手枷 ――「幸」字解 - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

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きょこち(久遠恭子)

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きょこち(久遠恭子)

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二酸化窒素

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手枷 ――「幸」字解    

私たちはその姿を幸せと呼んだ、 両腕を左右に広げ 一方の手を母と もう一方を父とつないで 二人の間にぶら下がり 夕暮れの歩道に引きずられながら 笑い声をあげる華奢な肢体を たとえば今、赤とんぼが一頭 不意に目の前を横切り 道端のガードレールに留まった、 その煌めく透明の翅を欲したとしても 囚われの身である以上 勝手に立ち止まることは許されない 泣きながら引きずられていく華奢な肢体が それでも振り払うことなど思いもよらない あたたかな枷 いつかそこから解き放たれたとき 空いた両手に何を入れたらいいだろう ハイブランドのクラッチバッグ、 格安SIMのスマートフォン、 あるいは自分よりも小さな手 徒手でいることの恐怖に比べれば 何であれマシには違いないから ポケットの中の冷たい自由は 指先が凍てつく前に コンビニ前のゴミ箱にでも捨てていくとして 夕暮れの歩道にもう父母の姿はなくても 両腕を左右に広げ 一方の手を愛する者に もう一方を欲する物に 繋がれて その間にぶら下がり どこへともなく引きずられて行く、 私たちはその形を幸いと読んだ    初出 「詩と思想」2017年6月号


手枷 ――「幸」字解 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 15
P V 数 : 941.2
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2018-04-12
コメント日時 2018-04-22
項目全期間(2024/11/21現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
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閲覧指数:941.2
2024/11/21 19時43分30秒現在
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    作品に書かれた推薦文

手枷 ――「幸」字解 コメントセクション

コメント数(15)
李沙英
(2018-04-16)

こんばんはよろしくおねがいします。 一節目、あたたかで理想的な幸せの形で それが自信が焦がれている形であったから泣けました こうやって詩は時に人の心の一番弱いトコにスッと入り込んでくるんですよね 不思議なことに 子供が成長し新たな幸せの形を築く 年頃の子供達が思い浮かびました。

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まりも
(2018-04-17)

字解シリーズ、ですね。 重すぎる「愛」もまた、執着であり、枷である、とは言いますが・・・ それでは、あらゆる枷、から自由になって、人は地上に留まっていられるのか。 ふわふわと浮き上がり、流されて行ってしまうかもしれません。 幸、この字を、両手をひろげた子供の姿、と見立てたのでしょうか。 クリスチャンの方が、ふたつの十字に貼り付けられた人のように見えて、好きではない、 とボソッと語ったことがあって、なかなか強烈なタトエだったので、よく覚えています。 しあわせ、と読めば、仕合せ、めぐり合わせのこと。さきわい、と読めば、先を祝う、前もって言祝ぐこと。今の幸福をしあわせ、これからの幸せを願うことを幸い、というのだと、そう、思っています。

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さしみ
(2018-04-17)

とてもあたたかい詩だと感じました。心にじわじわと染み渡っていく感じです。たまに歩いていてふと感じる寂しさと幸せさを思い出させてくれます。

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二条千河
(2018-04-19)

>李沙英さん コメントありがとうございます! 私はひねくれ者なので、ありがちな「幸せ」のイメージに縛られてしまうのは、実は「不幸せ」なのではないかと思ってしまいます。 でもそれを疑いなく「幸せ」だと感じている人を否定するつもりはまったくなくて、なんというか、地球上で満足に暮らしている人が「自由」な宇宙空間に出る必要はないのだろうとも思います。 私は真空の宇宙から、地球の子どもたちの幸せを祈りたいと思います^^

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二条千河
(2018-04-19)

>まりもさん コメントありがとうございます! 字解シリーズの、実は第一作目です。「幸」は「手枷」の象形文字で、そのココロは、「死罪にならずに、手枷をかけられるだけの罰で済むなんて幸いだったなあ」という意味なのだそうです。なんてネガティブな幸福感なのでしょう。 そこから「手を繋がれている罪人」(まさに十字架のキリストですね)をイメージし、その姿と現代的な意味で幸せそうな「手を繋いでいる子ども」が重なって、本作が出来上がりました。 「繋がること」と「繋がれること」は紙一重ですが、不自由になるリスクはあってもやはり、誰かと絆を結んでいる方が幸せ。それが社会性動物のサガではないかと思います。

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二条千河
(2018-04-19)

>さしみさん コメントありがとうございます! あたたかい詩という感想を頂くことはまったく想定していなかったので、正直驚きました。おかげさまで、自分の中にも少しは温かい部分があるのかもしれないと、ちょっと安心しました。 ちなみに私は手ぶらで歩くのが心もとなく、荷物がない時はポケットの中に手を突っ込んで鍵などを握りしめています。…ええと、そういう寂しさの話ではない、ですよね。

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三浦果実
(2018-04-19)

投稿ありがとうございます。家族=幸福というものが戦後の昭和にはあったと思うのです。少なくとも私は小学校ぐらいまでは実感としてありました。自分史の中でそれは懐かしい記憶となりそして、喪失感として今はあります。本作をよんで、その懐かさに触れた気分になり、また喪失感としての負の作用で済ませてはならない、現在進行形としての願望を私のなかから呼び起こすものとして読めました。本作で書かれていらっしゃるところの父母は私の亡くなった両親でもあり、愛するものと欲望の間で葛藤する自分の今の日常における心象でもある。 読んで良かったです。

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二条千河
(2018-04-20)

>三浦⌘∂admin∂⌘果実さん コメントありがとうございます! いつも運営お疲れさまです。 幸せのカタチというものは十人十色ですが、同時代の多くの人に共有されるイメージというものは確かにあって、第一連で描いたような情景は(特に戦後の昭和では、まさしく)その典型でしょう。 私自身にはこのような思い出はなく、だからといって不幸せでもありませんでしたが、よそで子どもが両親と手を繋いではしゃいでいるのを見れば、やはり「幸せそうだなあ」と思います。 ただ、その手を離す時は必ず来ますね。離した後、成長した子どもは代わりに何を手にとるか……大抵ろくでもないものだったりしますが(笑) ご自身の体験と重ね合わせてお読みいただいて、とても嬉しいです。ありがとうございました。

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るるりら
(2018-04-21)

おはようございます。 わたしも 今思えば「幸」という文字の字解の詩を書いたことがあります。 わたしの場合は、わたし自身の名前に「幸」という字があるから書きたくなったのですが、 私の場合も、やはり「幸」の字のシンメトリーな字姿をモチーフとして描きました。 世の中バランスよね~肩甲骨だって ふたつだしぃ~みたいなライトな詩で なんということもない詩だったのですが、この詩の場合は自立した大人が立ち上がってきます。 私も 両親に両手を握られて道を歩いた経験があるので懐かしいです。かけがえのない幼児体験ですよね。人格が形成されるうえでも なにか重要な意味のあった気もします。 冒頭一行目で ≫私たちはその姿を幸せと呼んだ、 と がつんと幸せの明示がありますね。きっと 該当しない方々も居らっしゃるに違いないと 感じました。 一方の手を愛する者に繋がれてもう一方を欲する物に繋がれることを、幸せと呼ぶ人たちに わたしも該当しています。が、なんだか私自身をある種のカテゴライズしてしまえた時点で、これって、怖い詩だと思いました。幸福とは何かを限定した時点で、そうでない方々の存在に気づかされたからです。 なんだか、とりとめのない感想で すみません。

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るるりら
(2018-04-21)

二条千河さんには このような思い出はお持ちではないのですね。失礼なことを書いてしまいました。

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るるりら
(2018-04-21)

再度 失礼いたします。あたらめて「幸」という漢字の成り立ちを検索にかけてみましたところ 手枷の象形でこの字が成り立っていることを確認しました。わたしは知らずにコメントを書いてしまいました。無学を恥じるばかりです。 「幸」という文字は、手枷をはめられることを免れた象形であるとか。 手枷くらいの罰ですんだ事に対しての幸せである。だとかという 検索結果がでてまいりました。 辛いという字のほうが意味合いとしては適切であるのが、「幸」という字なのだなーと思った次第です。 おかげ様で、勉強させていただけました。ありがとうございます。

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二条千河
(2018-04-21)

>るるりらさん コメントありがとうございます! 特に失礼とは感じませんでしたよ。 本作にはちょっと誤解を招きやすいところがあって、たとえば第一連だけをさらっと読んで「両親と子どもが手を繋いで歩くような家庭って幸せだよね(≒そうじゃない家庭の人は可哀そうだよね)」みたいな無邪気な暴論を吐いているかのように勘違いして、不快に思われる方もいらっしゃるかもしれない。だとしたら、むしろ私こそ、紛らわしいものを書いたことを謝らなければいけません。 その子どもを囚人と重ね合わせているあたりで、そう単純な話でないことはおわかりいただけるかと思うのですが……冒頭で誤解されたら、そこまで読んでいただけないかもしれませんしね……。 ちなみに私、子ども時代にこうした「幸せ」(あえて括弧書き)な思い出はないのですが、シングルマザーの友人と一緒に、その娘さんを間に挟んで手を繋ぎ、公園を散歩した思い出ならあります。 るるりらさんのおっしゃる通り、「幸せ」をひとつに規定してしまうと、そこから外れる人を「不幸せ」と呼ばなければいけなくなります。だから友人の娘さんのことを、「可哀そうな子」と呼ぶ人はきっといる。でも私は、そう呼んでしまう人の方こそ(李沙英さんへのレスに書いたような意味で)不幸せなのではないかと思ってしまいます。 すみません、やや作品から離れたお話になりました。 「怖い詩」というのは、私も同感です。ただ私の感じているのは、るるりらさんのおっしゃる怖さとは、ちょっと違うかもしれないなあ、とも思います。

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二条千河
(2018-04-21)

>るるりらさん あ、行き違いましたね。コメント追加、ありがとうございます。 私の字解シリーズは、漢字の成り立ちから詩を書くというマニアックなコンセプトでやっております。言葉遊びみたいなものですので、あまり種明かしをするのもどうかと思うのですが、もしも制作過程に興味がおありでしたら、まりもさんへのレスをご覧ください。 幸せという字は辛いという字に似ている、というような内容の歌詞を、中島みゆきが書いていたとかいないとか。 幸せって、やっぱり怖いですね。

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るるりら
(2018-04-21)

まりもさんへのレス、拝見しました。ありがとうございます。

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二条千河
(2018-04-22)

>るるりらさん なんだかいろいろお手数をおかけしてすみません; 「元ネタを知らなくても楽しめる、知ったらさらに楽しめる、一篇で二度おいしい」ものを書きたいと常々思っているのですが、まだまだ力不足で……。もっと精進したいと思います。

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