふたりぼっちの禁断の惑星 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1089.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-08-01
コメント日時 2018-08-05
項目 | 全期間(2024/12/27現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
+ 前回の投稿作、最後まで。エイクピアさま、仲程さまより、ご感想をいただきました。この場を借りて、感謝の言葉を申しあげます。筆名を変更したのは本名に近い名前で再始動してゆきたいという意向によるものです。かつて、わたしは衝動と錯乱の狭間で荒ぶっていましたが、現在、精神的な落ち着きを取り戻しはじめています。では、これからもよろしくお願いいたします。 東川原奇異
0ライトコメントですが、タイトルの「禁断の」が効いていて、どこか悲しくなります。
0かるべまさひろさま ご感想、どうもありがとうございます。かるべさまのご感想は的確であり、最後まで、誠にお世話になりました。私事ですが、本日、父に「みんな(?)お前のことを怖がっている」ときかされたものでして、なにやら、この場所に居続けることも、あまり居心地よく思われないのではないのか、と考え、本日より、インターネットでの活動を休止させることにします。長らくお世話になりました。身を持って退散いたします。なお、のちにビーレビューのパスワードを紛失させます。では、本当にありがとうございました。 るび
0「きみはやさしい子 きみはいい子」というフレーズに残酷なまでの拘束力を感じました。しかし読み進めての最後の一節「きみは穢れていない きみは美しい きみはいい子」には開放的な救いを感じました。良作だと思います。けれどもこの場を去るとの意向。残念に思います。
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