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輪郭は滲むけれど
狭い浴槽に収まるように 卵のかたちに身体をまるめ こぽこぽと泡を吐きながら 浮遊する 浮遊する ああ、くやしい 肺呼吸をおこなうほかに 生きる術を与えられていないことが くやしい、なあ。 こぽこぽと泡を吐きながら このままねむってしまいたいなあ と ぼんやりと、おもって だけれどやっぱり息苦しくて ぷはぁ、と顔を上げてしまうの ばかみたいね いや、ばかだね ばかばかしくてしあわせなんだよ 多分 いつかそちらの世界に 還る日のことを想って 口角をうすく上げている ぼくが今、ここにいる
輪郭は滲むけれど ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 955.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-04-06
コメント日時 2017-05-04
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
語り手は浴槽の中で丸まって浮かんでいる。母の胎内で羊水に浮かんでいた頃、あるいは生物がまだ海の中だけで暮らしていた時代を懐かしむように。人がこういうことをする時は精神的に落ち込んでいる場合が多いのだが、語り手は多分しあわせなんだと言う。それは、いつか「そちらの世界」へ還ることができると信じているからだ。それは、ほとんど宗教的な確信なのかも知れない。その日を想い、小さく笑いながら、ばかばかしい幸せの中で語り手は確かに生きている。 「浮遊する」の繰り返しは、個人的に蛇足に思える。だが、それ以外は表現に無駄がなく、読み手の共感を無理なく引き出す上手い詩だと感じた。
0お風呂の詩。生きるということについての詩。生命の活躍へ向けた詩。読んでいてそんな風に感じました。「ぼくが今、ここにいる」 という事実へ帰り、そしてまだ、自分の世界へ向けて、最終的な結論(死)までの、迷路の中で、強くあれるかもしれない、というような、 決心、信心を、感じます。 >ばかみたいね いや、ばかだね >ばかばかしくてしあわせなんだよ 多分 こうやって流れていく思索は、後ろ向きなのか前向きなのかわからないという点で、「輪郭」ということにも合わせ、なかなか 手ごわい(いい意味と悪い意味の両方で)感じを受けます。 全体的に、穏やかな気持ちで読める、温かさを感じました。そして、その温かさこそ、何よりも大事であることの一つである のだと、僕は思いますし、そういうテーマと描き方をしていても、それが自然に言葉にされるということが、作品を受け取りやすい ものへ変える心の温かさと同じものだろうなと、感じました。
0等身大の言葉で、実況中継のように書かれている、のに・・・意表を突くフレーズ(それだけ、新鮮な驚きをもたらす)ものが次々に、それも自然な形で現れる。天性の感覚かな、と思いました。たとえば・・・ 浴槽、身を丸める、となれば、当然胎児を予想するわけですが、そこからちょっとずらして「卵のかたち」。胎児という生々しさが、画家の卵、作家の卵、というような、比喩的に用いられる用法とリンクし、同時にオーヴァルの美しい形(輪郭)が想起される。 「肺呼吸をおこなうほかに」水中で息をしたい・・・魚、あるいは人魚を連想しつつ、息をする、呼吸する、ではなく、「肺呼吸」という理科の教科書に出て来るような言葉が面白い。地上に両生類が現れた時期の絵(理科の図録とか)を連想しました。 「ばかばかしくてしあわせなんだよ」苦しいはずなのに、その苦しさによって、生きている、ということを、確かめているような、どこか陶酔境にあるような感覚か、と思いきや、「いつかそちらの世界に」あれ、生と死の間に選があるとすれば、語り手は浴槽に浮びながら、死の側に近い自分を想定していたのか、という驚き。 生き生きと社会生活を行っている状態を「生」、心身を弛緩させ、精神的に無の境地(安息の状態でもある)に漂っている状態を「死(に限りなく近い状態)」とするなら、浴槽の中で、完璧な輪郭(楕円形)を保っている状態こそが「死(という幸福な安息)」に近い状態、なのかな、そこから手足を伸ばし、躰をのばして「輪郭」を崩していく、のが、「生」ということなのかな、と思いました・・・とはいいつつも、題名は、輪郭は滲むけれど・・・滲むもの・・・ぼやけたり拡散したりしていくものであって・・・崩れたり、途切れたりするもの、ではないんだよなあ・・・と、つぶやきばかりが増えていく、意外さや予想外の感じに沢山出会える作品でした。
0たいへんレスポンスが遅くすみません。 コメント、ありがとうございます。 生きているという実感について、書いてみたつもりです。 生まれる前の記憶と、命が尽きたあとのことの両方に想いを馳せつつ、このひとは今生きています。 そういう意味で、胎児のかたち、海、生と死、などに触れたコメントをいただけて、まずは成功、というところです。嬉しいです。 ・浮遊する の繰り返しについて 蛇足と言われれば蛇足にもみえてくる。のですが、声に出して読んだ時に、繰り返しがあるほうが気持ちいいんだよなあ、というわたしの感覚。難しい。 ・今までと変えてきた、ということについて 過去2作が比較的に語り手の外に視線が向いていた。本作は語り手の内側に視線が向いている。というところかなあ、と個人的には。 あまり意図して作風を変えるということは、していないですねえ。
0なるほどなぁ…という感じがしますね。これはレスを読んでいて、大体の感想が自分と相違ないという所からくる感じだと思うんですが、そういう意味で本作は多分読み手側がそれなりに似た解釈を感受出来るという点において、力のある作だと思いました。 大体の感想は上に出尽くしているような気がしますので、これ以上突っ込んで読むのは少し野暮だろうという感じがします。個人的に気になるのは主題の輪郭の所かなぁ、これはまりもさんの読みを読んで、なるほどと思ったのですが、浴槽に収まる自分や透明な卵の中にいる自分みたいなもの、人間や魚の卵っていうのは基本透明なんだとおもいますし、それから肺呼吸に繋げて口から出る泡や、口角そのものにもつながってくる、という軸に確かになってるなという気づきが芽生えた瞬間に面白く読めてきました。
0巧いです。単に、言葉を分解したり意味合いをずらしたりを過剰にこれでもかこれでもかと繰り返しているのでは、ない。作者の本能的なものを感じます。詩です。 「そちらの世界」は死の世界なのかも知れないのに、おかしな恐怖感を煽らないところもまた巧いなと。私的に、4月に読んで来た中で一番さり気ない才能を思いました。
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