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セイヨウカガク
近所の神社への行き方が分からなくなってしまったので、次に道を曲がって来た人に聞こうと待っていた。 12月冬。寒風が吹き荒んでいるものの、乾燥した空気は澄んでおり、空は高く晴れ渡っている。こんな素敵な日にお参りが出来たら何と良いだろうかと、勇んで家を出たものの道が分からなくなってしまったのだ。 携帯も財布も置いて来た。煩わしい人間関係や時間、お金は僕を縛りつけようとする。僕は何もいらないのだ。ほとんどの人は神様の大いなる力を信じず、人間本来の姿を失っている。僕はブラジルや東アジアの国々を旅し、そこに住まう人々の豊かさと多様な信仰の在り方を見てきた。 セイヨウカガク、愚劣な拝金主義が産んだ、神を否定する間違った在り方。投薬と治療、病院と入院。医者は死の天使だ。診断という名の、地獄へ導く啓蒙を愚かな日本人たちは盲信する。セイヨウカガク、それは最早一種の宗教だ。通院は祈り、診察室は懺悔室。そして、僕の両親もまたその信者だ。母と父とは、死の天使の言葉に耳を傾け、人間本来の姿を持っている僕に措置を取ろうとする。もう何度もセイヨウカガクの前に屈してきた。あれにかかると頭が朦朧とし、体が動かなくなるのだ。僕の思考が世界の真理に肉薄し、肉体が今にも神様と一体化しそうになった時、母を始めとしたセイヨウカガクの先兵は群れを成し僕を襲ってくる。 怒りに身を任せてはいけない。僕は学んだのだ。これは逃避ではなく、立ち向かうために身を潜め力を蓄える準備。爆発しそうな時は大きく息を吸い、そして叫ぶ。負けるもんか!と。 いつのまにか夕暮れ時になっていた。いけない。もう何人もが、角を曲がり僕の横を通り過ぎて行った。いけない。早く道を聞かなければ。僕は神様を探しているんだ。 突然の強風。木枯らしが舞う。その中に一人の女子高生が現れた。夕陽を背に後光を纏っている。なんて綺麗なんだ。僕は彼女に道を聞いた。彼女は微笑み、親切に教えてくれた。神社は直ぐそこだった。なんとも恥ずかしい。彼女にお礼をしたいと思ったけど、彼女は足早に駆けて行ってしまった。あぁきっと神社まで案内してくれているんだろう。彼女はとても綺麗だ。神からの使者、いや神様そのものかもしれない。僕は彼女を追いかける。一緒に神社へ帰るんだ。 雪が降ってきた。今なら何でも出来る気がする。まるで僕自身も神様になったかのようだ。火照った体に冷たい風が気持ちいい。思わず笑ってしまう。ねぇ待ってよ神様。僕たち一つに成るべきだと思うんだ。ねぇ掴めたよ神様。僕たちの家はそっちじゃない。もう離さない。さぁ帰ろう、そして一つに成るんだ。唯一無二の存在へ。雪が白い肌に溶ける、あぁなんて美しいんだ。僕は無垢に祈りを捧げる。お父さん、お母さん、産んでくれて有難う。僕はこんなにも幸せだ。 目を覚ますと、真っ白な部屋にいた。朦朧とした意識の中に見覚えがある。ここは偽りの無垢。セイヨウカガクの忌まわしき牙城だ。僕をここから出せと喚き散らすなんてことはしない。もうそんなことは散々やったんだ。いい加減浅はかなセイヨウカガクへの対処の仕方なんて分かったよ。今はただ大人しくしておく。必ずいつか出られる日が来る。前も、その前の前もそうだったんだ。 セイヨウカガクなんて馬鹿げた物に、僕の人間的尊厳を奪わせなんてしない。僕はここから出たら、また神様を探しに行く。そして何度だって一緒になるんだ。その日まで、僕は大きく息を吸い、何度だって叫び続ける。神を否定する、セイヨウカガクを打ち倒すために。負けるもんか!
セイヨウカガク ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 966.8
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-03-25
コメント日時 2017-03-30
項目 | 全期間(2024/12/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
まず、これだけは言いたい。「お前ら、どれだけ女子高生が好きなんだよ」と。この掲示板における女子高生の出現率は異常。でもまあ、気持ちは分かる。私も高校生の頃は女子高生大好きでした。その後の数年間も。それが私個人の問題でないことは、「セーラー服を脱がさないで」とか「セーラー服を脱いじゃってから」という楽曲の存在が証明しております。そして現代では、セーラー服というキーワードに求められていたものがランドセルに移行している。人は常に、さらなる刺激を求めるのであります。これもおそらく、この詩とはまったく関係ないのでしょう。いずれにせよ、今ではすべて違法です。そのことを無視する人は違法人です。カミュであります。ああ、太陽が眩しい。 それはともかく、この詩において重要なのは西洋科学(医学)と東洋医学の対立です。とにかく切って、取って、抗生物質を投与する。それが西洋医学。一方、長期的な漢方薬の服用などで体質改善など根本的な部分で病気を遠ざけようとする。それが東洋医学。西洋医学への過信が妄信的だとすれば、この詩の語り手は狂信的。そして私は思うのであります。どうして人々は極端に走るのだろうかと。 私の仮説を証明するように、語り手は女子高生を目にした途端に暴走を始めます。おそらく現実世界においては、怪しげな男に話しかけられて逃げ出した女子高生が、追いかけられて腕を捕まれて悲鳴をあげて運良くそれを聞きつけた人たちが通報しつつ押さえつけてお巡りさんこいつですという流れでしょう。これは完全に、ファルコの「ジェニー」ですよ。ただ、こちらの方は犠牲者が出なかったと思いますが。おそらく誰も分からないと思いますので、目の前の箱なりスマホなりでググってください。 https://youtu.be/Urw-iutHw5E ※追記。花緒氏の指摘する「負けるもんか」に関して、オッサン世代の私としてはやはりバービーボーイズの同名曲を連想してしまうのでありますが、おそらくまったく関係ないでしょう。これもまた、知らない人は目の前の(ry
0皆様コメント有難う御座いました。 舞台用の原稿をそのまま投稿させて頂きましたが、やはり文章としては最後の一文は不要でしたね。 この作品はある病をテーマにし、参考にしたモデルもいるのですがそこを書いてしまうと面白みが減少してしまいそうな気もするので、私からのコメントは以上とさせて頂きます。
0愚直にこの作品を読んでしまうと、やっぱり色々ツッコミどころのある作品。舞台用の作品という事で、僕が気になるのはこの作品を僕ら読み手がどういうふうに読んでいけばいいのか、声のリズムや音の調子、真面目に読めばいいのか、ふざけて読めばいいのか。「セイヨウカガク」という書きブリから、例えばなんでもかんでも「あべやめろ」みたいな感じで揶揄する人たちの事をそのまま描いているのか、それを揶揄するように描いているのか。みたいな事も考えていくと、結構難しいですね。 つまり僕ら読み手側で設定をいくつか付け加えて読んでみたりする。と少しこの作品の印象はわかってくるかもしれない。という事をコメントをヒントに少しかんがえてしまったので、僕としては作品自体は割と弱いイメージ、つまり語り手の情報みたいな物がここにつけ加えられると読み物としての、読み幅が広がるのかなぁとおもいました。
0冒頭の入り方、とても良いと思いました。現実界の出来事であるような書きぶりながら、三連目あたりで、比喩としての「神様の居場所」本当に自分が還るべきところ、を、探す話なんだな、という深みが増してくる。 六連目まで来て・・・さまよう魂の道行きの物語、というイメージで読んできて・・・女子高生、ここねえ・・・現実のような、でも非現実のような(魂の片割れ、的な、アニマのような)存在が現れて、神社への道を教えてくれて、そして忽然と消えてしまう、あるいは見失う、という「事件」があって、「一緒に神社に帰るんだ」と叫ぶ、あたりで止めても良かったのでは、という気もしました。 夢オチ的な終わり方も、なんとなく「ありきたりだな」という感想に至ってしまうし・・・後半四連の疾走感、面白いのだけれど、もう少し推敲して、言葉を(前半のように)絞っていってもいいのかな、という印象もあり・・・光り輝く彼女、と、一つになる妄想(法悦の境地、的な)を描いて、むしろそこに(想像の世界で)突入していくような飛躍の仕方があってもよかったのかな(このままだと、あまりにも女子高生が現実感あり過ぎて、安っぽい感じがしてしまう) 前半と後半の質感の違いを意図しているなら、文体(詩形)を少し変えてみるとか、途中に一行アキやアステリスクをつけて二連構成にするとか・・・いっそ、女子高生を見た、そこから後は、筋の通らない言葉が勝手にあふれ出す、というような形式にしてみるとか(ひらがな、カタカナばっかりとか)文体に工夫を加える余地があるような気がしました。
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