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うそのはなし
ひとり部屋で作業しているとき 僕がいなきゃきっと誰かが そのうち切ってしまうシェードランプの ことを考え そうか僕のためにある光なのか あれスイッチをいれたのは僕自身だったか で なんとなく光を使っていること この後であの やたら明るい夜道を歩くこと 知らない窓の向こう側にある光が 変に懐かしく見えてたこと そういうことを思い浮かべる (そういえばあちこちに光が蔓延して 夜景とかはちょっとした皮膚病っぽくて) でもやっぱきれいだよね そうじゃなくてきれいだよね 僕は光になりたくて どうぞ僕を使ってくださいと思うけど 受けとめる方しかできないし 見ていてもなんにもできないので 手の届かないチラチラしてるような光が好きだから 僕の眼のなかにそれを宿していたいとは思います 電車の中で男女が談笑している。 女「そういえばさー聞いてよ、こんなん言われたんよね。職場でさ。私ちょっとミスったんだけどさ、マナー的なとこでつまずいてて。そしたらさ、とある上司からさ、自分が人間のなかで一番下だと思え、自ずと礼儀が身に付くからーって。あなたのために言ってんだって。笑わせるわ、てめえがそう思ってる分には自由だけどさ。あとさこの前話した女いるじゃん、今度はさあ笑顔が武器だから練習しろって言われたの。鏡見て。どんなに嫌なことがあっても笑えるようにしなさいとさ。どいつもこいつも、人間やめろって言いてーのか? まあいいの。私も言葉遣いとか態度とか、あいつらからすりゃ、なってないからしょうがないの」 男女、しばらく黙っている 男「いや、お前は絶対間違ってないよ。なんか、それしか俺からは言えないけど。ビジネスなんかくそくらえだよ。そう思うよな」 女「あーあ。早く仕事やめたいな。来週辺り死ぬわ」 男「やめろよ。お前の分まで生きなきゃいけなくなるだろ。俺長生きしたくないんだよ」 女「キモい」 電車の中で男女が談笑している。 女「猫とか駐車場にいるじゃん。急に石とか投げんの好きなの。たまにあたっちゃうけど。あ、タマにじゃないよ」 男「いやお前、違うって」 女「そういえばさー聞いてよ、こんなん言われたんよね。職場でさ。私ちょっとミスったんだけどさ、マナー的なとこでつまずいてて。そしたらさ、とある上司からさ、自分が人間のなかで一番下だと思え、自ずと礼儀が身に付くからーって。あなたのために言ってんだって。笑わせるわ、てめえがそう思ってる分には自由だけどさ。あとさこの前話した女いるじゃん、今度はさあ笑顔が武器だから練習しろって言われたの。鏡見て。どんなに嫌なことがあっても笑えるようにしなさいとさ。どいつもこいつも、人間やめろって言いてーのか? まあいいの。私も言葉遣いとか態度とか、あいつらからすりゃ、なってないからしょうがないの」 男女、しばらく黙っている 男「いや、お前は絶対間違ってないよ。なんか、それしか俺からは言えないけど。ビジネスなんかくそくらえだよ。そう思うよな」 女「あーあ。早く仕事やめたいな。来週辺り死ぬわ」 男「やめろよ。お前の分まで生きなきゃいけなくなるだろ。俺長生きしたくないんだよ」 女「キモい」 男「ねーなんでいっつもいやがるの」 女「髪の毛触られたくないの! 昔ね、髪つかまれて壁にガンガンやられたから。親と思ってないしマジ殺すって思ってるから」 男「ひどいな」 女「ね。私ひどいよね。そのせいかさー私、これそんな言えないけど、猫とか駐車場にいるじゃん。急に石とか投げんの好きなの。たまにあたっちゃうけど。あ、タマにじゃないよ」 男「いやお前、違うって」 女「そういえばさー聞いてよ、……」 ○池袋の展望台にて 女「……」 男「でもやっぱきれいだよね」 女「……」 男「そうじゃなくてきれいだよね」 僕は会議室の無機質な明かりが 集合したみたいな地上の星を想像して 死んでもいいと思って なにも死ぬことないやと思って 浮いたり沈んだりを繰り返して なんとか自分の部屋の電気を つけに帰ったりしてた
うそのはなし ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 901.0
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2018-04-14
コメント日時 2018-04-27
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
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音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんばんはよろしくおねがいします。 タイトルが「うそのはなし」なのに妙に現実味がありまして というのも先日こんな感じで愚痴る彼女になだめる彼氏を見かけましたものですから おもわず「嘘じゃないですよ、ほんまにいますよ」と身を乗り出しました そして死をチラつかせ男の気を引き猫に残酷な仕打ちをしてそれをも正当化するかの如く あっけらかんとした面持ち 最初と最後の場面に出る「僕」がこの世界の救世主のように映りました。
0投稿ありがとうございます。僕の語りが今まで読んだことがあまりない文体に私には思え新鮮でした。なんだろうか、含みがあるようで無為な感じ。直喩な言い回しなようで、そうでない感じ。そんなミラクルな気分で読んでたら突然現れる会話の展開。 不思議でした。良い意味で特異なものを感じました。
0コメントありがとうございます。返信遅くなってすみません。 突然現れて変なもの投稿してしまったからだれにもコメントもらえないと思っていたので、感謝感激してしまいました。 李沙英さん 本当にいる、と感じていただけて嬉しいです。 女の子についてですが「人間やめろっていいてーのか」には少し同情してしまう自分がいて、でもそのあと、その子は猫に石を投げるような子だとわかったら手のひらを返してしまうと思います。そして、今度はそれが親の暴力のせいだとわかったら、また翻って憐れみをもって見てしまう気がして、同じ会話を三回書きました。 三浦⌘∂admin∂⌘果実さん ありがとうございます。どこにもたどりつかないように書くとこんな文体になります。 悲しいことを悲しいと書くのは避けつつ、あくまで人間味みたいなものを捨て去りたくなかったのですが、どう感じていただけたでしょうか。 重ねてありがとうございました。
0今週初めに読んですぐ、これは高度な工夫が凝らされた作品だと思いました。書き手は演劇や映像に通じた方ではないかと想像しています。ぜひきちんと批評を書かねばと思っているのですが、日々忙しく、今夜も先程職場を離れたばかりです。
0会話の展開、この膨らませ方がすごく斬新だと思いました。 ○池袋の展望台にて 冒頭部分が会話になってない会話をしている人物の思考だった、ということが分かる部分でこの詩に引き込まれました。この場面の切り取り方もまた斬新に思います。 最後の語り手が自宅へ帰るときの描写も、相手の女性との(デートでしょうか?)微妙な結果を感じさせられます。 詩とされることによって、実在・非実在に拘わらず人物の思考を読まされて、それによって読み手である自分の変化がころころ変わってしまう、そこを楽しむ詩なのだと思いました。
0またしてもコメントがつくとは……みなさんの作品にもコメントさせていただきます、ありがとうございます 原口昇平さん お知らせくださり、ありがとうございます。 お時間あるときにぜひ、お手柔らかにお願いいたします。 社町 迅さん 詳しく分析してくださり、ありがとうございます。ご感想を読んだ感じだと、やりたかったことが意外とできていたかも知れません。 私の想像を越える読み方をする方と出会ったときも嬉しいですが、自分の狙いみたいなものをなぞってくださる方がいるのもまた嬉しいものですね。 重ね重ねありがとうございました。
0「僕のためにある光」 「あちこちに光が蔓延して 夜景とかはちょっとした皮膚病っぽくて」 「僕は光になりたくて どうぞ僕を使ってくださいと思うけど」 「手の届かないチラチラしてるような光が好きだから 僕の眼のなかにそれを宿していたいとは思います」 この冒頭のモノローグの部分、光が実景になり、比喩になり、願望になる。 この変換がとても心地よいと思いました。
0光を当てることと、その限界。それがこの詩を読み解くカギです。 実際、語り手が人工光の意味に気づくところからこの詩は語り始められています。第一連で「僕」は、作業用の「シェードランプ」を見ているうちに、あらゆる人工光が誰かによって何らかの目的で設置され、点灯されているという事実に改めて気づきます。「やたら明るい夜道」「知らない窓の向こう側にある光」が「変に懐かしく見えてた」のは、きっと誰でもない誰かに見守られているかように感じたり、誰かは分からない誰かの生を照らすものを家庭の記憶に結びつけたりしているからではないでしょうか。 第二連では語り手はしかし光に孤独な距離を取ります。実際、そのように群がる照明を懐かしがるどころか、まるで病のようだとも感じていることを、括弧書きのなかで打ち明けています。語り手は、すぐにそれを括弧なしの文で打ち消すほど、人の世をはっきり否定して平然としていられるような厭世家ではありませんが、それでもまるで誰かの機嫌を取るかにように「きれいだよね」と言いながら本音を隠してしまうほど、それなりの分かり合えなさを抱えてもいます。 詩が飛躍を始めるのは第三連です。ここで語り手は自分こそ光になりたいと言うのです。この展開は、若いというよりは青臭いと言わずにはいられませんが、実は同時にこれ以降の助走になっています。注目すべきはこの連最終行の「僕の眼のなかにそれを宿していたいとは思います」です。ここで光と視線が重ね合わされるので、「光になりたい」という「僕」の思いが次の連以降の事実を描き出す営みにつながります。 そういう流れで、第四連以降である会話の描写の試みが繰り返されます。ここでは、語り手がはっきり語らないにせよ、事実への近づき難さが浮き彫りにされています。光の当て方次第でものごとの見方が変わってしまうのです。「女」が職場での抑圧について語るところから開始すると見る人の共感を呼びそうですが、その前に遡って「女」が猫を脅かすことが好きだと打ち明けるところから開始すると見る人に嫌悪を抱かせるかもしれません。さらに遡って「女」がその嗜虐の理由を親から受けた虐待に求めるところから始めると、見る人に割り切れなさが生まれます。第三連の「受けとめる方しかできない」という言明は、語り手が事実をありのままに描くこともうまくできないという事実が露呈することでくじかれています。 この挫折に耐えきれなくなったのか、詩の語り手はこの試行錯誤の後に「光を当てる」こと自体をやめてしまいます。試行を断ち切ったばかりではありません。語り手は第三連では人の世へのネガティブな感情を括弧書きとはいえ言い表しはしていたのに、最後から二つ目の連では何も語らない「女」を勝手に推し量ってしゃべる「男」のセリフにすり替えてその感情を完全に覆い隠してしまいます。 最終連の語りは諦めを漂わせています。とくに最終二行「なんとか自分の部屋の電気を つけに帰ったりしてた」は示唆的です。自ら光になって事実をありのままに照らし出すことに挫折し、せいぜい自分の生活を自分のために照らすことで精一杯だというわけです。最後ににじむこの諦念が、「うそのはなし」というタイトルにはよく反映されているような気がします。これは「うそ」なんだ、はなしの内容は光の当て方(事実をどう切り取るか)で変わってしまうから……語り手はどうやらそんなふうに言いたげに見えます。 まとめると、この詩は、技法としては途中で演劇や映像のシナリオの文体を巧みに活用しながら、テーマとしては光=視座を軸に事実への近づき難さと「僕」の敗北を語っています。かなり工夫が凝らされた作品であり、その注力ぶりには書き手の静かな熱を感じます。 しかしそれでも、私は書き手というよりは語り手の姿勢に違和感を覚えます。語り手は、繰り返される会話の試行の外に立って、自分は見られることがなく登場人物から傷つけられることもない安全な場所にいながら、「女」と「男」をわれわれ読者のような物見高い観客の視線にさらしています。第三連の「見ていてもなんにもできない」という言葉は、安全なところから見るだけ見て何もしないという先回りの言い訳に過ぎなかったのではないでしょうか。 私は、事実をありのままに描くことは困難だということを認めますが、しかし事実は描写次第で無限に変化するとは考えません。事実に迫るための手がかりは有限だからです。そして語り手の身の引き方にも共感しません。私は、ドキュメンタリーにせよ歴史記述にせよ創作にせよ、事実の描写に触れていくときに、その事実そのものに興味を持っているのは言うまでもありませんが、しかしそれ以上にその光の当て方から分かる語り手の思想により大きな関心を抱いています。どの手がかりに重きを置いて事実を描写するかということは、最終的には描写する者の良心の問題です。だからこそ、その良心に基づく決断にこそ、読む側にとっての価値があるのです。事実はどうだったかという問いは法廷にとって重要です。しかし事実はどうだったとあなたは考えるのかという問いのほうが、文学や芸術の営みにとってははるかに重要なのではないでしょうか。 私は以上のような疑問を抱かずにはいられませんがが、それでも本作は間違いなく非常に巧みに構成された一篇だといえるでしょう。次の作品を読ませていただける日を心待ちにしています。
0ありがとうございます。 他の方の作品になかなか感想を書けず申し訳ありません。 まりもさん 自分でもなんとなく心地よさを感じて残していた部分ですが、その理由は変換にあったのですね。気づきませんでした。 ありがとうございます。 原口昇平さん お待ちしておりました。 ここまで詳細に読み解いていただき、ありがとうございます。 驚きなのは、最初コメントを頂いたときどうも過大評価を受けているのではと少し心配していたのに、下さった批評は余すところなく諸々の意図を汲んでくださった上で拡大解釈も全くなかったことです。 この作品は敗北を語っていますが、おっしゃる通り語り手には良心が欠けています。 女を光で照らさないから、照らし返してもらえず、孤独で無力なのです。 こういう無力感によく出会ってきたため、私自身にも経験があることから、身近に感じて書きました。 この作品と「僕」に光を当ててくださってありがとうございました。 一生こんなことは言い続けられないでしょうから、「僕」もそのうち気づくと思います。
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